雨ときどき雨

もち米ユウタ

雨ときどき雨

 雨が降る。

 ぽつぽつぽつ。


「こんにちは、晴太くん」


 声を掛けてきたのはいつぞやの女の子。名前は確か野々江留美だったか。僕は話す気がないとそっぽを向いて返事を返す。


「今日も雨が降っていますね」


 言われなくても分かることを彼女はどうしてか嬉しそうに語った。


「今日も雨が止むまで私とお話しませんか?」


 嫌だと声を出せば彼女は諦めてくれるだろうか。いや、初対面で馴れ馴れしく名前を呼んでくる女だ。どうせ断っても勝手に会話が始まるだろう。ならば濡れるのを覚悟でここから離れればいい。

 無言で立ち上がり、小さく息を吸いこむ。


「あれ? どうしたんですか? おトイレですか? 近くにお手洗いはないので我慢してください。あ、でも男の子やんちゃですよね。なるほど、分かりました。後ろを向いているので早めに済ましてくださいね」


 この女は何を言っているのだろうか。呆れてものも言えない。

 さっさとこの場から離れようと意気込んで一歩を踏み出す。

 空からまるで滝のような大粒の雨が降ってきた。


「もぅ、だから言ったじゃないですか。我慢しないとダメですよって」


 逃げること叶わなくなった僕は仕方なくベンチに腰掛ける。

 たった一瞬で衣服がずぶ濡れになって気持ち悪い。もうこのまま濡れて帰るのも手段のひとつだろうが、この雨足にスマホが耐えれるとは思えなかった。

 世の中には防水を過信してスマホの汚れをシャワーで洗う人もいる。

 大人しく雨が止むのを待つしかない。


「ジッとしててくださいね」


 彼女はそういうと徐に立ち上がって僕に近づいてきた。手には真っ白なハンドタオルが握られている。

 断るよりも先に彼女の手が僕の頭に伸びた。


「わしわし。どうですか? 気持ちいいですか?」


 普通に乱暴で痛い。


「まったく晴太くんは甘えん坊さんですね」


 声色が嬉しそうで僕は抵抗せずされるがままでいた。

 どうせ断っても無意味なら、無駄に体力を使いたくない。


「うん、これで大丈夫です」


 満足そうに笑う彼女を見て僕を首を振る。


「そんなことしても水気はもうありません」


 彼女が向かいの席に戻ると、雨足はいつの間にか弱まっていて止みそうな気配すら見せていた。

 あぁ、やっとここから出ていける。

 安堵した息を吐いて彼女に視線を向けた。


「どうかしましたか?」


 首を傾げる彼女に僕は


「雨はまだ止みそうにないね」


 涙雨はもう泣き止みかけている。


「ふふっ、そうですね。じゃあ晴太くんに質問です」


 野々江は朗らかに笑いながら


「私のこと好きですか?」


 ぽつぽつぽつ。

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雨ときどき雨 もち米ユウタ @mochi0410_yuuta

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