事の顛末
板外編:モブ男と事の顛末1
ついにスレに書き込んだ。
今まで見ることしかしてこなかった青年が、初めて。
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124:名無しの召喚士だけど恋がしたい
あの……盛り上がってる中ちょっといいですか?
125:名無しの召喚士だけど恋がしたい
お?
126:名無しの召喚士だけど恋がしたい
どうした?
**
『【恋が】美男美女だらけな神々が登場するゲームに転生したのにフラグが全く建たない件について【したい!!】』
青年も明らかにこんな話をするような
最初は面白そうだから開いてみただけだった。眺めて楽しもうと思っていただけだったのだが。
もう後戻りはできない、とここに相談することを決意する。
初めて他人に話す、自分が……
**
127:名無しの召喚士だけど恋がしたい
あの、俺、どうしても付き合いたいんです
契約神と
128:名無しの召喚士だけど恋がしたい
へ?
129:名無しの召喚士だけど恋がしたい
124のそれは特定の誰かがいる感じ?
**
……そう、自分が契約神に恋をしていることを。
叶わぬ恋、身の程知らずな恋であることは重々承知である。それでも……誰かに伝えてみたかった。
そして勇気のない自分へ、後押しをして欲しかった。
いや彼女いない歴=年齢の俺らに話されましても……と、予想通りそういう話は別の場所の方がいいぞと進められる。
だが、「まあまあまあ、いいじゃねーか
聞いてやろうぜ?」というスレ民の一言により、男は安堵のため息を漏らし、書き込みを始めた。
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141:124改めモブ男
俺が好きなのは……端的に言うとヘラなんです
……
**
青年ことモブ男の頭に浮かぶのは、編み込んだ艷やかな黒髪と金色の目を持つ華やかな美女だ。似たような名を持つ銀髪の彼女ではない。
彼がヘラに気がつけば恋をしていた。最初から彼女を喚ぶことができたのもあるが、その1番のキッカケとなったのは、やはりあの時彼女に言われた言葉だろう。
その時モブ男に下っていた任務は「スロイン皇国より南の平野にて、
というもの。
ちょうどスロイン皇国最南端、エウリテに箱庭を置いていたモブ男に向けられた任務と言っても過言では無かった。
……だが、その時、モブ男は迷っていた。なぜなら、その頃のモブ男は駆け出しの駆け出し。邪神を退治したことも無い新人だったからである。そして契約神の数も少なく、
しかも任務詳細をレイフから聞いてみれば、なかなかに強力な邪神とのこと。かなうかどうかも五分五分だった。
もしかしたら、全滅してしまうかもしれない。契約神達をそんな死地に行かせたくはない…。他の召喚士の助けを呼ぼうか? でも、今ここで防がないとこの町が……!
そうして足踏みを続けていたモブ男にヘラはコツコツと近づいてきて、
「何を優柔不断でいるんですの!?
そうやって考えている間にも刻々と敵は迫ってきているというのに
貴方が決断しない限り
モブ男、
私達の身を案じるより前に今やるべきことをしてくださいまし」
なんて叱ってくれたのだ。
モブ男にとってそれは衝撃的な出来事だった。
モブ男は元々裕福な家庭に生まれ、親に溺愛されて育った。そして叱られるようなことがまるで無かったのである。だからこそ優柔不断に育ってしまった。
もちろん前世では叱られたことも多々ある。が、今世では無かった。自分を止めてくれる相手が誰1人居なかったのだ。
そんな中、初めて叱ってくれたのがヘラだった。もちろんダメージも大きかったが、その分強く心に残った。
その時、モブ男を金色の目で真っ直ぐ見据えていた彼女の凛とした様子を青年が忘れることは無いだろう。
そんな思いを赤裸々に綴ると、甘酸っぱいやら青春やら様々な返信が来る。その返信にまた顔を赤らめる。ああこんな事も言ってしまった。
**
154:名無しの召喚士だけど恋がしたい
とりあえず当たって砕けるだけ砕けてみねぇか?
155:名無しの召喚士だけど恋がしたい
スレ民非リアな割には面倒み良くて草
156:名無しの召喚士だけど恋がしたい
告白!告白!
157:モブ男
ええっ告白ですか!?
