第17話 櫓のゴブリン

「あ、櫓がみえました」

 ラインさんが報告してきます。

 僕には遠くに小さな物体があるように見えますが、オブサーバーを持つラインさんにははっきり見えているのでしょう。


 ふと思いましたが、ラインさんって腐女子じゃなければ美人です。


「…おい」

「ハルカ、足をどけてください」

 コイツは昔から感が鋭いんです。

 昔はお姫様みたいにかわいかったのに今はその面影もありません。


「女の勘を舐めるな」

 だって仕方がないでしょう!僕だって健全な男子高校生なんです。


「そうじゃなくて、ラインさんにバレるぞ」

 そう脅されて考えるのをやめます。

 ギルドマスターというのは信用商売ですから。


「情報にあったゴブリンはどうですか?」

「んー、流石にそこまでは見えません」


 今日僕達は『櫓をゴブリンが占領している』という情報を手に入れたので、その調査に来ています。

 メンバーは僕とハルカ、サクマ、ラインさん、ファニーさんの5人です。

 ぬるぽさんは用事があるようで代理としてツノナシホーンラビットが来ています。


 少人数なのはお祭りムードに水を刺さないためで、大手ギルドのギルドマスターが3人もいるのは決定をすぐに下すためです。


「!櫓の手前の地面に何かいます」

「本当です。あれは…ゴブリンです!」

 その言葉にみんなが臨戦態勢を取る。


「いえ、待ってください!何かを掲げています!…白旗?」

 …はい?



「ギャッ!グギャッ!(に、人間だ!)」

 見張りが取り乱している。

 どれどれ…!


(ぐっ!)

 思わず吐きそうになる。あれはあのときの人間だ!


「ガゲア!(逃げろ!)」

 それと同時に適当な薪を手に取り、そこらへんの布を巻いて旗を作る。

 こうすれば降伏の合図になる。と、知識は言っている。


 駆ける。距離を稼ぐためだ。



 白旗を持ったゴブリンは高校の体操隊形2人分の位置まで近づいてきました。

 あの距離を旗を持って走ってきたので、ハアハアと息を切らしています。


 やろうと思えばすぐに殺せるでしょう。

 ハルカが目で聞いてきますが、とどまらせます。

 降伏にせよ奇襲にせよ、それをするだけの知能がある証拠になります。


「サクマ、櫓の様子を見てきてください」

「はいよ」

 しかし、ゴブリンがとおせんぼします。


「…なに?邪魔するの?」

「サクマ、もう行かなくていいよ。彼は仲間を逃がそうとしているみたいだ」

 これで素通りさせるようなら奇襲を疑いますが、とおせんぼするならそれはないでしょう。


「君、旗を捨てて手を組んで首に回してください」

 ダメ元で言ったのですが…言うとおりにしました。

 人間の言葉は理解できるようです。何故かは分かりませんが好都合です。身振り手振りで指示するのは面倒くさいですから。


「ラインさん。ファニーさん。これからどうします?彼らが害を及ぼさないのであれば、僕は彼らと仲良くしてもいいと思います」

 他にも、この周辺でゴブリンに襲われなくなったという情報も入っています。

 ラインさんは考え事をして、ファニーさんはツノナシホーンラビットを弄っています。


「私は別に、人間に害を及ぼさない限りは良いと思います」

「…<ファニー製造>としては、初心者が素材を安全に集められるとありがたい」

 ゴブリンがパアッと目を輝かせます

 二人とも問題は無いようです。僕らだけで決めるわけには行きませんが、とりあえず今日は見逃しましょう。


「さあ、今日のところは行きなさい。仲間に人間を襲わないようにと再び伝えといてください」

 ゴブリンは走り去っていきました。


 白旗を忘れていますが、そのうち取りに来るでしょう。

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