ネットで素敵な人に出会ったと煽ってくる幼馴染に対抗して自分も素敵な人見つけてやった結果

時雨朝

第1話「幼馴染が浮かれてます、わたしは怒ってます」

「しっかしさー昨日ネットで話したお姉さんがすげーおとなでさー」


そう話かけると、僕の幼馴染、赤石 みなと(あかいし みなと)は不機嫌そうな顔をした。


「なーに? わたしはおこちゃまだって言いたいの? わるかったわね、まーくんも子供だからお姉さん幻滅するかもよ?」


ぷりぷりしながらみなとは怒っていた。

僕のことをまーくんと呼ぶのは子供のころから。

僕の名前は林 正人(はやし まさと)だからまーくん。


「それになんなのよ、そんなおこちゃまのわたしのカレー食べて喜んでるの、どこのどいつなのよ」


まだみなとは不満なのかブーブー文句を言っている。


「だってあれはアレルギーがひどいからカレーが一番って言われてるから」


「それもそうだけど、おば様が会社の日にまーくんのご飯食べさせてるのわたしなんだけど」


みなとは幼馴染であり、ご近所さん。

中学くらいからは母親が留守の時は我が家で晩御飯を作っている。


「それにそんな女、まーくんに絶対カニ食わせるんだから!」


「それはあったときに食べれないっていえばよくない?」


「よくない!まーくん今度食べたら入院じゃすまないかもしれないんだからね!」


「ほら、食事の約束はしないで、うまくデートできないのかな?」


「デート? そのお姉さんに中華食べたいなー、かに玉たべたいなー、って言われたらどうすんのよ」


「お年玉の貯金があるから、デートはできるよね、僕はかに玉を食べなきゃいいだけじゃん」


「あまい!カップルなんだから、あーん、ってやられるよ? そしたらまーくん死ぬんだからね!」


みなとは顔を真っ赤にして怒っていた。

まるで、うちの母親みたい。


そう思いながら見ていた。


「いやいや、みなと、勘違いしないでくれよ、まだ付き合ってないし、昨日ちょっとネットで話したくらい」


「そっか、よかったねぇ」


みなとは完全にむくれていた。

恐ろしいくらい機嫌が悪かった。


これは困った。

今日母親は会社でいない。


みなとが僕の食事当番。

これは今晩は食事抜きかもしれない。

そんなことを少し覚悟した。


「それで? まーくん、その女の写真は?」


「え?」


「美人なの? ブスなの?」


「え? ええ?」


「ブスだったら絶対許さないんだから!」


「まって、落ち着いて、昨日少し話しただけなんだって、向こうのことはあんまり知らないんだよ」


「じゃあなんでそんなお姉さんなんだよねって自慢できるの?」


「僕のこと、応援してくれたから」


「そうなんだ、わたしも応援してるじゃん」


「なんか、その、フィーリングだよね」


「えー、それ、男かもしれないよ?」


「そうなのかなぁ」


「もー、ぼんやりして、何言ってんのよ、後で危ないからわたしが見てあげるから、ね?」


「母親か!」


「おば様に頼まれてるんです!」


その言葉に愕然とした。


母親そんなことまで頼んでいたのか。


「とりあえずスマホは見せないからね」


「ま、プライバシーだしねそこまでは深追いしない」


そう言い捨てるとみなとはツーンとして前を歩いている。


これはやばい、夕飯はカップラーメンか、コンビニおにぎりか。

少ないと夜中におなかすくんだよな。


なんて心配してみなとと帰りの道を歩いていた。

気まずい空気が流れ無言になっていく。


はなすタイミング間違ったかななんて反省していた。


「やっとおちついた、いきなりわたしのことバカにするまーくんが悪いんだからね」


「僕もごめん、話すタイミング間違ったのかもね」


「わかればいいんだよ、でもわたしも怒りすぎちゃった、ごめんね」


「そうだよね、普段お世話になってるのにひどいこと言ってごめんね」


「ううんいいの、今日はね、カレーにハンバーグ乗せちゃう? チーズも乗せちゃう?」


「どしたの急に?」


「少しケンカしたから、晩御飯は豪華にするよ」


「そっか、今日は晩御飯なしかなってちょっと焦ったよ」


