第17話 三角関係

 はぁ、世界を救ったのは良いものの、どうしてこんな勇者オトコとヤってるのかしらね……私ったら。


「ウッ」


「え、もうイッたの?」


 全く……勇者のクセしてどんだけイクの早すぎなのよ。別にそこに素早さは求めてないわよ。ナニも聖剣エクカリリバーにはほど遠いし。

 まぁ、気持ち良くもないからさっさと終わってくれるのは助かるけどさ。


 何を勘違いしたのか、恥ずかしげもなく勇者は語る。


「なぁシンシア。僕達って本当に相性が良いと思わないかい」

「え? ええ、そうね」


 マジでこいつは何を言ってるんだ。私がなにもしていないのに気付きもしないだと?

 この勇者……見かけは確かに国内随一のイケメンだが、基本的に性能がポンコツ過ぎて話にならない。

 肩書だけ立派で王族のボンボンなもんだから、温室育ちの甘ちゃんだし、魔王を倒したのだって、実質私の魅了チャームのおかげなのわかってるのかしら。

 王の妃になれるチャンスだと思って我慢してたけど、やっぱ断ろうかしらね――


「ウッ」

「なに、またイッたの?」

 この短時間で二度もイッたのかと呆れていると、どうも勇者の様子がおかしかった。私にもたれかかったまま、身動き一つとらない。


「ちょっと、どうしたのよ……って嘘、死んでる」

 なんと勇者は絶命していた。まさか腹上死なわけでもあるまいし、原因を探ると、勇者の体から微かに魔力を感じた。


「これは……滅びの呪文デスペルじゃない……」


 それは、決して人類が使ってはいけない禁術――もろい人の体で使用すれば、術者の人格が崩壊していく魔族の呪文だった。


「そこにいるのは誰っ!」


 部屋の外に誰かが立っている気配がし、大声を上げ牽制をする。

 こんなときに限って手元に装備がないとは、目も当てられないとんだ大失態だった。勇者に恨みがある奴か、それとも魔族の残党か――

 正体はわからないけど、私の魅了チャームさえあればどんな相手だって丸め込む自信はある。


「さぁ、出てらっしゃい」


「許さない……許さない許さない許さない許さない」

「え……ユリアなの?」


 闇から姿を現したのは、共に旅を続けた親友のユリアだった。だけど、様子がおかしい。今は気が触れたようによだれを垂らして、目をこれ以上ないくらいに見開いていた。


「許さない許さない許さない許さない許さない許さないったら許さない。勇者様を寝取る女狐なんか殺してやるるりるるら?」

「ちょっと、ユリア! あ、あんたが滅びの呪文を使って勇者を殺したの?」


 ユリアは勇者の事が好きだったの? そんなの知らなかった。そもそも知ってたらこんなこと……。


「殺ろ殺ろころころコロコロコロコロ殺す!!」


 

 ――滅びの呪文デスペル!!


 

 なんで? 私達……親友だと思っていたのに――






『いらっしゃいませ☆』


 ――うぐ……うう……どうして……って、あれ?


「…………(無表情)」


「…………(軽蔑)」


「…………(赤面)」


「ちょっとここどこよ……あら? 私すっ裸じゃない。まあいっか、減るもんじゃないし」


「減りますよ数少ない視聴者が。責任とってください。そして常識を身につけてください」


「ぼ、僕も目のやり場に困るので、服着てください……。ぽんぽん冷えますよ?」


「嫌よ。服を着させたいなら……そうね、そこのあんた。今すぐ私とヤりなさいよ」


「はあ? 嫌だね。ババアに興味などない。幼女になって出直しな」


「何ですって! この私が相手してやろうって言ってるのに断るなんて許せないわ!  

 この童貞がっ!」


「チクショー! 何故どいつもこいつも俺の事を童貞だと決めつけるんだ」


「童貞ですよね」

「童貞でしょ」

「童貞さんです」


「おっと、おじさん良い年して泣いちゃうぞ? 大の大人が声を大にして泣いてるとガチで引いちゃうぞ? いいんだな? きっと何処かの世界におじさんでも相手してくれる幼女だっているんだからな?」


「いてたまりますかコノヤロー。わかりました。こちらも少し言い過ぎましたね。幼女は無理ですが、妖女なら紹介しますのでそれで手を打ってください」


「守備範囲はインハイ並みに際どいことは重々承知の上で言わせてほしい。妖怪は勘弁してくれ。なんていうか、もう少し努力を見せてほしい。誠意を見せてほしい。初めてが妖怪とか業が深すぎる」


「幼女は無理なんで、養女でも貰ってください。そして田舎で養生してください。お疲れ様でした」


「終わらせるな終わらせるな。俺は何処にも転生しないぞ。不当解雇は認めない。断固拒否する」


「不当解雇も何も書面で契約を交わしてるわけでも在りませんしね。ニートは弱者ですよ」


 ぎゃーぎゃー


「この二人出来てるの?」


「いえ……お互いそんな度胸ありませんし、なにより大人なのに拗らせてますからね」


「あんた見かけによらず毒吐くのね。そういうの、お姉さん好きよ」


「ところで、お姉さんはどうして亡くなったんですか?」


「子供に聞かせるような話じゃないけど、魔王を倒した後に、王の息子の勇者とイチャイチャしてたの。ありきたりな玉の輿とか狙ってたんだけどね、自分に合ってない気がしてその日限りで付き合いはやめようとしたんだけど……同じパーティーだった女の子に勇者共々殺されちゃったわけ」


「そうだったんですか……」


「私は親友を裏切ったんだから殺されても文句は言えない。なんでも隠していたからいけなかったのよ。だから、あの二人を見てると少し羨ましくもあるわね」


「僕も……羨ましいです」


「あら。やっぱ気が合うわね、私達」


「何のお話をしてるんですか?」


「秘密よ」

「秘密です」

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