第110話 魔族と森の再生

 アルちゃんと一緒にさらに30分くらい待っていると、やっとヴァイスが帰ってきた。


「ヴァイス、おかえりなさい!」


『うむ。変わった事はなかったか?』


 ヴァイスに、アルちゃんが何かをしたのを話すと確認に行ってくれた。やっぱり魔族を倒してくれたんだそう。というかアルちゃん、どうやって魔族倒したの!?


「アルちゃんってそんなに強いんだね。凄いね~!」


「にゃんきゅっきゅ~」


『カノン。マンドラゴンの時でさえ、我でも気絶するくらいだぞ。そこから進化したアルが弱いわけなかろう』


「あっ、そっか! アルちゃんが可愛いから、つい忘れちゃってたよ」


「にゃんきゅ~」


 しかもあの小さいアルちゃん達がきっと倒したって事だよね。アルちゃん可愛いのに凄いな。そして、やっぱりヴァイスは魔族を倒して来てくれたんだって。

 王国を滅ぼそうとして、湖に毒を撒いたんだそう。それはやっつけちゃっていいです、ヴァイス。むしろ手加減なしでやっちゃってください!


「もう魔族は大丈夫なの?」


『ああ。全部倒してきたから問題ないぞ』


「良かった~。ヴァイスもアルちゃんもありがとう! じゃあ、後は上から見て必要そうだったら植物栄養剤も撒きながら帰ろうか。あっ、それかエリクサーを撒いた方が良い?」


『ふむ。ここまで来たらそれでも良いかもしれんな』


 帰りは下の様子が見えるように移動ボードに乗って帰ろう。上から見ると、まだ茶色い所が多いけれど、ゆっくりとだけど緑が増えていっているのが見て分かるくらい。


「ねぇ、ヴァイス。エリクサーを雨みたいに広範囲に降らせることって出来る?」


『ああ、我に任せておけ!』


 さっきの湖の上まで戻ってヴァイスが魔法を使うと、湖のエリクサーが水の玉になった。ふよふよと揺れる大きなエリクサーの玉を、ヴァイスが魔法で雨みたいに一面に降らせる。

 

「おぉ、お天気が良いから虹が見えるね」


『これでこの森は大丈夫であろう』


「そうだね。ヴァイス、ありがとうね」


「にゃんきゅっきゅっ!」


 エリクサーを降らせると、茶色かった景色からどんどん緑に変わっていく。

 一旦チェニアの街に寄って、エリクサー入りの炊き出しをしてから帰ろう。きっと山に一番近いチェニアの街は酷い事になっている気がするんだよね。

 チェニアの街に入ると、歩いている人がほとんどいない状態だ。とりあえず冒険者ギルドに行ってみると、受付にかろうじて1人座っている。だけど、この人も顔色が悪い。


「こんにちは。大丈夫ですか?」


「えぇ、私がまだ一番軽い症状だから……」


「あの、これから炊き出しをするので、街の人達に配れる人を集めて欲しいんです」


「起きられない人ばかりだから、難しいかもしれません。とりあえず、ギルマスに伝えてみますね」


「はい。私はすぐ近くの広場で炊き出しの準備をしますね!」


 街が壊滅寸前な感じなので、急いで準備しちゃいましょう! 省略出来る数も増えているので、大きなお鍋を取り出してさくっと準備しよう。

 以前した炊き出しと同じで豚汁にすれば、サクッと作れるのが分かっているしね。そして豚汁にはもちろんエリクサーを入れる。これがなければ意味がないからね!


