第109話 北の山の湖へ

 数カ月経って、また少し暑い日が増えて来た気がする。だけど、最近街の様子が何かおかしいんだよね。なんだか元気がない感じで、ちょっと心配。


「ねぇ、ヴァイス。なんだか街が元気ない気がするのだけど、どうしたんだろう?」


『確かに何かおかしいな』


 お店に来るお客様も元気のない人が増えた気がする。どうしたのかを聞いても、よく分からないんだそう。熱があるわけでもなく、ただ身体が重かったり気持ち悪い感じだったりするらしい。

 その影響があるのか、ポーションが良く売れている。それだけ具合の悪い人が多いという事だから、どんどん心配になる。


「カノンおねぇちゃん、おはよう。あのね、みんな体調があんまり良くなくて、屋台が難しそうなの」


「えっ、レオナ!? ちょっ、顔色悪いよ!?」


 すぐにレオナにエリクサーを飲ませる。1口飲むとすぐに元気になってホッとした。


「大丈夫? 無理しちゃダメだよ」


「うん、カノンおねぇちゃん。ありがとう。みんなも体調が悪くて、お休みしても良いかな?」


「もちろんだよ。無理しなくて良いんだからね」


「うん、ありがとう」


 レオナの話も聞いて本格的にどうにかしなきゃいけない。症状を聞いても、それっぽい病気はヴァイスにも分からないみたいだ。

 とりあえずレオナには、エリクサーを渡してみんなの食べるお料理に入れて貰う事にした。

 お店に来るお客様の対応をしていると、顔色の悪いユリウス様が来た。ユリウス様も具合が悪いみたいだ。


「ユリウス様。この体調不良の原因は分かっているのですか?」


「ええ。それがあって今日はここに来たのです」


 原因が分かっているのなら、鑑定しなくても良さそうだ。ユリウス様にもエリクサーを渡してから話を聞こう。


「カノン様。ありがとうございます」


「体調は大丈夫ですか?」


「ええ、お蔭様で治りました」


 無事にユリウス様の体調不良も治って良かった。これでゆっくり話が出来るね。

 ユリウス様から事情を聞くと、魔族の仕業だろうという事だった。魔族がヴァイスの居た山にある湖に毒を入れたんだそう。そのせいで森の木々も枯れて湖から流れる川にも汚染が広がっていて、今のままだと、この王国に何十年も人が住めなくなってしまうかもしれないんだそう。


 街の人達の体調不良もそこから来ているんだって。すでに王都で具合の悪い人が増えているって事は、チェニアの街はもっとかもしれない。


「えっ、それは大変!」


『ふむ。毒の浄化をしても、森が治らないといけないのだな』


「はい。ですが、そこの湖の前に何体もトレントが居て通れないのです」


「にゃんきゅっきゅっ!」


『ふむ。アルなら話が出来るか』


「にゃんきゅっ!」


 大きなトレントでもお話出来るとかアルちゃん凄い、さすがニャンドラゴンです。

 これで湖まで行けそうだ。今回は緊急事態という事で、ヴァイスで向かう許可も貰ってきてくれたらしい。ヴァイスに乗せて貰った方が速いから、これはとても助かるね。しかも、久しぶりに大きなヴァイスに乗れそうだ。


「しかし、カノン様。森と水の汚染はどうにかなりますか?」


「多分大丈夫だと思いますが、ちょっと行ってみますね」


「は、はい。よろしくお願い致します」


 ユリウス様にもエリクサーを何本か渡しておいた。きっと国王様達も体調不良になっているだろうからね。

 アルちゃんとヴァイスと一緒にお店を出て、急いで街の外を目指す。街の中を歩いている途中も、顔色の悪い人ばかりだ。お水が原因なんだもん、そりゃそうだよね。

 でも、どうして私は平気なんだろうか?


「ねぇ、なんで私は元気なんだろう?」


『そりゃそうだろう。カノンは大体錬金術でご飯も作ってるだろ?』


「あっ、確かに! レベルが40になって、8個省略出来るようになって便利なんだよね~」


「にゃんきゅっきゅっ」


 まあ、体調が悪かったらポーションがすぐに飲めるし、そんなに気にならなかったよ。とりあえず、北門で手続きをして貰い外に出る。少し離れてから大きくなったヴァイスの背中にアルちゃんと一緒に乗る。

 ヴァイスがゆっくりと浮かぶと凄いスピードで北の山に向かって飛び出した。山の上の方に湖があるらしいので、その辺りまで飛んで貰う。さすがにヴァイスのスピードだと、移動ボードよりもかなり早く着けるんだよね。


