黒鉛筆で描いた虹

碇屋ペンネ

プロローグ

「私たちって似てるよね」


 君は時々、そんなことを口にした。

「全然違うけど……、違うけど、よく似てる」

 そんな風に言う。

 僕はその言葉の意味がよくわからなくて、だからその言葉を聞くたびに、困った。

 思いあたる事柄がなかったし、しかも唐突だったからだ。

 なにより君の言葉を理解できないことが、辛かった。

 だから僕は、茶化すように言う。

 そうだね。目が二つあることとか、足が二本しかないこととか、あとは胸が薄っぺらいところとかは、似てるかな。

「そういうことじゃないんだよー。それに私の方が、むね、は、まだ、ある」

 スタッカートで強調された言葉の中に、「まだ」という言葉を見つけて、僕は顔を背けてほくそ笑む。

 自覚、あるんだ。

「これでも悩んでるんだからね、もー」

 君の膨らませた頬が僕はたまらなく好きだった。大好きだった。

 ずっと、ずっと……、見ていたかった。

「すり替えないでよ。は、な、し」

 あれ、何の話だったっけ?

「だーかーらー」

 君のすねたような声を聴くことは、普段なかなかできなかったから、僕はその声を心のボイスレコーダーに焼き付けた。

「私たちが、似てるって話」


 結局、君が何を言いたかったのか僕にはわからない。

 わからないまま、君は僕とは似ても似つかない姿になってしまった。

 目は片方つぶれていたし、二本だった足は歪な四つの塊になって部屋のあちらこちらで転がっていた。胸なんて、薄っぺらを通り越して空洞だ。中身はぐちゃぐちゃになって辺り一面に散らばっている。

 そしてそのすべてが、赤々と燃えていた。

 血の匂い。脂の匂い。そしてほんのりアルコールの匂いがして、むせ返る。

 君の身体を汚したくなくて、こみあげてくるものをすべて飲み込んだ。

 君がこの場を見たのなら、「もう汚れちゃってるじゃん」なんて、そんなことを言ったのかもしれない。

 けれどその言葉をささやくはずの君は、ただの黒ずんだ灰とねばりつく赤い液体に成り果てていた。

 その肉塊の中で、たった一つ君が僕に似ているところを見つける。

 僕が君に贈ったおそろいのシルバーリング。

 それだけが炎から逃れて、ちぎれたひじから先だけの左腕の指の付け根に、無傷で添えられていた。

 でも、そんなことじゃないんだろ?

 

 なぁ、歩波。

 教えてくれよ。

 僕らはいったい、なにが似ていたんだろう。

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