第7章 星降る夜 2

サンのオンボロ船にゆられ、連れてこられたのはある小さな島だった。

「ついたよ」

 砂浜を素足のままおりる。ひやっと海の水が冷たい。水からあがると、まだまだ砂は暖められたままだった。

「わあー、きれい」

 やけに明るいのはこのせいだ。頭上に満天の星が広がっている。それは円を描く岩に囲まれ、望遠鏡で星をのぞきこんだかのようだった。

 その光景に、ふとなつかしさを覚えていた時、久しぶりのあの鳴き声が聞こえてきた。水辺をふりかえると、水のあわただしい音の数秒後、華麗にイルカのシルエットが宙返りをした。

「スピン!」

 こっちまで飛んできたしぶきにシーの心はうきうきした。スピンが水面から顔をだす。手をばたばた動かして、あの独特な笑顔でシーを迎える。

「久しぶり、スピン。けがは治った?」

 シーはスピンの頭をよしよしとなでてやった。するとスピンはぴょんとその場で跳ねた。

「大丈夫さ。もう宙返りだって、できるんだから。ねえ、見た? すごいでしょ!」

「俺はスピンの言葉わかんなちけど、どうせ自慢だろ。こいつ強がってるけど、まだまだ療養中。傷がけっこう深かったみたいで、たまに痛がってる。けど、命が助かってくれただけよかった」

 船を岩陰にしまったサンがやってきて言う。それから海に小魚を放る。スピンはキラキラした目でそれをむしゃむしゃ食う。

「ここって、二人の秘密基地?」

 そう聞くと、サンはうなずいた。

「ああ、俺たちの隠れ家だ。普段はここを拠点にして、色々なところへ行ってる」

「色々なとこ?」

 聞いてみると、サンは奥の方を指さして言った。

「ちょっと来てくれ。見せたいものがあるんだ」

 ついていくと、ただの岩壁だと思っていた一カ所に木扉があった。すっとサンがその扉をあけると、蜂蜜色のとろけるような光が漏れてきた。

「どうぞ」

 ドアの側にたち、サンはシーを招き入れる。

「おじゃまします」

 そこは暖かみのある部屋だった。中央に長机があり、その上には紙やら食器やら、物であふれている。ドーム型の部屋で、頭上にはランプに火が灯されてとても明るい。壁には船の種類が絵とともに描かれた額や地図。直に星の絵が壁中を埋めつくしている。

 一瞬でシーはこの部屋を気に入った。同時にほっとした気分になった。

「私好きだわ、この部屋。絵がたくさん。こんな部屋に住むのが憧れだったの」

「でも片づいてないとこはおそろいだろ」

「ひどいわ。片づける暇がないだけよ。……これは何?」

 机上にあるものはシーにとっては真新しいものばかりで、どれも気になる。その一つを手に取る。拳ほどの石に宝石がはめこまれている。

「それはフエンの置物。この目のところがおもしろいだろ」

 宝石の所が目ん玉らしい。

「フエン。それって外国の?」

「ああ。ここにあるものはぜーんぶ、いろんな国から集めたものだ」 

 サンは大きく手を広げて言う。

「じゃあじゃあ、これは?」

 シーは指さして、気になったものを片っ端から聞いてみる。サンは快くその全てを逸話とともに解説してくれた。サンは大仰な仕草で演技をする。その姿がおもしろくて、シーは何度も笑いこけた。そんな時間が楽しくて、幸せだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る