第26話 背負わされたもの

「待て待て。まず俺は神なんて大それたものじゃない。未来から来たただの人間だって言ってるだろ」


「またまたぁ~そんなご謙遜なさって~このこの~」


「その通りですぞ~お戯れも程々になさってくださいよ~」


「ええい鬱陶しい。両サイドから肘で脇腹を小突いてくるな。知ってるか? 肋骨って意外と脆いんだぞ。そんなとこしてると簡単にグハッ。まったく……いつからそんなフレンドリーなキャラに成り下がったんだ」


「倭の国の為ならいくらでも成り下がってやりますよ。民が救われるのであれば、喜んで女王の座も譲り渡す所存です」


「おお……そこまでの覚悟があるとはな。さすが卑弥呼様だ。どうやら誤解と偏見を訂正しなくてはならないみたいだな。すまん」


「そして頃合いを見計らってその地位を簒奪さんだつしてやりますがね」


「政情不安も甚だしい。なるほど、救ってほしいとはお前という悪の芽を摘み取れということだったのか」


「冗談ですよ。誤解なさらないでください。取り返すにしても穏便に、秘密裏に、手を汚さずに表舞台に返り咲きますから」


「よかねえよ。今の言葉のどこに安心できる要素があった。俺の読解力では何一つ理解できなかったが」


「やれやれ……行間も読めないとは仕方ない神様ですね。いいですか? 人は争う生き物です。対立すれば争いが生まれ、言葉が通じなければ戦争しかないのですよ。そうやって権謀術数を駆使してのしあがるのがまつりごとの世界なのです。神様ならそのような常識はご存じかと思いますが」


「どこをどう行間を読めばその考えに行き着く。行の間を読むどころか行を掘り進めたところで辿り着かないだろ。で、助けてほしいってのはなんなんだよ。一応は聴いてやる。人間様でよければな」


「それは俺から話そう。あと姉上はさっさと卜占に戻ってください」


「えーもう少し休ませてちょうだいよー!   

 これ以上はキャパオーバーだよー!」


「それでもやらなくてはならないのです。国の命運は姉上の占いで全て決まるのですから」


「わかったわよ……。やれば良いんでしょ、やれば」


 卑弥呼はグチグチ文句を垂れながら、自室に姿を消していった。


「さて、話してもらおうか。お前達が俺なんかに頼み事するほど困っている問題とやらを」


「実は、今この国は最大の危機に瀕しているのだ」


「どういうことだ?」


「外を見てみろ」


 卑弥呼の弟が顎で外を差すと、一面に干からびた不毛な土地が広がっていた。

 一目でわかる――旱魃かんばつだ。痩せ細った人々が、粗末な農具で必死に大地にくわを突き立てているが、それが無意味であることは俺にもわかった。


「まさか、この日照りを何とかしてくれとか言うんじゃないよな」


「正にこの日照りを何とかして欲しいんだよ」


 ――なんてこった……現代科学の知識もない俺に旱魃かんばつなんて解決するような知識チートなんぞ持ち合わせてないぞ。無理だ無理無理。これは丁重にお断りしよう。


「悪いが俺にはどうしようもない。未来でも天候を制御することなんて出来ないんだよ」


「そこをなんとか……臥して頼み申す! もし対価が必要というのならこの首を、いや……このむくつけき体をいかようにも好きにしてもらって構わない! そう! 同人誌のようにっ!」


「ようにっ! じゃねぇよ。むくつけき体なんてノーセンキューだ。止せ、裸になって迫ってくるな。数少ない読者があまりのおぞましさに裸足で逃げ出す展開にする気か貴様は」


「うむむ……それなら倭の国有数の幼女はいかがか!?」


「この状況を見て見ぬ振りなんて誰ができるもんか! 俺に任せれば万事解決だぜ!」




 そんなこんなで紳士の俺は紳士的にこの旱魃を解決することになったのだが、ぶっちゃけなにもできなかったwww

 日が経つ事に勝手に期待値は上がり続け、とうとうストップ高になってしまった。

 俺の存在は倭の国中に広がり、現人神あらひとがみとして崇め奉られる始末。

そんな物騒な肩書きなんてとっとと返上したかった。所詮、自宅警備員ニートくらいがお似合いなのだ。


 もうなんだ、どいつもこいつも俺を見る眼が狂信者にしか見えん。もれなくSAN値はゼロだ。

 きっとここで「冗談だお☆許して(^Д^)」とか言ったら首を跳ねられるんだろうなあ――


遠い眼でコンドルが飛んでいるペルーの山脈を仰ぎ見てアルプス一万尺をこやりの上から爆撃投下したらきっと七つの大罪を犯して海賊王に俺はなると二十年前にも言っていた気がするけど明日から本気だす――


「大丈夫ですか? ダーリン。正気度チェックは必要ですか?」


 なんだか懐かしい声が聴こえる――誰だろう。


「ほら。愛しのアマテラスですよ。あんなに愛し合ったのにお忘れなのですか?」


「ア、ア、ア、アマテラスじゃないか!!  

 お前来てくれたのか? うおおおん! 一度も女として見たことないし記憶改変しようとしてたことは今だけは見流すのも吝かではない! うおおおおん!」


 調子に乗っていた俺は、姿を現したアマテラスに抱きついたのでした。

 おしまいおしまい。


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