第13話 諦めない者達


 未來が仮眠を初めて一時間程すると事件が起きる。

 雛を中心として佳奈、ゆめ、優奈が陣形を作り上空から攻撃してくる鷹と戦っている。


「雛姉さんどうしましょう」


 高山ゆめは姉である高山雛にどうやってこの場を切り抜けるかを聞く。剣を構える四人に上空から四人に向かって火を吐き、翼で竜巻を起こし攻撃してくる鷹に防戦一方となっていた。


 村の異変に気付いた、綾香、紅、すみれ、ゆりがすぐに合流する。勇者は空を飛んで戦う事が出来ないので地上から空中にいる鷹に特殊攻撃をするしかなかった。しかし特殊攻撃は龍脈の力を沢山使うので連発は出来ない。未來がこの場にいれば空中戦が可能だが今未來は自室で寝ている。巫女は龍脈の力を使い空中を飛び回る事が可能だが今の勇者にはまだ使えない。


「私、ゆめ、佳奈で相手の注意を引き付けます」


 雛の言葉に七人が視線は鷹に向け警戒したまま耳を傾ける。


「その間に遠距離攻撃が得意なすみれとゆりで鷹を攻撃してください。残り五人はすみれとゆりのスペルが発動する為の時間稼ぎの護衛と私達囮役の援護を中距離攻撃でお願いします」


 雛の言葉に皆が頷き早速行動に移る。


「スペル高速移動」


 雛の言葉で龍脈の力がその真価を発揮し囮役の三人の移動速度を上昇させる。


「スペル挑発」


 雛に続き妹のゆめの言葉と共に上空を舞う七匹の鷹がの標的が三人に集中し、凄い勢いで急降下して突撃してくる。


「スペル速度ダウン」


 二人に続き佳奈も力を使い鷹の移動速度を落とし、突撃してくる鷹を三人が躱しながら逃げる。注意が残りの五人から逸れた事を確認し、すみれとゆりが龍脈の力を使い矢の形状をした物を次々と出現させ空中浮遊させる。鷹の一匹がそれに気づき標的をすみれとゆりに切り替え火の球を三発吐き突撃してくる。


「スペル結解防御」


「スペル結解防御」


 紅と綾香が息を合わせる。両手を前に向け鷹からの火の球に対し結解を張り遠距離攻撃準備中の二人を守る。火の球が結解にぶつかったのを確認し優奈が鷹に突撃する。両者がぶつかる刹那、優奈が雄たけびを上げながら龍脈の力で剣を生成しそれを右手で掴み鷹に向かって振り下ろす。


「はぁぁぁぁ」


 しかし鷹の口ばしに弾かれる、鷹は一旦距離を取る為に上空に逃げる。


「スペル火球」


「スペル炎の矢」


 距離を取る為上空に逃げる鷹の背後から紅と綾香が中距離攻撃で追撃をする。火球二発と炎の矢が鷹に向かって一直線に飛んでいく。仲間の危機に気づいた鷹が二手に分かれる。一つは雛達を追うグループ。もう一つは仲間を助けるグループ。


 雛がそれに気づき方向転換をして鷹の群れに剣を片手に突撃するが邪魔される。ゆめと佳奈が援護するが狂暴化した鷹一匹の足止めが限界となる。これにより一人一匹で三匹は足止めが出来たが残りの三匹が紅と綾香の火球と炎の矢をに火球をぶつけ相殺し助けに入る。


 佳奈の額には汗が出ている。


「まずいわね」


「あぁ」


 雛は佳奈の言葉に返事をする。そして現状こちらが不利なのを確認しこれからどうするかを考える。すみれとゆりの攻撃にはもう少し時間が掛かるが足止めが不十分な事を心配していた。攻撃準備が出来るまでは四匹の鷹を紅、綾香、優奈の三人で相手にしなければならない。


「姉さんどうします?」


 ゆめが雛に確認する。同じスペルは一定時間のタイムラグがないと使用ができない。厳密に言えば出来ないわけではないが勇者程度の龍脈の力では効果が激減してしまう。巫女や影のように絶対的な力の差があればそのデメリットもかなり軽減されるが勇者にはそれが出来ない。


「とにかくここの三匹だけでもしっかり足止めして向こうは三人を信じて任せましょう」


 雛の言葉を聞き三人が剣を片手に持ち鷹に突撃する。剣と鷹の口ばしが何度もぶつかり合う。ぶつかり合う度に空中にオレンジ色の火花が散る。そして鷹は火球を容赦なく三人に向かって吐いてくる。森の中で戦っている為、周りがどんどん火の海となっていき徐々に逃げ道がなくなっていき息が苦しくなっていく。


「後、十秒下さい」


すみれが叫ぶ。四匹の鷹相手に頑張っている三人がその言葉を聞き鷹の注意が二人に向かないように気を付けて戦う。しかしここで四匹の鷹が上空で集まり同時に連携して大きい火球の球を吐く。今までの火球とは違いたった一発だけのはずなのにそれがとても危険である事に五人が間違いないと確信する。


