§6 誕生日のさよなら
千宙が六花の家を訪れたのは、バレンタインの前日の日曜日だった。その日は、六花の16歳の誕生日で、母親は張り切って料理を準備していた。
「俺、図々しくないかな?今になって、気が引けてきたヨ。」
「わたしが来てほしいと思って誘ったんで、気にしないでください。」
私は彼を迎えに行き、そわそわしながら一緒に家に向かった。
「あら、いらっしゃい!立松君ね、いつも六花がお世話になってます。」
「初めまして!お世話されてるのは、自分なので。」
彼は緊張した面持ちで、母と挨拶を交わしていた。母が部活や学校の事を訊いていると、雪乃がやって来た。彼はやっと解放されたと思ったのか、いつもの顔に戻っていた。そして、プレゼントだと言って、彼からはお気に入りのグループのCDを、雪乃からは毛糸の手袋をもらった。私からは、バレンタインのチョコレートだと言って、二人にお返しした。食事とケーキを食べて、二人を私の部屋に案内した。CDを聴きながら、主に私と雪乃が話していた。しばらくして、雪乃が千宙さんに話しのほこ先を向けた。
「今日は何で招待されたか、分かってますか?六花の気持ちに、そろそろ気付いて上げてくださいよ!」と真正面から切り込んだ。彼は小さくなって、
「どういう気持ち?」とつぶやいていた。
「ちょっと、雪乃、千宙さんが困ってるよ。」と私は口をはさんだ。
「俺も六花のことが好きだけど、好きの種類が違うんだよな。何て言うか、妹みたいで、傍にいて守ってやりたい存在なんだな。」という彼の言葉に、
「それは、恋じゃないの?彼氏として守ってやれば、良いんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、俺は今のままで楽しいし、六花は違うの?」
私に話が向けられて、自分の事なのに、どう応えたら良いのか戸惑った。
「わたしは、男の子を好きになったのは初めてで、どうして良いのか分からないというのが、正直な気持ち。千宙さんが、今のままでと言うならそれでもいいし、わたしを特別だと思ってくれたら、もっとうれしい!」
「特別には違いないけど、部活の中で気まずくなりたくないんだ。六花のことを好きな男子は他にもいるし、俺たちが付き合うとなると支障が出るのは目に見えてる。六花も部活が、やり難くなるんじゃないかと思う。」
彼の言い分を聞いて、私の頭の中は混乱していた。
「そうか、そうだよね。やり難いわね!それなら、千宙さんが部活を引退したら、付き合うというのはどう?その時に、まだ好きならばだけど。」
雪乃は勝手に方向性を示し、自身は満足しているようだった。その話はそこで終わり、3人でゲームをして遊んだ。その間、私の気持ちはモヤモヤしたままだった。彼の心の中には、私以外の誰かが存在していると思った。
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