第4話 初めてのPVP

 露天に着くとなんだか腹が減ってきた。そういえばまだなにも食べていないな。

 適当な料理の露店に入る。こういう時には直感に従うのが正しいのだ。


「へいにいちゃん、ご注文は?」

「日替わりランチを頼もう。」

「まいど!」


 店主は恰幅のいいおじさんだ。

 今更だが<クロスオンライン>の公用語は日本語である。


 しばらくすると給仕の女の子が料理を運んできた。今日の日替わりは豚の干し肉のスープだ。

 硬いパンをスープでふやかして食べる。肉はあまり入っていないがちゃんとダシが出ていてうまいな。

 こういう飯も良いものだ。


 会計は食後の牛乳を合わせても40クロスにも満たなかった。

 良心的な値段だろう。

 もちろんこのあとガッツリと肉を食った。


 武器を売る露店の集まるエリアに来た。こうして固まってくれてるのはありがたい。

 今回の目当ては飛び道具だ。

 前回のゴブリンのようにいつも手頃な石があるとは限らないからな。それに石を拾う時には隙が生じる。


 すると元気な声が聞こえた。


「さあさあよってらっしゃい!サクマのPVPだよ!

 参加料はたった200クロスで、俺をに勝ったらなんと1000クロス!

 ルールは簡単。降参かノックアウトさせた方の勝利!

 一人1日1回まで!

 生配信中だよ!」


 ほう、PVP《ケンカ》か。(厳密には<クロスオンライン>のPVPは王都の闘技場でないとできないらしいが、このように勝利条件を決めた辻PVPも存在する。ちなみに、同意なく行う場合はPK《サツジン》になる)


「その勝負乗った!」


 誰かに取られる前に大声で参加表明する。


「おっ、おにいさんノリいいねえ。それじゃ、カモーン!」


 行くとそこにいたのは軽薄そうな青年だった。


「やや!おにいさんの髪の色。ボクとオソロじゃないですか、これは良いことがありそうだ。」


 しかもやけにフレンドリー。とてつもない大阪臭を感じる。

 俺は200クロスを渡して舞台に上がった。舞台も凝ってる。


「ボクはサクマって言います。よろしゅう」

「タツだ。よろしく」

「みなさん!このおにいさんはタツと言うそうです。」


 サクマは観客とおそらく彼のリスナーたちにむけて喋った。

 サクマは鈴を取り出して言う。


「それじゃ、これが鳴ったらスタートで!」

 そう言うとサクマは鈴を投げた。


 俺は気合を入れた。時間が少しゆっくりになる。

 へその下に力を込めて構えを取る。力を込めるときにケツの穴を閉めるのは俺の経験則だ。

 自分に『ビルドアップ』と『パワーアシスト』を掛ける。

 サクマはどこからともなく2本の木製の小太刀を取り出した。


 チリン、と鈴が鳴る。


 サクマは真正面から突っ込んできた。左手の小太刀を守りに、右手の小太刀を攻めに使っている。

 カウンターの『龍爪』…は防がれた!

 左からくる小太刀を腕で受け止める。

 思ったよりも軽い衝撃。


 しかし右から突きが飛んでくる。

 俺はこれを半身になってかわすと、左の拳でジャブを放つ。

 防いだところで空いた胴体に左足の『龍爪』。

 サクマはカウンターに右手の小太刀で足を狙ってくるが、それを俺は膝で受け止めて小太刀を掴む。


 胴体に膝を入れる!

 が、小太刀を手放して逃げられた。


「おにいさんやるねえ。」

 サクマは残った小太刀を右手に持ち替える。

 そしてポーションを飲む。


「そっちこそ」

 俺は奪った小太刀を斜めに構え、自分にヒールを掛けて仕切り直す。


 これは長期戦になりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る