第7章 星降る夜 4
いざなわれ、外にでた。そこでシーははたっと立ち止まった。
「わあー!」
シーは口を大きく開け、夜空を見上げた。
星が、ふっている。
「見せたかったの、これなんだ」
隣で、サンがいう。腕をひっぱられ、海の側まで行く。そこで、二人は砂浜にねっころがった。腕を広げ、空を仰ぎ、海に身をよせ。
「きれいだ」
「うん。きれい」
星屑が、真っ黒にぱっとまぶされている。その中にぼうっぼうっと星が灯る。光の尾をたなびき、それは落ちてゆく。海にしゅっと、その灯(ひ)を失う。
何度も、何度も、流れ星は天を翔けた。二人はその莫大な宇宙に、圧倒されるばかりだった。
「きれいだな」
サンがまた呟く。
ねえ、とシーは呼びかける。
「今日はありがとう。連れてきてくれて。とっても、楽しかった。
見たことないものばっかりで、ああ、世界って広いなー、って感じるんだ。私たちって、小さな存在なんだね。なんか、悩み事なんて、たった一つの島が沈むことなんて、ちっぽけなことなんだな、って思っちゃった」
シーは寂しい気がしてきた。
「だから俺たちはもがくんだ。ちっぽけな存在だから、大きな存在にあらがうんだ。それが生きてる証だ」
サンは小声ながら、はっきりと言った。
きらきらと一番星が空の真ん中で輝いている。あの星を、いつか見たような気がした。遠い昔、誰かと一緒に。
「……そうだね」
力の抜けた体を、シーはぐーんとのばした。あきらめるな、そう自分にかつをいれて。
すると、サンも砂浜の上に大きく体を広げる。
「よーし、遊ぶぞ!」
すぐに立ち上がり、シーの手をつかんだ。
「シー、泳ごうよ」
「ええっ」
サンに腕をひっぱられた拍子に海につかりこんだ。
「あそぼうよ!」
スピンも来て、波しぶきを立てる。
久しぶりだ。海の感触は。波の手触り、水の音。泡がはじける。一瞬、悪夢がよみがえった。肝が冷え、おぼれかける。
シーの手をつかんだサンの手。
シーは不思議と、海の恐怖心が徐々にきえてゆくのを感じた。手が、現実にとどめてくれた。もう怖くない、安心しろ。そう伝えられるように。
「ぼくにもつかまって!」
もう片方、左手もつかまれる。いや、さすられた。
(スピンだ)
つるつるしてて、でも暖かい。シーは思いきって泳ぎだした。ぐんぐんと、手を大きくかいた。すぐに感覚は呼び覚まされる。
シーはいつのまにか一人で泳げていた。
(泳げた!……気持ちいい。最高!)
そのうち、サンがすっとばし、スピンもその後をおいかけていった。二人は競争し始める。シーも負けじとがんばってついていった。
夜の終わりまで、二人と一匹は遊んだ。ちょっかいだしながら泳いで、砂浜でおいかけっこして、海にとびこんで、それからただ水の上に浮かんでみて。そうして二人は、めいっぱい遊んだ。
夜が明けていって、最後の流れ星が海にふりおちた。
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