「頭に血が上ったの、それが何でかはカレーつくりながら教えてあげる」


「う、うん」


「そんな恥ずかしい話、外じゃできないから、早く帰りましょ」


「わかった、ごめんね」


それから無言で、家へと向かっていった。


家に帰ってからも。

無言だった。


家の中にはみなとが使っている包丁音だけが響き渡っていた。


軽はずみなことをしてしまった。

そんな自責の念が多くなっていた。

でもそんなことでへこんでいてもしょうがないから。


とりあえずみなとが夕飯のカレーを作っている間に宿題を片付けていく。


宿題をちょっとやっていると。

昨日話していたお姉さんから。

メッセージが届いていた。


「少しうれしいような、悲しいような心境です」


僕はこう返した。


「お姉さんの気持ちに正直になってあげてください」


それから返信が途絶えたので。


そのまま宿題を片付けてしまう。


ちょうど、終わるころ。

みなとに呼ばれて夕飯になった。


「おまたせ、まーくん、チーズハンバーグカレーだよー」


「わぁ、うれしい、いただきます」


そのまま夕飯が始まる。

TVではニュースが流されていた。

いつもと変わらない感染症の話題や、悲惨な内容が多い。


でも、ニュースっていつもそう。


間違っても、誰かがめっちゃ幸せになりました。


なんて聞いたことはないなって思いながら画面を見つめていた。


「まーくんが彼女か」


「まだ付き合ってないって」


「でも、わたし以外の女の子に興味持つだなんてね」


「だってもう、僕も、子供じゃないんだから」


「そーだね、最近はおっぱいおっきいアイドルの写真とかもよく見てるしね」


「え? スマホ覗いたの? ひどいよ」


「あはは、ひっかかった!適当に言ってるのに、あたりだったんだ」


「え? どういうこと?」


「好きだろうなっておもって、適当に言ったのよ」


「なんだ、てっきり覗かれてたのかと思ったよ」


みなとはニヤニヤしながら話を続ける。


「ほんとねぇ、小さなときは、わたしの後ろに隠れてビクビクして、わたしと結婚したいなんて言ってたのにね」


「それは幼稚園くらいまでだろ」


「そうそう、でも、いままでわたしに隠れて彼女とかいたの?」


「プライバシー」


「いいじゃない、わたしはまーくんの面倒見るのが忙しくて、恋とかしなかったな」


「それはごめんね、みなとなら、料理もうまいし、モテそうだけどね」


「なによそれ」


みなとは顔を真っ赤にして、僕のことをじっと見つめる。


「僕がご飯の作り方覚えたら、みなとも自由なんだよね、僕ね、レトルトカレーでも、我慢できると思うよ」


「そっか、でもねそれは少しさみしいな、それにまーくんにレトルトカレー食べさせるような女は許せないなー」


「なんでそんなに僕の心配するの?」


「もー、にぶいなー、そんなの結婚しようって子供の頃に言われたからに決まってるじゃない、子供のころからまーくんのお嫁さんになるつもりだったんだから」


「その、子供の時のこと、そんなに真面目に聞いててくれてたんだね、なんかごめんね無神経なこといちゃって」


みなとは首を横にふり、肩をすくめた。


「でも今は、逆にそのお姉さんとやらが気になるわね、わたしとまーくんが仲良くしてるのをおば様が嫉妬してたらしいの」


「母親が?」


「そうそう、今までママにしか甘えなかったまーくんが近所の女の子と遊ぶようになってそしたらその女の子の話ばっかりなったって」


「覚えてないよ」


「これからお姉さんと会うようになったら、わたしがそう思うのかなー、やだなー」


「お姉さんと仮に仲良くなって、家に連れてくるようになったら、みなとはどうすると思う」


「ずーっと見てると思う」


「気まずくない?」


「キスなんかしたら、埋めてやるんだから」


「僕を?」


「二人とも」


「見つからないように、連れてきます」


みなとの視線がきつくなる。


「それはわたしの目の黒いうちはさせないんだからね」


「母親より厳しい」


「わたしは嫉妬で心がおかしくなりそう」


その一言にかなり焦った。

僕が思っているよりみなとは本気で僕のこと好きなのかな?


