第84話 ワインの収穫

 見ているとどんどん大きくなっていくワインの瓶。少しすると、成長が止まった。もう収穫出来るのかもしれない。


「ヴァイス。これは収穫出来るって事かな?」


『多分、そうであろうな』


「えっと、一番上には白ワイン?」


『そうみたいだな。この地面と白ワインの間にあるのは、ロゼか?』


「ということは、地面には……やっぱり赤ワインっ!」


 ブドウの木みたいに広がった木には、白ワイン、ロゼワインが、地面には赤ワインが実っている。衝撃的すぎてなかなか動けなかったけれど、ダメになったらもったいないから収穫しよう。


 ヴァイスと一緒に収穫していくけれど、なかなか進まない。ヴァイスはパタパタと飛んで収穫してくれている。私も収穫してはアイテムボックスに仕舞っていくのだけど、実っている数が凄く多いので結構大変だ。

 結局収穫が終わったのは2時間くらい経ってからだった。


「うぅ、疲れたね」


『そうだな』


 アイテムボックスから、回復リンゴジュースを取り出してヴァイスと一緒に休憩しよう。おやつはマドレーヌだ。


「凄い数だったね」


『そうだな。まだ日本酒とビールか』


「うん。収穫まですると大変すぎるから、また来週にしようか?」


『そうだな。とりあえず、植えてから帰るか』


「あっ、そうだね」


 ヴァイスと一緒に休憩をしていると、国王様がこちらに歩いてきているのが見えた。早速見つかった。錬金術を使ったと素直に言って何とかなると、いいな。


「ヴァイス様、カノン様。もう木が育ったのですか?」


「国王様。この度は土地と家までありがとうございました。錬金術を使ったので、収穫まで出来ました」


「なんと! 収穫までしたのか!?」


「はい。ワイン畑の種から植えたのですが、これが実ったので国王様に献上しても宜しいですか?」


「えっ、カノン様。瓶ですが?」


「はい。これが実ったんですよ。上には白ワイン、この蔦の先にはロゼワイン、地面には赤ワインでした」


「そのようなことが!?」


「後で他の方にお渡しすればいいですか?」


「いや。大丈夫だ、頂こう」


 国王様がちらりと後ろを見ると、いつの間にか人がいる。


(いつ来たのっ!?)


