§1 思い掛けない告白
高校2年生になった七海は、文芸部の部長として新入生の勧誘に忙しかった。前部長の赤西亮伍からの交際の申し込みを断り、彼の卒業を見送った。彼に馬鹿にされた純愛小説は、最後の部分に抱擁シーンを付け足して文芸誌に掲載した。新入生には評判で、七海は面目を果たした思いでいた。
去年の暮れに相談相手になってくれた北高の
「5月の終わりに、郁也がダブルデートしようと言ってるけど、七海はどう?」と
「ダブルデートって、わたしは相手がいないよ。」
「冬馬君がいるじゃないの。デートしようよ、いいよね!」
花織は半ば強引で、仕方なく付き合う事にした。花織は北高の
4人で電車に乗って、海の近くにある遊園地を目指した。花織のニットのセーターにミニスカートという服装に対して、七海はトレーナーにジーパンというガードの固い服装だった。
「梅ちゃん、今日はよろしくね!おれ、頑張るから!」
「何を頑張るのよ。私を誘い出すために、冬馬君が考えた事でしょ!」
彼は笑っていたが、見え透いていた。花織と郁弥はお互いの体に触れ合ったり、手をつないだりして仲が良さそうだった。私の脳裡には、中学の時に千宙とデートした時の思い出が、懐かしくよみがえっていた。目の前の二人を見て、傍からはこんな風に見られていたんだと、一人恥ずかしくなった。
いくつかの遊具を巡り、昼食を買って来て芝生広場で食べた。
「梅ちゃんは、冬馬のことをどう思ってるの?付き合えばいいのに!」と郁弥君に言われ、「そんな気はない」と私ははっきり答えていた。冬馬君は聞こえない振りをしていたが、大分ショックを受けていたようだった。
「郁也君は、香織が本当に好きなの?それともただの遊びなの?」
「直球で来るんだね、怖いな!好きに決まってるよ。」
「だったら、花織のことを大事にしてね!変なことしたら、怒るからね!」と言う私に、花織が「変なことって、何?」と無邪気に訊いてきた。私はあきれてしまい、その場に寝転んで目を閉じている内に、眠たくなってうとうとしていた。しばらくして不穏な気配を感じて目を開けると、目の前に冬馬の顔があり、私に覆いかぶさるようにして大きな体が迫っていた。私はびっくりして、思い切り平手で彼の顔を引っ叩いていた。
「いてぇー!そんな憎しみを込めなくても、顔を見てただけだよ。梅ちゃんの寝顔が可愛くて、見とれてたんだよ。」
私は「ふざけんな」と言って起き上がって周りを見回すと、花織と郁也が横になってイチャイチャしていた。彼女を心配して、損した気分だった。
遊園地の最後は、二人ずつで観覧車に乗った。冬馬はさっきの事もあって、愁傷な態度であまりしゃべらなかった。
「冬馬君、どうしたの?大人しいね。反省してるなら、許して上げるよ。」
「おれ、中学の時から梅枝のことが好きだった。おれなんか、相手にしてくれないと思って言わなかったけど、今はもっと好きだ!付き合いたい!」
観覧車がてっぺんにもうすぐ差し掛かろうとする所で、突然告白された。彼の気持ちには前から気付いていたが、私はずっと知らん顔をしていた。今まで付き合いたいと思った事はないし、異性としての好きの範疇ではなかった。しかし、こうして真正面から告白されると、心に迷いが生じてきた。
「あ、ありがとう!そう言ってくれて嬉しいけど、考えさせて。」と、彼を傷付けないように、言葉に気を付けて答えた。彼は黙ってうなずいて、外の景色を眺めていた。体に似合わず、意外と純情な所がある男子だと思った。外に目線をずらすと、花織たちの乗ったゴンドラが見える位置にあり、中で二人が抱き合っているのが目撃された。
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