って少し怖くなった。


「あのさ、みなとって、僕のことそんなに好き?」


「好きか嫌いかで行ったら、好きだけど、恋愛的な好きじゃない、でも想像してごらん、今までずーっと面倒見てきたまーくんを知らない女に取られるのって悔しいんだよね」


「そっか、どうしたらいいかわからないよ」


「まずもってねぇ、わたしですらちゃんとデートに誘えないのに、お姉さんをどうやって誘うつもりなの?」


「そ、それはググるよ」


「そんなんだから失敗するのよ」


「だからまだ付き合ってないし、早い話なんだって」


「でも、正直気に入らない、せめて一回でいいからデートしたい」


「え?」


「きこえなかった?」


「いやいや、状況がつかめないから」


「とりあえず、デートいこ、お姉さんとはそのあとでもいいよね?」


「そんなに嫌なの?」


「いやになってきた、せめて初めてのデートは私と行ってほしい」


「わかった、わかったから」


「じゃあ、来週デートね」


「え?」


「きこえなかった?」


「心の準備が」


「武士に二言はないわよね?」


「じゃあ、そういうことで」


みなとの圧に押されてそのままデートが確定する。


…………のかな?


なんかよくわからない状況になってきている。


状況を整理しよう。

お姉さんの話を振ったらみなとが爆発して。

ぼくとデートに行くって言い始めた。


よし、まったく状況が解らないぞ。


女の子がたくさん出てくるゲームなら。

デートフラグってやつなんだろうけど。


ぼくにとってみなとは保護者という感覚しかないから。


かなり複雑である。


「ちょっと、聞いてる?」


「ごめん、考え事してた」


「もぉ、おにぎりと、サンドウィッチどっちがいいって聞いてたの」


「えっと、サンドウィッチかな」


「わかった、来週の日曜日、お弁当持って駅前集合ね、晴れたら公園でお昼よ」


「あ、うん、制服でいい?」


「そんなわけないでしょ、ちゃんとおしゃれしてきなさい」


「うん、わかったよ」


「どうする? 服も見に行く?」


「やっぱ買った方がいいのかな?」


「もちろん、それじゃあ、わたしは後片付けしたら帰るから、ちゃんとデートプランたてといてね、宿題なんだから」


「う、うん」


「ほらほら、そうと決まったらちゃっちゃとカレー食べちゃいなさい」


「わかった」


ぼくはみなとに促されるまま、カレーを食べる。

ごちそうさまをしてから、軽く水で流す。


片づけをみなとに片づけを任せる。


部屋に戻ってデートプランを考える。

あまりぱっと浮かばなかった。


でも確定していることは、服屋に行くことと。

お昼ごはんだけ。


なんか、落ち着かなかった。


いつも家に来てご飯を作ってくれたり。

通学路で、いろんな話を聞いてくれる。

そんな部分しか知らないみなと。


どうやってデートに誘うべきなのか。


少し悩んでいた。


でもこれも今知り合ったばかりのお姉さんともしデートなんて話になったら。

恥ずかしい思いはしてられないから。


みなとは優しいのか。

おせっかいなのか。


でも、親切には違いないから。

それはありがたいとして。


頑張ろうと紙にペンを走らせる。


うまくいけばいいなと考えつつ。


みなとの無茶ぶりによって出来てしまった来週の予定を。

ちょこちょこ練っていくのだった。

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