『ふむ。かなり深刻だな』


「そうなの?」


『ああ、森が大分やられているな。ほとんどの木が枯れてるぞ』


「さっき遠くから見た時に、山が茶色かったのはそういう事なんだね」


 ヴァイスが湖の近くに下りてくれた。やっぱり周りの木々も草も枯れている。これはかなりひどい。

 ヴァイスから降りて、小さくなったヴァイスを肩に乗せてアルちゃんと一緒に歩いて行く。少し先に進むと、木で道がふさがって通れない。


「ヴァイス。これがトレント?」


『そうだな。アルいけるか?』


「にゃんきゅっ!」


 アルちゃんが手の先から根っこを伸ばしている感じだね。だけど、ネコ型になったから良く分からないけれど、地面の下で何かやっているみたいだ。

 少しすると、トレント達がどいてくれて道が出来た。


「にゃんきゅっきゅ!」


「うわぁ、アルちゃん。凄いっ、ありがとう!」


 トレント達がどいてくれたから先に進もう。地面を見ても、どこを見ても枯れていて茶色い。歩いているだけで苦しくなる感じだ。


「うわ、湖の色も濁ってるよ」 


『そうだな。カノン、これはどうするんだ?』


「そんな時はこれです! 錬金棒~!」


『それで浄化するのか?』


 浄化なんて甘いもんじゃないんですよ、ヴァイス。ただ、言うと突っ込まれるから言わずにやっちゃうだけだもんね。錬金棒を湖に入れて、湖をエリクサーにしちゃうんだ~!


『カノン、もしかして……!?』


「ふっふっふっ。エリクサーのでっきあっがりーっ!」


『カノンーっ!!!』


「にゃんきゅっ!?」


「えへっ」


 湖をエリクサーにしたら、湖の周りからどんどん茶色から緑色に変わっていく。これは凄い光景だね。周りの木々もどんどん緑に変わっていく。植物栄養剤を作ったつもりはないのだけど、木や草花にもエリクサーって効くんだねぇ。


『カノン……何をした?』


「えっと、湖をエリクサーに変えただけだよ?」


『植物用の栄養剤じゃなくてか?』


「うん」


『この回復の速さ、異常だぞ!? やはりカノンだからか』


「ちょっ! 私が異常者みたいに言わないでよね!?」


『十分異常だ』


「にゃんきゅっきゅ!」


 まさかのアルちゃんにまで肯定されてしまった。普通に湖をエリクサーに変えただけなのに、おかしいなぁ。


「上から植物用の栄養剤を撒いた方が良いかな?」


『そうだな。この速度ならすぐにエリクサーが効く気がするけどな。それよりも帰りは移動ボードで帰るか?』


「あっ、そうだね。どれくらいの速度で治っているか見たいな」


『む、カノン。少し待っていろ。アル、カノンを守れるか?』


「にゃんきゅっきゅっ!!」


 良く分からないけれど、ヴァイスが飛び立ってどこかに向かった。どうしたんだろう。さすがに緊張感のあるヴァイスに、ちょっとドキドキしてしまう。アルちゃんを抱っこして待っていよう。


「にゃんきゅ!」


「ふふっ、ありがとうね」


 アルちゃんがすりすりとして和ませようとしてくれる。アルちゃんが居てくれるから、大分心強い。もう30分経ったけど、まだヴァイスが帰って来ない。


「ヴァイス、どうしたんだろうね?」


「にゃんきゅ~」


 待っている間にも、私の周りは緑で溢れていく。エリクサーって本当に凄いよね。アルちゃんと待っていると、突然アルちゃんが私の腕から降りた。


「にゃんきゅっ!!!」


「えっ、どうしたの!?」


 アルちゃんが何かを威嚇しているみたいだ。ドキドキしながら見ていると、アルちゃんが見ている方向で音がした。ここで私が動くとアルちゃんに迷惑が掛かりそうだから、じっとしておこう。その間も心臓がばくばくしていて動けないという方が正しい。

 アルちゃんは小さいアルちゃんを何体か作り出すと、音のした方へ向かわせる。


「にゃんきゅっきゅ~」


「アルちゃん?」


「にゃんきゅっきゅっ!」


「大丈夫、なの?」


 アルちゃんが何をしたのか分からないけれど、大丈夫みたいなのでアルちゃんを信じよう。しかし、一体何が起こっているのか……あれ、そういえば魔族が湖に毒を撒いたって言ってなかったっけ!?


「もしかして、魔族と関係あるの?」


「にゃんきゅ!」


 やっぱり魔族が関係していたみたいだ。ってことはこの先に魔族がいるって事!? それはさすがに怖いので、見に行かなくて本当に良かった。少しすると小さいアルちゃん達も帰ってきた。

 小さいアルちゃん達が帰ってきたから、きっと本当にもう大丈夫なのだろう。怖いから聞くのは止めておこう。

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