§1 思い掛けない告白

 高校2年生になった七海は、文芸部の部長として新入生の勧誘に忙しかった。前部長の赤西亮伍からの交際の申し込みを断り、彼の卒業を見送った。彼に馬鹿にされた純愛小説は、最後の部分に抱擁シーンを付け足して文芸誌に掲載した。新入生には評判で、七海は面目を果たした思いでいた。

 去年の暮れに相談相手になってくれた北高の白石しらいし冬馬とうまからは、頻繁にメールが来ていたが、適当に返事をしていた。春休みに1度だけ会って話したが、七海にとっての好きなタイプではなく、単なる男友だちの一人だった。しかし、冬馬は七海が好きで、盛んにアタックをしていた。

「5月の終わりに、郁也がダブルデートしようと言ってるけど、七海はどう?」と真行寺しんぎょうじ花織かおりが私を誘ってきた。

「ダブルデートって、わたしは相手がいないよ。」

「冬馬君がいるじゃないの。デートしようよ、いいよね!」

 花織は半ば強引で、仕方なく付き合う事にした。花織は北高の青柳あおやぎ郁也いくやとよりが戻って、付き合って半年以上になる。私の忠告を守ってキス以上の関係にはまだなっていないらしいが、相手はそれ以上を求めているようだ。


 4人で電車に乗って、海の近くにある遊園地を目指した。花織のニットのセーターにミニスカートという服装に対して、七海はトレーナーにジーパンというガードの固い服装だった。

「梅ちゃん、今日はよろしくね!おれ、頑張るから!」

「何を頑張るのよ。私を誘い出すために、冬馬君が考えた事でしょ!」

 彼は笑っていたが、見え透いていた。花織と郁弥はお互いの体に触れ合ったり、手をつないだりして仲が良さそうだった。私の脳裡には、中学の時に千宙とデートした時の思い出が、懐かしくよみがえっていた。目の前の二人を見て、傍からはこんな風に見られていたんだと、一人恥ずかしくなった。

 いくつかの遊具を巡り、昼食を買って来て芝生広場で食べた。

「梅ちゃんは、冬馬のことをどう思ってるの?付き合えばいいのに!」と郁弥君に言われ、「そんな気はない」と私ははっきり答えていた。冬馬君は聞こえない振りをしていたが、大分ショックを受けていたようだった。

「郁也君は、香織が本当に好きなの?それともただの遊びなの?」

「直球で来るんだね、怖いな!好きに決まってるよ。」

「だったら、花織のことを大事にしてね!変なことしたら、怒るからね!」と言う私に、花織が「変なことって、何?」と無邪気に訊いてきた。私はあきれてしまい、その場に寝転んで目を閉じている内に、眠たくなってうとうとしていた。しばらくして不穏な気配を感じて目を開けると、目の前に冬馬の顔があり、私に覆いかぶさるようにして大きな体が迫っていた。私はびっくりして、思い切り平手で彼の顔を引っ叩いていた。

「いてぇー!そんな憎しみを込めなくても、顔を見てただけだよ。梅ちゃんの寝顔が可愛くて、見とれてたんだよ。」

 私は「ふざけんな」と言って起き上がって周りを見回すと、花織と郁也が横になってイチャイチャしていた。彼女を心配して、損した気分だった。


 遊園地の最後は、二人ずつで観覧車に乗った。冬馬はさっきの事もあって、愁傷な態度であまりしゃべらなかった。

「冬馬君、どうしたの?大人しいね。反省してるなら、許して上げるよ。」

「おれ、中学の時から梅枝のことが好きだった。おれなんか、相手にしてくれないと思って言わなかったけど、今はもっと好きだ!付き合いたい!」

 観覧車がてっぺんにもうすぐ差し掛かろうとする所で、突然告白された。彼の気持ちには前から気付いていたが、私はずっと知らん顔をしていた。今まで付き合いたいと思った事はないし、異性としての好きの範疇ではなかった。しかし、こうして真正面から告白されると、心に迷いが生じてきた。

「あ、ありがとう!そう言ってくれて嬉しいけど、考えさせて。」と、彼を傷付けないように、言葉に気を付けて答えた。彼は黙ってうなずいて、外の景色を眺めていた。体に似合わず、意外と純情な所がある男子だと思った。外に目線をずらすと、花織たちの乗ったゴンドラが見える位置にあり、中で二人が抱き合っているのが目撃された。

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