「私とすみれを置いて逃げて下さい!」


ゆりが叫ぶ。火球の被弾時間と遠距離攻撃が可能になるまでの時間がほぼ同時である事にすみれとゆりは気づいていた。そしてスペルを唱え自動攻撃になった瞬間に被弾する。しかしここで攻撃を中断し逃げれば実力差から恐らく反撃のタイミングはもうない事を悟っていた。だから二人はアイコンタクトで意思疎通をして覚悟を決める。せめて仲間だけでも助ける為に。


「私達はいいから! 早く逃げて下さい!」


 すみれも自分達の盾になろうとする三人に叫ぶ。このままでは五人で仲良くあの世行きだ。仮にこの攻撃をしのげても防ぐ為に結解の強度をあげるので龍脈の力を使いきるだろう。そうすれば今雛達が残りの三匹を相手にしているがそちらに援護に行けなくなる。


 すみれとゆりの言葉を無視して三人が叫ぶ。


「ふざけないで!」


「私達仲間でしょ!」


「何があっても二人を守る!」


 その言葉はとても力強く本当に何とかしてくれそうな気にさせてくれる。


「スペル連携結解防御」


 三人の言葉と同時に先ほどとは違い強度がかなり強い結解が出来る。しかし鷹はさらに火のを吐き火球の勢いをあげると同時に威力をあげてくる。このままでは結解が壊れると見たすみれとゆりが本来の技の八十パーセントの状態であったが攻撃する事を決意する。標的は自分達の目の前の敵にしたがったが自分達が生き残る可能性が低いと見て攻撃対象を雛達が相手にしている三匹の鷹にする。


「スペル連携裁きの矢」


 本来は百本の矢が敵を自動追尾し攻撃するが、今回は本数、威力、自動追尾の為のスピード、全部が二割減しての発動となる。それでも八十本の矢が五十メートルを二秒程で進む勢いで飛んでいく。そしてすみれとゆりもすぐに紅達が展開する結解の補助に入る。


「スペル連携結解補助」


 これにより結解の強度が更にあがり厚みも出来る。五人が結解維持の為両手を前に出し火球に備えると火球が結解に被弾する。被弾してもすぐに爆発することなく少しずつ五人が張っている結解を破るように進んでくる。しばらくすると結解の半分程を貫通してきた火球が止まる。よく見ると鷹達が火の息を一旦止め息継ぎをしていた。そして再度息を十分に吸い込んで火の息を先ほどより勢いよく吐いてくる。

 再び結解を少しずつ破りながら火の球が自分達に向かい落ちてくる。


「すみれとゆりはもういい…ですから…」


 片膝を付き苦しそうに優奈が言う。それに紅と綾香も続く。


「逃げて……このままじゃ皆死んじゃいます」


「二人は雛達に合流して遠距離攻撃の準備を……」


 この瞬間五人の脳裏にはいずれ結解が破られ全員が死ぬ予感がしていた。だからこそ自分にとって大切な存在である仲間を守る決意を各々がする。


「それなら私とすみれがここは何とかします」


「紅さん達が逃げて下さい」


遠距離攻撃にしか龍脈の力を使っていなかった二人には確信があった。死ぬ事を前提に残りの龍脈の力をなりふり構わず使えば三人が逃げられる時間が作れる確証が。

 未來の悲しむ姿を見ていた勇者達は仲間と言う存在がとても大切な事を教わっていた。未來にとって影が全てだったように勇者達にとっては未來や一緒に戦って来た仲間が自分よりも大切な存在であると気づかされた。


 今はいない影がそれを教えてくれた。だからあの人のように誰かの為に頑張りたいと思う気持ちがここ数日かなり強くなっていた。影からしたら命をそう易々とかけて欲しくはないと願う事も分かっていた。それでもこの状況で最善の手は何かを各々が考えた結果が自己犠牲となった。


「何を……言っているんですか」


 すみれとゆりの言葉に綾香が否定する。


「なら皆の意見を尊重してこの火球だけでも皆で協力して防ぎましょう」


すみれが仲裁案を出す。現状もっとも成功するなら理想だが成功確率だけで見れば一番低い案を提示する。しかしそんなすみれの案を否定する者はいなかった。五人はこの危機的状況でありながら不敵な笑みを浮かべる。


「そうですね」


「きっと巫女様もそれを望むでしょう」


 紅と綾香が立ちあがりながら言った。


「この後の事はその時考えましょう」


「この瞬間に全てをかけましょう。私達の残りの力全てを」


 優奈とゆりが今に全てを捧げて現状を打破するように仲間に訴える。


「はぁぁぁ!」


 そして奇跡を起こす為に全員が雄たけびをあげ、全ての龍脈の力を結解に注ぎこんでいく。すると後ちょっとで完全に破られる寸前で火球が止まる。そして火球が徐々に赤くなっていき爆発する兆候を見せる。鷹も何とか結解を破る為に全力で火のを吐くが最後の一押しが上手く出来ずにいた。


「はぁ……全くバカな勇者達ですね……」


「そうゆう無謀な行動はダメですよ。私達も二年前バカな事をしましたけどね……」

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