§6 両親への反発
冬休み間近になって、クラスの何人かがクリスマスパーティーを企画していた。花織もその中の一人で、七海も当然誘われていたが、両親が許してくれるとは思えなかった。中々言い出せないまま、終業式の夕方に、
「わたし、クリスマスの日に友達と出掛けるから。」と両親に告げた。
「何なの、急に。毎年その日は家族で教会に行って、食事する事になっているのは分かっているでしょ!」とまず母親に諭された。
「もう高校生なんだから、良いでしょ!いつまでも家に縛られたくないし、友だちとだって遊びたいよ!」と言う私に、今度は父親が口を開いた。
「七海の言う事は分かるが、高校生はまだ子供だ。どこの家にも決りがあって、それは国や県の法律、学校の規則と同じだ。家の一員ならば、その慣習に従って生活していかなければいけないんじゃないか?」
七海の父親は地方検事で、人を諭したり説得したりする事が仕事で、とても反論はできそうもなかった。彼女は遅い反抗期に差し掛かっており、何事に対しても常に反感を抱いていた。両親や家が嫌いという訳ではなく、自分の思いや考えを否定されたり、自由を束縛されたりする事を嫌った。
私は父親に抵抗する事もできず、その場から逃げ出していた。黙って出掛けようとする所を、母親に止められた。
「七海、どこへ行くの?」と言うのに対して、「ちょっと、コンビニ」とだけ言って外に出た。自転車にまたがって行く当てもなく走らせ、気が付くと商店街に来ていた。今のやり所のない気持ちを、誰かに聞いてもらいたいと思ったが、友だちの少ない私には花織しか思い付かなかった。しかし、花織では頼りなく、赤西さんに相談する事にした。
「もしもし、梅枝です。お忙しい所、すみません。今、少し良いですか?」と私は電話を掛けていた。
「ああ、ナミちゃん?どうしたの、こんな時間に。」と応える彼の、何となくよそよそしい態度が気になった。
「実は話したい事があるんですが、今から会ってもらえませんか?」
「今から?電話じゃ駄目なの?」と言われ、「会いたいんです」と告げた。ところが、私の求めに反して「それは無理だ」と電話を切られた。
七海は、信頼して尊敬していた赤西に冷たくされ、両親とのいさかい以上にショックを覚えていた。自転車を押しながら途方に暮れて歩いていると、前から大柄の男が手を振りながら近付いて来た。
「梅枝、久し振り!夏の花火以来だよね。今日は買い物?」
相変わらず軽い調子の白石君に、私の重かった気持ちは少し和らいだ。
「別に用事じゃないけどね。白石君こそ、サンダル履きで何してるの?」
「家がそこで鮨屋をやってるから、ここは庭みたいなもんだからさ!」
この際、話し相手になってくれれば誰でも良いと思い、
「白石君は、今暇なの?どっかで話ししない?」と誘い掛けた。
「見ての通り!梅枝が誘ってるんだから、暇じゃなくても暇だよ。」
中学の時から調子が良いと思っていたが、彼の言葉に笑ってしまった。
「どうする?どこへ行く?何なら、俺の家に来る?」
「何で、あんたの家に行くのよ!いやらしい事を考えてるんでしょ!」
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