5-2:魔女のフィルグリフ
「気を付けて、恐らくマザー・ヴィオレッタが来ている
二人に警戒を
入口までの
この辺りは庭先の様だ。
館全体は
カラナとサフィリア、クラルに別れて扉の両側から壁を背にして近づく。
カラナが
――瞬間!
取っ手から雷撃と火花が散り、クラルの腕を
「く……ッ!」
慌てて腕を引っ込めるクラル。
「クラ……ッ!」
声を上げようとしたサフィリアの口を手で
騒げば、ここにいる何者かたちに気付かれる。
ローブの
取っ手を掴んだ手のひらは黒く炭化し、電撃が走った後がミミズ腫れの様に浮き出ていた。
「大丈夫……!?」
サフィリアを小声で心配する。クラルは脂汗を流しながらも微笑んで頷いた。
すぐに
「トラップが仕掛けてあるとは、ここがあたしたちの捜している場所で間違いなさそうね」
クラルが治療をするあいだ、カラナは慎重にツタで覆われた壁を調べる。
すぐにツタの下から青い宝石が埋め込まれたモニュメントが見つかった。
「サフィリア、出番よ!」
「オッケー!」
カラナから場所を譲られたサフィリアは、手にした
彼女の描いた”マギコード”が魔導石に
クラルが治療を終えた丁度その時、扉全体が青く光り、その光も空中に飛び散って消える。
くるりと向き直るサフィリア。
「開いたよ!」
取っ手を掴んで扉を開けようとするサフィリアを制止して――クラルは直ったばかりの右腕で、ゆっくりと扉を奥に開いた。
人一人が入れる隙間を開けて、三人は身体を滑り込ませる。
すぐに扉を閉め、床に
窓がすべて閉じられているせいで館の中は薄暗く、崩れた壁の隙間から外の日差しが差し込む程度の明るさである。
扉の先は、広めのエントランス。
左右に通路があり、向かいの両端には吹き抜けの階段が二階へと続く。その階段の間にも、奥へと続く扉がひとつ。
指で右側の通路を指差し、クラルに様子を探る様に伝える。
カラナはサフィリアを連れ、左の通路へ向かった。
壁伝いに通路に近寄り、覗き込む。
通路は長く左側は窓が並び、右側には客間に続くと思われるドアが並ぶ。
「カラナ!」
サフィリアが小声で呼ぶ。
見ると反対側の通路に入ったクラルが
何か見つけたか?
“彼女”の方へと歩み寄る。
「地下へ続く階段があります」
右の通路を一番奥まで進んで突き当りの左側に地下へと続く階段があった。
館は左右対称なのでもしかするとカラナたちが進んだ方の通路も同じ構造かも知れない。
しかし、先に見つけたのも何かの導きだろう。
「降りてみましょう」
カラナの言葉に
ゆっくりと薄暗い階段を一歩一歩、慎重に降りて行く。
階段はまっすぐに続き、降り切るとこれまたまっすぐの地下通路。
もはや日の光は届かず、数メートル先も見えない。
「向かって左に扉が見えます」
クラルの眼が、暗闇に扉を見つけた様だ。
”彼女”の後に続いて扉の前まで移動する。
古ぼけた木で
入口の
「開けてみて」
カラナの指示に一瞬
ドアの向こうからむわっとした空気と、
永いあいだ、誰も足を踏み入れていない証拠だ。
部屋の中は
壁の棚に大量の本が整然と並んでいる。中央にはテーブルと椅子が無残に崩れ落ちていた。
人の気配は無い様なので、カラナは”
足元に注意しながら本棚に近づく。並べられた本は魔導書の
少なくとも、この部屋にカラナたちを満足させるものはなさそうである。
「他の部屋を当たってみましょう」
「ちょっと待って……!」
カラナを制し、サフィリアが
「何かを感じる……! 近くに何かあるよ」
くるくると周囲を見回すと、彼女はやがて一点に目を止めた。
視線の先には
だが、そこだけ周りの本棚より一段後ろにずれている。
おもむろに近寄り、サフィリアは棚に手をかけてちからを込めた。
本棚全体が横にスライドし、後ろから扉が現れる。
「隠し扉か……!」
「待って、ここにも魔法で封印がかけられてる」
「解除できそう?」
「もちろん!」
頷いてサフィリアは、再び
もはや当たり前の様に、彼女の魔力で扉を封じていた魔力は光となって無散した。
クラルが扉を開け、二人を招き入れる。
「おー! これは怪しいわね」
カラナは
隠された部屋はそこそこ広く、部屋の中央には大きなテーブル。
それ以外にも机やカウンターが置かれ、その上には雑多に、様々な器具や本が
扉を閉め、照明球の明るさを最大限に上げて部屋全体を照らす。
「!」
そこで初めて気が付いたが、ドアの正面の壁に大きな絵がかけられていた。
高級そうな
「これは…………」
サフィリアが近寄って肖像画を見上げる。
描かれている人物は二人。
ひとりはイスに腰かけた白髪の老婆。優し気な笑みを浮かべているが、高貴なローブを
そして、その横に寄り
「クラル……?」
髪の色こそ金髪だが、その顔立ちはクラル――と言うより『ゴーレム』のそれそのものだった。
こちらも穏やかな微笑みを浮かべた姿で描かれている。
その手には人の頭ほどの大きさの銀細工が
「魔女サイザリスは、自分の孫娘をモデルに『ゴーレム』を創ったと言われているわ」
「じゃあ――このおばあさんがサイザリス?」
「そう言うことかしらね――ちょっと待って!」
振り返って、カウンターの上を見やる。
「そこに置いてある置物、この女の子が持っているものじゃないかしら?」
それは確かに同じものだった。
銀の台座と複雑なデザインの彫刻の中に、
この宝石は魔導石だろう。
「……フィルグリフと同じ記録媒体ね」
カラナが手をかざして魔力を感応させる。しかし起動しない。
「ダメ、これも
「サフィリアが見てみるよ」
場所を変わってサフィリアが手をかざす。
やがて魔導石の複雑な結晶構造の奥に一筋の光が生まれ、それは魔導石全体を青く輝かせた。
魔導石から光の粒子が投影され、”フィルグリフ”と同様に文字列のリストを形作る。
「これは当りかもよ! ……見た感じサイザリスの研究記録っぽいわ!」
「どう!? ヴェルデグリスについて書いてありそう?」
サフィリアが思わず顔を近づけて来る。
クラルも興味深そうに逆側から顔を覗かせる。
「結構な項目数ね……。ちょっと待って! ……これって映像記録みたいよ!」
適当な項目を選択し、再生を
魔導石からひと際大きな光が
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