第7話 狼王
『族長』。そんな雰囲気を纏うゴブリンだ。
犬笛と木製の指輪を装着しており、身体は普通のゴブリンに比べて筋肉質だ。
ゴブリンに対して俺は試しに左足でジャブを放つ。
だめだ。全然ひっかからない。
「グウ!」
おっと危ない。こいつ、隙あらば攻撃してくる。
石を拾うことも警戒を解くこともできねえ。
実家の近所に住んでる空手のジジイと同じ匂いがする。
老成した槍捌きはそこらのゴブリンとは音からして次元が違う。
俺は警戒しながら小太刀を装備する。
また、切れかけていた『ビルドアップ』と『パワーアシスト』を掛け直す。
しばらくは様子を見合う。
ゴブリンが動いた!
「ギャオ!」
左上からの袈裟斬り。
俺は右のの小太刀で強く弾く。
「グゥ!」
ゴブリンの突き。
俺は避けながらゴブリンにの左側に回り込む。
「ガア!」
しかし、左からの素早い払い。
俺は左の小太刀で受ける。
カン!
左の小太刀は弾かれたが、右ががら空き!
俺は一歩踏み込み、避けづらい胸部へと斜めに切り込む。
しかし、ゴブリン小太刀を弾いた反動を使って、石突で受けてきた!
「グウウゥゥゥ」
「ぬううぅぅ」
こいつ、小さい身体のどこにこんな力があるんだ!
今度は俺から仕掛ける。
両手で持っていた小太刀を左手だけに持ち替えると、身体を低く捻じって小太刀で槍をいなす。
「はぁっ!」
そして、捻じってためた力で渾身のボディブローを入れる!
「グッ!」
これは効いたのか、ゴブリンは苦しい声を上げる。
しかし、俺も左から飛んでくる石突による突きをまともに受け、後退する。
『ヒール』を掛ける。
一見互角に見えるが、こちらは『ヒール』を持っている。
このままスタミナさえ続けばこちらの勝利だ。
「やっ!」
俺から仕掛ける。
俺は残った小太刀を投げ、ゴブリンに『龍爪』を放つ。
驚いたゴブリンは反応が遅れ、『龍爪』とサイドキックのコンボをまともに受けた。
しかし、まだ倒れない。
「ォォオオオ!」
それどころか、槍から右手を離しカウンターのパンチを放ってきた!
俺はこのパンチをまともに喰らい、ゴブリンはその隙に距離を取り『ヒール』を掛ける。
ゴブリンはもうボロボロだが、目にはまだ光が輝いていて、小太刀を拾えそうにない。
俺はサクマから買った棒手裏剣を取り出すと、ゴブリンに向かって素早く投げた。
「グゥ…」
棒手裏剣はまともに刺さり、それがきっかけになって元々限界を越えていたゴブリンは崩れ落ちる。もはや苦悶の声すら出ないようだ。
これで止めだ!そう思った俺は、遥かに強いさっきを感じた。
見ると800メートルは先の草原から、狼が駆けてきていた。
いや、700,600,500…
俺は反射的に転がって避けていた。
次の瞬間、黒い風が吹く。
「ウオォォォォン!」
振り向くと、数十メートル先に体高が俺の2倍はありそうなグレイウルフが、こちらを怒りの表情で睨んでいる。
俺には直感的に分かる。『俺はここで死ぬ』と。
ならば、することは1つだ
俺は構えを取る。正拳突きの構えだ。
ふと思い付き、革袋から火のつく御札を取り出す。
開けるのもめんどくさい。カバーを噛み千切り、魔力を流して右の拳に5枚纏めて掴む。
グレイウルフは力を溜めている。
拳に『ヒール』を掛ける。
燃え上がる。
炎の拳の完成だ。
人は、死にそうになると、感覚が麻痺するようだ。熱い、が、どこか他人事に感じる。
グレイウルフが駆ける。
走り出しには先程の速度は出ないらしい。
彼我の距離が0になる…
太陽は真南を指している。
その場に立っているのは、巨大なグレイウルフだ。
「ゴッゴフッ」
(あの人間。最後にあんな隠し玉を持っていたとは)
左の頬に大きな火傷を負ったグレイウルフは咳き込みながら思う。
彼は、この世界にエリアの覇者であると認められたモンスターにしか与えられない、『高機能AI』の保持者である。
(それよりもアイアスは大丈夫か!)
すると、親友の気配を感じたのか、アイアスと呼ばれたゴブリンは起き上がる。(魔物の名前は『高機能』AIと共に付与される)
アイアスは周囲を確認した後
「すまない、負けた。ミシェル」
と言った。(これは魔物言語と言うものであり、『高機能AI』と共に授けられる言語である)
「まさかお前が負けるなんてな」
下を見ると、2本の小太刀と1本の棒手裏剣、それとお金がいくらかが落ちている。
(これは…後で回収させるとして、まずはアイアスをねぐらに運ばねば)
「アイアス、乗れ」
「…ガキの頃以来だな。お前の背中に乗るのは」
ミシェルの影はすぐに地平線へと消えていった。
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