第30話 パンの実の種

 次の日朝ごはんを食べながら師匠に質問をする。


「師匠、何か冒険者達のご飯が簡単に持ち運べるもの出来ませんかね~?」


「どんなのが良いんだい?」


「うーん、持ち運びは小さくて、でも美味しい?」


「そりゃまた難易度の高そうな事だねぇ」


『欲張ってないか?』


 欲張りだけど、街の近くの魔物を倒してくれたり、素材を集めてくれる冒険者達に何かしてあげられる事がないかなって思うんだよね。

 命掛けで戦っているんだと思うとやっぱり美味しい物を食べて、万全の態勢で戦って欲しいなと思う。


「そういえば、プランターのは一日で育ちますよね? すぐに育つ種とか出来ないですかね?」


「そこで育てて食べるって事かい?」


「そうですそうです。師匠、どうですか?」


「出来そうな気はするけど、どうだろうねぇ。黄の魔石を使って出来ないか試してみたらどうだい?」


「やってみます!」


 すぐに育って、そのまま食べられる物が出来る種が出来たら良いな。パンの実の種とか出来たら良いかもしれない。

 パンと黄の魔石で試してみようかな。


 お片付けを済ませて錬金部屋へ急ぐ。まずは私が作ったパンと黄の魔石(中)を錬金釜に入れて蓋をする。パンがすぐになる種を思い描いてから、蓋の魔石に手を置いて魔力を流していく。


 魔力を注いでいると、蓋の上に×マークが出た。


「う~、ダメかぁ」


『何かが足りないのではないか?』


「そうだねぇ。足りないとしたら、やっぱり白の魔石? プランターでも黄の魔石と白の魔石だったもんね」


『そうだな』


 錬金釜にパン、白の魔石(中)、黄の魔石(中)を入れて蓋を閉めて魔力を込める。


 チーン!


「あっ! もしかして出来たっ!?」


『確認するぞ!』


 錬金釜の蓋を開けてみると、中には小さな種が1つ転がっている。鑑定してみると、パンの実の種と書いてある。


「やったねっ! よし、植えてみよう!」


 木のカップに土を入れて種を植えてみる。ヴァイスに様子を見ておいて貰って私はポーションを作ろう。

 ポーションを作っている間も種が気になるけれど、ヴァイスから種が育っていると言われないからまだなんだろう。


「ヴァイス、どう?」


『ダメだな。育ってないぞ』


「え~、パンの実の種って書いてあったのになぁ」


『時間が掛かるのかもしれないな』


 そんなに時間が掛かったら冒険者達は待てないだろう。というか私も待てない。

 何か改良が必要なんだと思う。なんの属性があれば育つだろうか?


 魔石の色は赤、青、黄、緑、白、黒の6色だ。これの中で白と黄を使って光と土。後は水が必要? そうすると青の魔石を使ってみたら良いのかな。


 錬金釜にパン、黄の魔石(中)、青の魔石(中)、白の魔石(中)を入れて蓋をして魔力を込める。


 チーン!


 錬金釜の蓋を開けると、また種が1つ出来ている。鑑定してみると、パンの実の種(成長促進 中)と書いてある。


「んんっ!? ヴァイス、これなら行けそうだよ!」


『おっ、出来たのか?』


 また木のコップに土を入れるとパンの実の種を植えてみる。1分もしないうちに芽が出てきた。


「わっ、もう芽が出たよっ!?」


 次の瞬間には大きく育っている。育つのが止まらない。


「えぇーっ!? 大きくなりすぎっ!!」


 部屋中にパンの実の葉っぱが生い茂るようになってしまって、どうしようもならなくなってしまった。


「わわっ、ヴァイス。どうしようっ!?」


 ヴァイスが茎の根本を手で切ってくれたら、一瞬でパンの実が枯れた。


「び、びっくりした」


『凄かったな』


「さすがにあれは育ちすぎだよね」


『そうだな。魔石を小さくしてみるか?』


「それが良さそうだよね、うん」


 錬金釜にパン、黄の魔石(小)、青の魔石(小)、白の魔石(小)を入れて蓋をして魔力を流す。


 チーン!


 蓋を開けて種を鑑定してみると、パンの実の種(成長促進 小)と書いてある。成長促進が小にはなったけれど、中でさっきの大繁殖だったからね。大だったらどんな事になるのか想像もつかないよね。


 木のカップにパンの実の種を植えてみると、今度は1分では芽が出なかった。5分ほどして芽が出ると、すくすく育っていく。育っているのが良く分かるくらいなので、見ていてちょっと楽しい。

 テレビで見たことのある成長を早回しで見ている感じで、小学生の子とか見たら楽しそうだ。


 また5分ほどしたら、成長が止まって来たみたいだ。今度はパンが大きくなっていってる。


「わわっ、パンが生って来たよー!!」


『面白いな』


 そのままついついヴァイスと並んで観察をしていると、パンが2個大きく育っていっている。1個のパンから2つ育つなんて、素敵すぎる!


 どんどん大きくなって、元のパンより少し大きいくらいまで育った所で葉っぱがしおれて来た。ここら辺で収穫したら良いって事かな。


「よし、パンを収穫するよー!」


『おー! ってなんかおかしい気がするが?』


 パンを2個収穫したら、1個をヴァイスと半分こしてみる。パンを割ってみると、中はふんわりして美味しそうなパンが出来ている。ヴァイスに半分渡して一緒に食べてみると、なかなか美味しい。


『これはカノンのパンで作ったのか?』


「うん、そうだよ。なかなか美味しく出来てるね」


『そうだな。これなら良いんじゃないか?』


「やったね! 魔石も小サイズなら安いし沢山持っているから、作り放題出来るね!」


『確かにな。小サイズは他に使い道もあんまりなさそうだし、良い使い道が出来たんじゃないか』


「そうだね。確かに小サイズの魔石が大量にあるもんね」


 パンの実の種は出来た。サンドイッチにしたら出来るんだろうか? お肉をサンドしたパンが実ったら嬉しいよね。


 お肉を焼いてパンに野菜と一緒に挟んだのを錬金釜に入れて、黄、青、白の魔石(小)も入れて蓋を閉めて魔力を込める。


 レンジみたいなチーン! という音がしたので、錬金釜の蓋を開けてみると、お肉サンドの実の種(成長促進 小)と書いてある。

 これも木のコップに土を入れて種を植えてみる。パンが実るのがちょっと楽しみだ。実のをヴァイスに見て貰っている間に、師匠にパンの味見をして貰おう。


「師匠、パンの実が出来たので味見して貰って良いですか?」


「おや、もう出来たのかい? このパンが実った物かい?」


「はい、1個のパンから2個のパンが実りましたよ~」



「そりゃ凄いねぇ。それに味も美味しいじゃないかい」


「今、お肉をサンドした物も植えてみた所なんです」


 そういうと、師匠はお肉サンドの実を見に行った。私はその間お店番をして待っている。少し待っていると、ヴァイスと一緒に師匠が戻ってきた。


「カノン、これは良いねぇ」


『カノン、これ旨かったぞっ!』


 2人してもう食べてきたらしい。師匠も以外と食いしん坊だよね。でも、凄い勢いで美味しかったと言ってくれたので、ゲルトさんとか他の冒険者達も助かるかもしれないね。

 後はおにぎりとスープの種を作ってみたいな。

 お肉サンドも2個実ったんだって。1個の種から2個採れるなんて、素敵すぎる種が出来たね。

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