心を映す風景

勝利だギューちゃん

第1話

列車に乗っている。


海沿いを走るローカル線のボックス席。

電化はされていない。

車齢は60年はあるかと思うディーゼル化。


「あの頃と同じだな」


国鉄からJRに変わっても、走り続けている。

色を塗り替えたり、シートは新しくなっているが、さすがに列車も歳には勝てないか・・・


「まさか、また行くことになるとはな・・・」


わしの手には、一通の手紙がある。

今、わしが向かっているのは、その手紙の差出人のところ。


『あなたの絵、上手いね』

『どうもね』

『でも、それだけ・・・魅力がない』

『感心はするが、感動はしないってことか・・・』

『わかってるじゃない』


人を感心させるのは簡単だが、感動させるのは難しい。

少しでいい。

人の心に残るものがあれば・・・


『あなたは、自分のためにしか描いてないね』

『・・・』

『自己満足ならそれでいいけど、もし絵で食いたいと思うのなら、

人の為に描いてみなよ』

『むずかしいな・・・多くの人の心を打つ絵は』

『大勢でなくていいよ。まずは私のために描いてみて』

『時間、かかるぞ』

『うん。待ってる』


何年前になるだろう。

その手紙の主との、思い出が走馬灯のようによぎる。


そして・・・

目的地に着く。


懐かしい顔に出迎えられる。


「待ってたよ」

「すっかり、おばさんだな」

「あなたも、おじさんだね」


とても、時間がかかってしまった。


わしも、絵師になれた。

でも、彼女のこころを打つような絵は、描けなかった。


何年もかかってしまった。

だが、ようやく描けた。


そして、期待せずに彼女に連絡をした。

そして、ここにいる。


「じゃあ、見せてくれる?」


わしは、彼女に見せた。

彼女は微笑んで答えた。


「ふつつかものですが、よろしくお願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心を映す風景 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る