3-4:議事堂の攻防
「魔女が――
にわかに――いや、明らかに議事堂内の空気が変わった。
評議会の誰かが放った言葉を皮切りに、それまで一言も語らずに
ある者は手元の資料に慌ただしく何かを書き始め、またある者は隣同士で何やら語り始める。腕を組んで難しそうな顔で考え込む者もいた――。
サフィリアの言葉は、確実に状況を動かした様だ。
それを、ローザも感じ取っているだろう。こちらを向いたまま、しかしその意識は周囲に向いている事が読み取れた。
にこっと笑ってサフィリアが言葉を続ける。
「だってそうでしょ?
皆が困るのは、
しかしローザも負けない。
「そんなに都合良く行くとは思えません。何よりも、貴女をこの場で
小柄な
「あなたはそれでいいでしょーね! だって、それだけの強さを持っているみたいだし。
でも、他の人はどうかな?」
ローザの表情が
サフィリアは、しっかりとローザのアキレス
「他の人はどう? ヴェルデグリスが破壊出来るなら、そっちの方が良くない?」
ローザから目を離し、
「恐れながら――――」
手を上げながら、重い口を開いたのは、名も知らぬ
「――わたしは
その言葉に、サフィリアがにこっと笑みを浮かべる。対照的にローザの表情は重く硬い。
「だが――、サイザリスの言葉を信じるのは危険ではありませんか?」
反論が出る。これは眼鏡の女の議員。
「しかし、今ここでサイザリスを
「確かにそうだが…それはしっかりと監視していれば良いのでは? 何より本人がその気なのだ――」
ローザとカラナの
だが、ローザはこれを無視出来ない。
共和国の意思決定機関は彼女ではなく、壇上の老人たちだからだ。
「貴方はどう思う、アコナイト様?」
サフィリアに名指しされ、アコナイトが困惑した表情で視線を
重い声で、アコナイトが
「ワシは……ヴェルデグリスが破壊出来るならば、それに賭けるのも悪くないと考える」
「魔女の言葉に耳を傾けてはなりません。
ヴェルデグリスは、未来
声を荒らげるローザ。
「そりゃあ、人間より遥かに寿命が長い
ここでカラナが合いの手を入れる。
「あたしたち人間の寿命なんて百年もないのよ。そう言う心残りを残したまま人生が終わるのを嫌うものなのよ。
「魔女サイザリスよ――」
不意に元老院の一人が声を挟む。
「ヴェルデグリスを破壊する代わりに、
「サフィリアはただ、みんなが怖がっている魔導石を壊せるなら壊したいって思ってるだけだよ!」
にこっと可愛らしい笑みを、その議員に返すサフィリア。
それに
「評議会としては、一定の期間を与えると言う条件で――其方の意見を飲みたい!」
彼らの言葉に笑みを浮かべたのはカラナ。
たった一人でこの劣勢を
後は、女王様の気分次第だが――。
視線をローザに移せば、そこに彼女の姿はなかった。
ふと見れば、いつの間にか自分の椅子に腰かけ、目を伏せている。
場を包んでいた、凍り付くような殺気も消え失せていた。
深い、ため息が聞こえた気がした。
視線を上げ、サフィリアを見るローザ。
「……分かりました。皆の意見を尊重しましょう」
やった!とばかりに手元で小さくガッツポーズを取るサフィリア。背後からクラルの
「しかし、無制限に時を与える訳にはいきません。皆の進言通り、期間を設けます」
「いつまでかな?」
「来月、ちょうどひと月の後、戦勝記念日を迎えます。
それを、現実のものとする為に――その日を期限といたしましょう」
「それでいいよ!」
深々と頭を下げて、サフィリアは
日が差し込む天井を見上げ、ローザは誰に対してでもなく語り続ける。
「この様な事態は、わたくしの眼を持ってしても見通せませんでした。
サイザリス――いえ、サフィリア」
「はい!」
初めてその名で呼ばれ、嬉しそうに答える。
「貴女の想いが
「ありがとうございます!」
ぴしっと敬礼のポーズを決めるサフィリア。彼女を見て、ローザは優し気な微笑みを返した。
「カラナ」
ローザがこちらに視線を移す。
「サフィリアを護っておやりなさい。
分かっているでしょうが……サフィリアの
「言われるまでもないわ」
つい、サフィリアの肩に置いた手にちからがこもる。
痛がる様子で苦笑いするサフィリアだが、カラナは気付かなかった。
「失敗は許されません。竜の血に連なる者として――必ずやその少女を導きなさい」
「分かっています――お
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