「これを私の部屋へ持って行ってくれるか」


「はっ!」


 どうやっても動きが見えないです。いついなくなったの!? やっぱり国の偉い人だと、そういう人が付いているのだね。

 私には動きは見えないけれど、きっとヴァイスには分かっているんだろうな。驚いたそぶりがなかったもんね。


「ユリウスからも色々聞いているが、車いすに移動ボード、包帯もどれも助かっている。ありがとう」


「いえいえ。お役に立てて良かったです」


 その後は国王様とヴァイスがお話をしているので、私は木の様子を見てみる。あんなに沢山ワインを実らせてくれたから、栄養剤を撒いてあげよう。


 この後もまた元気に育って、ワインを実らせてくれるといいね。


 少しヴァイスと話しをした国王様は騎士様が呼びに来たので、お仕事に戻って行った。


「はぁ、ドキドキしたよー」


『我に任せておけばいい』


「うん、ありがとうね。よし、種を蒔こうか!」


『そうだな』


 ワイン畑の隣はライスワイン畑の種を植えよう。日本酒はどうやって実るんだろうね。興味津々ではあるけれど、さすがに今日はもう収穫はしんどい。


「ヴァイス。ここら辺にまた栄養剤を混ぜて貰って良い?」


『ああ、任せろ』


 ヴァイスが魔法で土に栄養剤を混ぜて、ふわふわの土にしてくれる。そこに種を蒔いて魔道具のじょうろで栄養剤入りのお水を撒く。

 同じくらい距離を開けて、今度はビール畑の種だ。これも同じようにして蒔いたらじょうろで栄養剤入りのお水を撒く。


「また来週に見に来ようね」


『そうだな。どれくらい大きくなっているか楽しみだな』


「そうだね! 来週は日本酒とビールも収穫出来るといいね。きっと瓶で実るよね!」


『そうであろうな』


「作り方を考えていたのに、全然必要なかったね」


『ああ。だが、美味しく育ってくれたら良いぞ。我も飲むのが楽しみだ!』


「ふふっ。今日は日本酒に合うお料理にしようか」


『そいつは良いな。カノンは飲めるのか?』


「えっと、あんまり? すぐにふわふわしちゃう」


『なるほど。では我が飲むとしよう。カノンは飲める物を飲めば良い』


「うん、そうするね」


 ウォッカとかジンとか他のお酒もあるから、カクテルを作っても良いかもしれない。ジュースを多めのアルコール度の低めのお酒を作ろう。


 3種類の畑の種を植えたけれど、まだまだ土地が余っている。後は何を植えようかな。


『どうした?』


「ううん。3種類植えたけれど、まだまだ土地が余ってるなぁと思ってね」


『なるほどな。他に何を植えるか悩む所だな』


「そうなんだよね~」


『そういえば、前に食べ物の種を作った時に、成長が遅いのがあったであろう?』


「うん、あったね」


『あれで、種の出なかったお酒も種が作れるのではないか?』


「あっ! 確かにそうだね。よし、帰ったら作ってみようか」


『カノン、あれだ!』


「ん?」


『あの96度の酒があったであろう。あれを種にして増やすぞ!』


「ふふっ。ヴァイスはあのお酒が気になっていたのね。何本かあるし、種にしてみようか」


 そういうと、嬉しそうにしっぽをゆらゆらと揺らしている。96度のお酒なんて飲める気がしないのだけど、ヴァイスはドラゴンだからなのか飲めるのだね。


 お店に帰り、まずは種を作っちゃおう。


 沢山実る種を作りたいよね。確か遅かった種は、白の魔石(中)と黄の魔石(中)だったんだよね。出来たら、今回の畑の種みたいなの作りたい。

 何の魔石が必要だろうか? 土の黄の魔石、光の白の魔石、水の青の魔石で全部大サイズにしちゃう?


 アイテムボックスを確認してみると、まだまだどの色の魔石も沢山あったので、やってみよう!


 いきなり96度のお酒をやって失敗したら、ヴァイスに泣かれてしまいそうだ。まずは本数のあるウォッカでやってみよう。

 ウォッカを1本錬金釜に入れて、黄の魔石(大)、白の魔石(大)、青の魔石(大)を入れて蓋を閉めて魔力を流す。


 チーン!


 錬金釜の蓋を開けて鑑定してみると、ウォッカ畑の実の種と書いてある。


「あっ! 出来たみたい」


『なにっ!? カノン、良くみせてみろ!』


「はい。これだよ」


『本当だな。ウォッカ畑の実の種と書いてあるな。カノンっ、あれもだっ!!』


「ふふっ。そんなに欲しいのだね。すぐに作るね」


 ヴァイスは嬉しそうにしっぽを揺らしている。錬金釜に96度のお酒を入れると、ぽふん! と出来上がった。

 同じ畑の実の種だからか省略出来たみたいだ。


『出来てるぞっ!!』


「省略まで出来ちゃったね~」


 鑑定してみると、ウォッカ(96度)のお酒畑の種と書いてある。これはある意味恐ろしい種だね。火気厳禁です!

 どう考えても燃える! 危険物ですよ!?


『カノンは凄いな。これで飲み放題だな』


「いやいや、96度のお酒はちょこっとずつですからね?」


『なんでだっ!?』


「ヴァイスが酔っぱらったら、王都が壊滅しますけど?」


『酔わないから大丈夫だっ!』


「それ、酔っ払いが言うやつですからね。節度を持って飲みましょうね」


『なんだとっ!?』


 ヴァイスがガーン! とショックを受けた顔をしているけれど、本当にヴァイスが酔っぱらって暴れたら、王都が壊滅だけで済まないのだからね。絶対にある程度以上は飲ませません。


 まさか畑の種まで作れると思わなかったけれど、これは楽しい。他には何を育てようかなぁ。

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