**
告白……モブ男が考えもしなかった回答である。……いや、考えてはいたが諦めていたことだ。
相手は神様、自分とは明らかに格が違う。告白したとして、迷惑がられてしまうのならば今の関係のまま……それでいいと思っていた。
スレッドの書き込みはモブ男を応援するものばかりだった。
たしかに、ゼウスがこの箱庭に来てしまえばヘラと会える時間は減るだろう。
ヘラは公式でゼウスにブラコンである。ゲーム内では恋愛感情のあるようには描かれていないものの、原典である神話では夫婦として描かれていた。
もしゼウスが来たら、ヘラはゼウスにつきっきりになるのが目に見えている。その前に動かないといけないと、モブ男も感じていた。
**
167:モブ男
……分かりました
やってみます!!
168:名無しの召喚士だけど恋がしたい
よっしゃあああああ!!
169:名無しの召喚士だけど恋がしたい
ウォォォォオオ!!
170:名無しの召喚士だけど恋がしたい
きたきたきたー!!
171:名無しの召喚士だけど恋がしたい
こーくはく!
こーくはく!
**
モブ男が肯定の意を書き込むと、スレがわぁぁぁっと沸いた。
モブ男を応援するコメントがほとんどで、当のモブ男はついに言ってしまったというほんの少しの後悔と、でも気持ちを伝えたいという決意でキリッとした、でも少しのふにゃっともしたなんとも言えない表情をしていた。
そしてそれならば綿密なプランを練ろうと作戦会議が始まる。
まずはヘラの分析かららしい。モブ男はスレ民達からみたヘラのイメージに頷きつつ、彼女とのこれまでを思い出す。
書類仕事をしている時、コーヒーを淹れてきてくれる気の利く所。
任務中に片時も離れず護衛してくれるカッコイイ所。
レイフを触らせてあげたときに見せたふにゃっとした可愛い笑顔。ああたしかその時、動物好きって言ってたような……?
モブ男がそのことを伝え、ペットをプレゼントしないかなんて話になったが、結局レイフが居るじゃんということで話はなくなった。
それからこれまでのヘラとの思い出をスレ民達に話すと、確実に脈アリじゃん! と彼らはまた沸いた。
**
294:名無しの召喚士だけど恋がしたい
まずは少なくとも箱庭内に1人は味方が必要だな!!
モブ男の箱庭には誰がいる!?
295:名無しの召喚士だけど恋がしたい
エロスとかオオクニヌシとか縁結びの神は恋愛相談には最適だぞ!!
296:名無しの召喚士だけど恋がしたい
ロキは「面白そう」で多分協力してくれるだろうな!
297:モブ男
えっと俺まだ1年ちょっとしかやってなくて少ないんですけど……
・ヘラ
・メジェド
・バルドル
・エロス
・ヘルメス
・ヨウゼン
・ナタ
・バステト
・アフロディーテ
・ヘル
・アマノウズメ
の計11人です
運が悪いもので……
**
モブ男は運が悪いと言っているが、出ている
バルドルはゲーム内では最強と言われるオールラウンダー、ヘルはデバフと高火力の強いサポートタイプ内最強キャラだ。他も、全体の属性がそこそこバラついていて、サポート、アタッカー、ヒーラー、タンカー全て揃っている。
そこを考えればなかなか良い布陣と言えた。
そして、スレ民曰く、恋心と性愛を司る神であるエロス、愛と美と性を司る女神、アフロディーテが味方に引き入れるのに向いてるのだそう。
中でもエロスは恋バナ大好物な女子高校生の様な性格のため、協力は得やすいだろうなとモブ男は考えた。
今彼らは……ちょうど台所で調理中のはずである。エロス、アフロディーテに加え、メジェド、アマノウズメも台所を担当してくれているからだ。
モブ男はチラッと、今もすぐそこで読書をしている黒髪金目の美女……ヘラを見つめた。
実はこのスレに相談している間、ずうっと彼女はすぐ近くに居た。そして静かに読書をしていた。
おかげで、ヘラは日本語が読めないにせよ、モブ男は相当のスリルを感じながら書き込みをしていたわけだが……相談しに行くならまず彼女に一言言って、なんとか離れた上で行かないいけない。
ヘラはモブ男の護衛として、片時も離れず側に居てくれた。だから何と言えばいいだろう……? いや、ここは正直にヘラには話せないが相談事がある、と告げた方がいい気がする。彼女は嘘を嫌うから。
モブ男は相談についてヘラに伝える旨を書き込むと、勇気を出して立ち上がった。
「あの、ヘラ……」
「……あら、どうしたんですの?」
ヘラは優しげな表情でモブ男に問いかけた。モブ男にとってはこれが普通だが、他の召喚士が見たらたまげるような光景である。普通ヘラはもっとツンツンしていて、そんな優しい微笑みを常にたたえるような性格ではないのだ。
だがそんなことを知らないモブ男は、その綺麗な金色の目に、白く滑らかな肌に、艷やかな黒髪に、思わず見惚れていた。スレであんなに彼女について書き込んだこともあるのだろう。今日は特に意識してしまっている。
ヘラはそのぽやーっとした彼の様子に疑問符を浮かべていた。彼の召喚士名を呼ぶ。
「……本当に、どうしたんですの?」
その不思議そうな表情さえ愛おしい。今、彼の中には彼女に対する愛が溢れていた。
今、告白してしまおうか……と思えるほどに。でも、首を振った。まだ早い。ちゃんと準備をして、ムードのある中するのだ。
その様子に、ヘラは怪訝そうな顔に変わった。
「あ、えと、ごめん、ぼーっとしてたよ」
「……しっかりしてくださいまし。貴方は
その言葉に、モブ男は深く頷く。そうだ、いつまでもこんな調子じゃ駄目だ。切り替えないと。
「あの、俺さ、エロスとアフロディーテと3人で相談したいことがあるんだ。だからヘラはその間席を外してくれるかな……? あ、俺が移動するからさ」
「エロスと……アフロディーテ……?
