第6話 密会

 そして、暫くしても帰って来ないアルフレッドを探して中庭を歩いていると、声が聞こえてきた。

 声のする方を見ると、そこにはアルフレッドと姉の姿があった。


 「アル、エミリーと別れて私と結婚して」

 「何を言っているんだ。もうエミリーと結婚しているんだ。大体、君との事は終わったことだ」

 「私達は、愛し合っていたじゃない。あの頃に戻りましょうよ」

 「無理だ。あの頃には戻れない」


 突き放そうとしたアルフレッドの手が躊躇しているのをエリザベスは見逃さなかった。すかさずアルフレッドの唇に強引にキスをした。アルフレッドは咄嗟に引き離したが、バランスを崩して抱き合うように

 アルフレッドは気付いていなかった。この光景を妻のエミリーに見られていることを……

 エリザベスは、エミリーに見せつける様に仕向けたのだ。


 (ああ、やっぱり私は邪魔者なんだわ)


 エミリーはその場から早く離れたくて一人で広間に戻った。

 しかし、そのやり取りを見ていたのはエミリーだけではなかった。


 「ねえ、大丈夫かい?顔色が悪いけど…」

 

 声をかけて来たのは、第二王子オーガスト殿下だった。


 「大丈夫です。ご心配には及びませ…」


 次の瞬間、エミリーの体がふらついた。オーガストは直ぐに侍女や侍従らを呼び控室で休ませるように指示を出した。

 付き添われて部屋に連れて行かれるエミリーを見ながら


 「全く、あの莫迦は……」


 呆れながら問題のアルフレッドに忠告しに行った。


 「アルフレッド、誰を探しているんだ」

 「えっ」

 「もう一度聞くが、探しているんだ」


 二度目は強い口調で聞いた。


 「妻のエミリーを探しているのですが?それが何か?」


 訳が分からないと云う顔をしたアルフレッドに、オーガストは厳しい口調で


 「この際だから忠告しておく。お前のは誰なんだ!言っておくが二度目はない!これが最後の忠告だ。それと彼女は控室で休んでいる」

 「何処か具合が悪いのですか?」

 「中庭から帰ってきてから、顔色が悪いし、ふらついていた」


 その言葉にアルフレッドはハッとなって急いで控え室に向かった。

 慌てて走り去るアルフレッドに半ば呆れ気味の視線を送りながら


 (これが最後の忠告だ!もし間違えることがあれば、お前を切り捨てる)


 そう心の中で呟きながら、会場の輪の中に戻って行った。

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