『またエリクサー入りか』


「ふふっ、もちろんっ! これで街の人達が元気になってくれると良いのだけど……」


『だが、また具合が悪くなるんじゃないのか?』


「うん、そうだとは思うけれど……一度元気になるのは大事かなと思って。その間に水の問題は考えようかと思って」


『なるほどな。確かに死者が出る前に治すのは良いと思うぞ』


「にゃんきゅっ」


 まずはさっきの冒険者ギルドの受付のお姉さんとギルマスに持って行った。それから冒険者達と街の兵士の人達を元気にした。

 そこからは早かった。元気になった人達が、街の中を走り回ってエリクサー入りの豚汁を配ってくれた。



 ギルマスには、一度王都に帰って対策を考えてくると伝えてチェニアの街を後にした。チェニアの街からはヴァイスに乗せて貰い王都に帰る。

 王都に着いたら、まずはお城へ向かおう。早く王都でも炊き出しをして、みんなに元気になって欲しいな。


 ヴァイスとアルちゃんと一緒にお城へ着くと、すぐに王宮へ案内してくれた。王宮のいつもの部屋へ着くと、すぐに国王様達もやってきた。


「ヴァイス様、カノン様。ありがとうございました。それで、様子はどうでしたか?」


『ああ。カノンが湖をエリクサーに変えたから、もう大丈夫だ』


「「「「えっ!?」」」」


「周りの木々が緑に変わっていくのが凄かったですよ~」


「は、はぁ……? えっと、様子を見に行っただけなのでは?」


「でも、あのままじゃ危ないですよね?」


「そ、そうですね」


 その後は、ヴァイスが魔族を倒した事とかも報告した。残る問題は井戸水と炊き出しだね。


『毒が出なくなってからも当分の間、井戸水からエリクサーが出ると思うぞ』


「そういえば、井戸水だっけ……確かにエリクサー出そうだね」


『だから自重しろって言うだろ』


「えへっ。でも、あの森の様子を見たら全力でやっちゃうじゃない? でも、まだ当分は毒が出るよね?」


『そうであろうな。まあ、エリクサーを撒いたからすぐに毒も消えるんじゃないか?』


「あっ、そうかもしれないね」


 でも当分の間、井戸水が使えない事の方が問題だよね。全員で考えているけれど、なかなか良いアイデアが浮かばない。

全員が頭を抱えている。井戸水が使えないのは本当に困るよね。井戸に放り込めるアイテムを作ったらどうかな?


「うーん。井戸に放り込んで使えて、水に変える魔道具を作れば良いんだよね?」 


『まあ、そうだな。出来そうか?』


「カノン様、出来ますか?」


「うーん、ちょっと考えて作ってみますね」


「はい、よろしくお願い致します」


 井戸の問題は置いといて、次は炊き出しだ。これは前回の時と同じように、私が作って、みんなに配って貰うという事で落ち着いた。

 報告と話し合いをしていたら、すっかり夜になっていた。本当は今から配りたいけれど、明日の朝から炊き出しをする事になった。


 まずはお店に帰って井戸に入れるアイテムを作ろう。帰りは暗くなっている事もあって、馬車で送ってくれる事になった。


「毒を水に変えるには白の魔石で浄化かな?」


『まあ、そうであろうな。後は水だから青の魔石か』


「そうだね~。あれ、もしかしてそれくらい?」


『そんな気がするな』


 お店に着くと、さっそく作ってみよう。形はどんなのにしようかな~。井戸の底に張り付く感じにしたいから、鉄にミスリルコーティングしようかな。錬金釜に鉄とミスリルを入れて、魔力を流して少し大きめのボタンをいくつも作る。


 ボタンに貼り付ける為の緑の魔石(中)を付けよう。それから浄化のための白の魔石(大)、青の魔石(大)を貼り付ける。


 貼り付け終わったら、錬金釜に入れて蓋を閉めて魔力を流す。チーン! という音がして完成を知らせてくれる。蓋を開けて鑑定してみると浄水器と名前が付いている。説明文を見てみると、水を浄化をして綺麗な水に変えると書いてある。


「無事に出来たよ。良かった~!」


『良かったな。後は数を増やさないとか?』


「そうだね。でも、数を増やすなら簡単だもんね!」


 錬金釜にさっき沢山作ったボタンを錬金釜にぽいぽいっと入れていくと、ぽんぽんと浄水器に変わっていく。


『相変わらずおかしいな』


「おかしくないよ、面白いだけだよ?」


『同じであろう?』


「ちょっと違う、はず!」


 大分遅くなってしまったけれど、数も作れたのでお夕飯にしよう。今日は簡単にアイテムボックスに入っているご飯にしよう。

 明日は朝から炊き出しと、井戸に浄化器を入れてきて貰おう。3人で美味しくご飯を食べたら、今日はゆっくり休んで明日は朝から頑張るぞ!

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