あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~
@KASHIMA3508
プロローグ
そして魔女は滅ぼされた
かつて、最恐と呼ばれた魔女がいた。
その名はサイザリス。
魔導人形『ゴーレム』の軍団を操る魔女。
数万、数億を超える『ゴーレム』を操り、共和国に戦いを挑んだその魔女は、ある二人の英雄によって滅ぼされる――。
ことは二十五年前に
その日、テユヴェローズ共和国は、魔女サイザリス率いる『ゴーレム』軍の総攻撃を受けていた。
立ち上る炎が闇夜を照らし、レンガ造りの街並みが崩れ落ちる。
草木は灰となり、広がる海は黒く
山の中腹に
***
「ようこそ。女神ローザ、勇者アコナイト」
行く手を
黒い髪を短くまとめ、朱色のマーカーが
後に、勇者アコナイト、女神ローザと呼ばれる二英雄である。
二人は、導かれるままに、大聖堂の地下に造られた礼拝堂へと足を踏み入れた。
かつて多くの信者が礼拝したのも今はむかし、がらんとした空間が広がる。
天井は高く、それを支える柱の一本もない地下空間。代りに複雑なアーチ構造が支える天井付近に、
「初めまして、お二人さん」
そこに、魔女はいた。
広間の中央。
「お前が……サイザリスか?」
その姿を見た者はいない、と言われる魔女の姿に、アコナイトは声を失った。
ゆっくりと、サイザリスが腰を上げる。
その体つきは、手にした錫杖とは、対照的に小柄だった。
いや――その姿は明らかに子どもだ。
「いかにも。わらわがサイザリスじゃ」
くすっと笑い声を上げる。
その背後の暗闇から一体の『ゴーレム』が彼女を守る様に現れる。
『ゴーレム』は、単身共和国に戦いを挑んだサイザリスが自らの先兵として操る魔導人形だ。黒いローブを身に纏い、
ボブカットに揃えた『ゴーレム』の前髪の
この『ゴーレム』を付き従えているその姿こそ、少女がサイザリスである
「意外だな。お前の様な子どもが、あの
「わらわにとって姿かたちなど意味はない。変えることも戻すことも意のままよ」
「ほう? ならば次はもう少し年上の、俺好みの姿で現れて欲しいものだな!」
「よかろう。 次があればの話じゃがな……!」
からかう様に舌を出し、ケラケラと笑う。
悠々と、二人の勇士に向かって間合いを詰めて行く。
アコナイトが眉をしかめた。
魔女と『ゴーレム』にばかり気がいっていたが、その背後の暗闇に、巨大な球体が浮かんでいることに気が付いた。
「……魔導石!?」
気づいたかな? と言った風に、サイザリスが横目で後ろの結晶体を見やる。
人の身の丈ほどもある無色透明の球体が、音もなく空間に浮かんでいる。
「ローザ、気を付けろ。あの巨大な魔導石。何かあるぞ」
「わかっています」
サイザリスがその細い指を、パチン! とならす。
「さて、役者がそろったところで始めようではないか」
「!?」
魔導石の背後の闇が
それらはぎょろりと一斉にアコナイトたちを
闇の中から、『ゴーレム』がニタニタと笑いを作って
一様に同じ顔をした少女の群れ。
「一気に片を付けます!」
ローザの甲高い叫びとともに、膨大な魔力が彼女の身体を包み込む!
手のひらを突き出すと同時に、サイザリスのいる空間が
魔女は
ローザは本気だ。
サイザリスに何かを仕掛ける
そのローザが、天井高くまで
空間を照らす"
アコナイトは、裏を突く
生じた炎の中に、魔女の姿を認める! その顔は滞空したローザを追っていた。
無防備になったサイザリスの下段から、
が……!
「!」
魔女は、こちらに
「ふむ。勇者と呼ばれるにはちと力不足ではないかな、アコナイト?」
こんな
「まずいッ!?」
錫杖を中心とした超低温の空間が広がり、アコナイトの身体が巨大な氷塊に飲み込まれて行く!
「そこで
一度も、アコナイトに眼を向ける事なく、サイザリスの視線はローザに集中する。
空に舞ったローザは、サイザリスの頭上を取っていた。
高々と
魔力の塊が不可視の弾丸となって解き放たれる。
目には映らないが分かる。この空間を焼き尽くすほどのエネルギーの塊が、サイザリスに突進する!
「わらわごとアコナイトまで焼き尽くそうと言うのか!」
叫ぶサイザリス!
錫杖を振りかざし、先端に生じた"
サイザリスが身をかわし、錫杖の動きに合わせてローザの攻撃はあらぬ方向へ弾き飛ばされる――かと思われたが、その軌道が不規則に変わる!
制御を失った魔力が、軌跡を残して鎮座していた巨大な魔導石に吸収された!
「何ですって!?」
エネルギー弾を放ったままの姿勢で驚愕するローザ。既に魔力を放ち切ったはずの腕から、なおも魔力が
腕を引き戻す!
だが、ローザの身体から魔力の流出が止まらない!
次々と、魔導石に吸収されて行く!
「わたくしの魔力を……封じるつもりですか!?」
「その通りじゃ!」
先ほどまで無色だった魔導石が、ローザの魔力を吸収して鋭い輝きを放ち始める!
