人道主義のジレンマ

アボリジナルバタースコッチ

人道主義のジレンマ

人道主義のジレンマ


私はシエラ。

各地に残留する放射性物質を除去する研究をしている。

毎夜遅くまで研究漬けの日々。


そんなある日、私のもとに宇宙難民アクラが訪ねてくる。

彼は私の研究を知るなり、それは無駄なことだと言った。


私は尋ねた。

なぜそのようなことを言うのか?

私と仲間たちが何年もの歳月をかけ、続けていることなのに。


アクラは躊躇いながら、ゆっくりと話し始めた。

彼の母星L-210では多くの国が、ある化学兵器の開発に力を入れていたという。

暴露すれば若年層の手足のみを壊死させ、高確率で不妊になる薬剤。

既に開発・保有している国は、恫喝や紛争にそれを使用した。


彼の父はそんな化学兵器に侵された人々救うため、解毒剤や治療法の開発に努めていたようだ。

アクラは高潔な精神を持つ父を尊敬していた。


父が開発した成果が、自国にのみ提供され、敵国に対して優位を得るために利用されていることを知るまでは。


敵国では父が治療法を開発済であった薬剤が散布され続け、多くの命を奪った。

適切な治療を受けることなく消えていく命。

一方で、本国にその薬剤が散布されても被害は最小限に抑えることができた。

父の開発した治療法によって。


彼は悟った。

父の研究が、紛争の惨禍を防ぐものではなく、兵器の使用を助長するものだったことを。


アクラはそこで話を切ると、私に向かって言った。

「君の研究は誰のためになるのか、果たしてそれは核兵器とやらの使用を促すものになるのではないか」

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人道主義のジレンマ アボリジナルバタースコッチ @ikayarod

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