いったいそれはどうして……」
「それはまだ話せない。でもいつか話すから」とモブ男が真剣な顔で言うと、ヘラはドキリとしたような様子で頷いた。どう考えても脈アリな様子だったが、それに主人公ばりに鈍感なモブ男は気付かない。ただ、ありがとうと笑みを見せた。
そうして部屋を出て台所へ向かう。
二人は協力してくれるだろうか……? いや、してくれる、きっと彼らなら。
でもどう切り出せば良いか分からず、スレ民達へ意見を仰ぐ。
**
340:モブ男
戻ってきました!
一応3人だけで相談したいことがあるって説得したらOKもらえました
それで今台所向かおうとしてるんですけど、どう切り出せばいいでしょう?
341:名無しの召喚士だけど恋がしたい
そりゃ、「ヘラが好きなんだけど手伝ってくれない?」でしょ
342:名無しの召喚士だけど恋がしたい
直球だなww
343:名無しの召喚士だけど恋がしたい
アフロディーテも「え〜あんな
344:名無しの召喚士だけど恋がしたい
愛と美とか司ってるからな!!
愛、司ってるからな!!
345:名無しの召喚士だけど恋がしたい
まぁうじうじ言うより直球が一番だろ
あいつらには
346:名無しの召喚士だけど恋がしたい
多分乗ってきてくれるぞ?
エロスはほぼ確で、それにつられてアフロディーテもくるだろ
347:名無しの召喚士だけど恋がしたい
勇気を出すんだ!
348:モブ男
……分かりました
行ってきます!!
**
端末を閉じて台所へ向かう。
「おや、主殿。書類仕事、お疲れ様です。
それで今はどちらに向かわれているのですか? もしよろしければ、このヨウゼン、お供させて頂きたいと……」
「ああっ、いや、これは……えと、台所に用事があるだけだから! 着いてこなくて大丈夫ってか、ついてこないで欲しいなー。気持ちは嬉しいけどさ」
その途中、運が悪かったのか契約神の中でも随一と言われるほど忠誠心のあるヨウゼンと鉢あってしまった。
ヨウゼンは今まで訓練でもしていたのだろうか? 任務用の服や防具を着ており、三又の槍を携えていた。その槍のデカさになかなかの圧迫感を覚えつつ笑いかける。彼はその槍を置き跪いてくれているとはいえ、室内ではしまってほしいものだ。
「そうですか……」
その断りの言葉を聞いたヨウゼンは明らかにしょんぼりとした。その姿に罪悪感を覚えてしまうが仕方がない。
「えと、じゃあ俺はもう行くね。ヨウゼン、護衛はまた今度お願いするよ」
「はっ、主殿のお思いのままに」
護衛はまた今度お願いするよという言葉に嬉しそうな様子なヨウゼンを見て、モブ男はふっと息を吐き出してから別れた。そして階段を下りて台所へ向かう。
その扉前で、スっと息を吐いてから吐き出した。心臓がバクバクと大きく鼓動し始める。
……よし。
【恋が】美男美女だらけな神々が登場するゲームに転生したのにフラグが全く建たない件について【したい!!】 らい @rairaito
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