「これがわらわの切り札! 魔力を封じ込める魔導石、名付けて”ヴェルデグリス”よ!」
“ヴェルデグリス”と呼ばれた魔導石に、サイザリスが
「
策を
拘束から逃れ様とするローザだが、
「こんなことで、このわたくしが封じられるとは!」
サイザリスがケタケタと笑う。
「魔力はお主に遠く及ばぬが、知恵ではわらわの方が上よ!」
まずい!
このままローザが敗れれば共和国はサイザリスに
アコナイトは凍り付いていない右腕を降り上げ、
しかし――そんなものが魔女に通じる訳もなく、飛び込んだ
衝撃波はアコナイトもろとも氷塊を粉砕し、身体を
次いで床に叩きつけられる衝撃が加わり、アコナイトの視界が暗転する。
ローザの叫ぶ声が徐々に遠ざかり、意識が消え去って行く。
これほどまでに、魔女サイザリスとのちからの差があろうとは………。
「アコナイト! 目を開けなさい!」
落ちかけた意識を、ローザの強い言葉が揺り起こす!
「!」
きしむ身体に鞭を打ち、上体を上げる。
状況は一瞬前と大差ない。
魔力の奔流に捕えられ身動きできないローザ。それを迎え撃つサイザリス。
魔力を吸収し続ける”ヴェルデグリス”の光はなおも輝きを増す!
だが、”ヴェルデグリス”から伸びる光の帯はサイザリスに傾きつつあった。魔女の表情から、先ほどまでの余裕は消え失せている。
「……ッ!」
焦りの色が濃くなり、魔力の流れを支えていた錫杖を持つ左腕が震える。逆にローザは力強く両腕を突き出し、魔力の流れを変えつつあった!
「知識は
いつもの冷静な
「貴女がおっしゃったことです。魔力はわたくしの方が上だと。
「そんな……ッ!?」
ローザの強大な
「いまです! アコナイト!」
「おおッ!」
ローザの言葉に
床に落ちた
狙ったサイザリスの身体は、もはや完全に無防備だった!
「きゃあああああッ!」
響き渡るサイザリスの絶叫!
確かな手ごたえとともに、その細身の身体を
胸から脇腹まで――深く長い裂傷が走り、血しぶきが舞った!
「決まった!」
アコナイトの言葉に頷き、ローザが一気に
鮮血を噴き出す魔女の身体からちからが抜け、錫杖を取り落とす。
サイザリスの小さな身体から、大量の魔力が流出し、”ヴェルデグリス”に流れ始める様に見えた。
束縛から解き放たれたローザが、強大な魔力のシーソーゲームを制する。
「アコナイト!
ローザの言葉を受け、アコナイトはその身を床に伏せた!
「終わりです! 魔女サイザリス!!」
一瞬の収縮を
やがて――地震の様な衝撃が収まり、アコナイトはゆっくりと顔を上げた。
地下の空間に、まだ爆音の
熱波が駆け巡った広間は、床に天井に亀裂が走り、一部が崩れ落ちていた。
サイザリスのいた場所は巨大なクレーターが開き、その底は見えないほどに深い。
「やった……のか?」
穴の底を見下ろし、アコナイトは
「……はい」
言葉少なにローザが
どさりと床に彼女が崩れ落ちる音がして、アコナイトは背後に振り替える。
「ローザ! 大丈夫か!?」
駆け寄り彼女の身体を抱き上げる。その身体は冷たく、小刻みに震えていた。
「大丈夫です……。 調子に乗って……ちからを使い過ぎた……だけですわ……」
やわらかい笑みを浮かべる。
だが、その身体は至るところに傷口が開き、大きく
彼女に肩を貸し、ゆっくりと立ち上がる。
二人はもうもうと立ち上がる煙の中に置き去りにされた、”ヴェルデグリス”を見つめた。それは、相変わらず燃える様な深紅の輝きを放っている。
怒りと憎しみをたたえる、血の様な赤。
「あの魔導石は?」
「わたくしがサイザリスの策を逆手に取って、
いま、あの”ヴェルデグリス”の中にはサイザリスの魔力が
「破壊しよう!」
ローザは首を横に振る。
「無理な破壊は危険でしょう。
それこそ、テユヴェローズの首都を吹き飛ばすくらいの魔力が収まっているはずです」
「勝つには勝ったが……これは厄介な
いつか、この光が
わずかな懸念を抱きながら、アコナイトはローザの身体を抱き直し、後に『封印の間』と呼ばれるその部屋を後にした。
***
テユヴェローズの街を襲撃した『ゴーレム』は騎士団によって掃討され、サイザリスとの長きに渡る戦いに終止符が打たれた。
奇しくも戦勝記念日となったこの日、女神ローザの元に孫が生まれ、共和国は二つの祝福に包まれたと言う。
それから、二十五年の月日が
大聖堂の地下深く。漆黒の地下水脈に、崩落した
光ひとつ差さない漆黒の空間に、小さな紅い光が
光は、何かを探し求める様に揺れ動き、やがて一点で動きを止めた。
瓦礫の中から一本の腕が伸び、その光を強く握りしめる。
再び光を失った暗黒の世界に、がらがらと瓦礫をかき分ける音が木霊した。
――やって来なさい――
「どこへ……?」
―――紅き光のもとへ―――
「何をしに……?」
――――わたしを解き放つために―――。
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