【完結】Sランクパーティを追放され大人気のVチューバーになりました。今さらパーティに戻ってほしいと言われても無理です。
愛田 猛
第1話 追放
パーティリーダーのアンドレが、にやにやしながらスタンに告げた。
「スタン、お前はクビだ。このパーティから出ていけ。」
その数か月後。
スタンは、水晶の前で歌って踊り、そして呼びかける。
「冒険者の皆さ~ん、今日もクエストに討伐、お疲れ様でした~! ギルドの皆さんも、冒険者のサポートご苦労様でした~。ワカリんは、みんなのことがだ~い好き!」スタンの声にシンクロして、水晶の中に金髪ツインテールの美少女が両手を広げて大きくウェーブする。
ちなみに、スタンはもう二十代後半の、れっきとした男性である。
(どうしてこうなった…)
スタンは、これまでの怒涛の日々を振り返ってみた。
「今日はいいニュースが二つと、ちょっと残念なニュースが1つある。」
Aランクパーティ「アノクタラ山脈の虹」のリーダー、聖剣使いのアンドレが、メンバーに対してにやにや笑いながら告げる。ここは、王国第二の都市、サンボにある冒険者ギルドに併設された酒場だ。今日は朝早くから討伐に出かけ、昼過ぎには目当てを狩って戻ってきた。一度解散して、夜にまた、夕食がてら集まったのだ。
「どんなのだい?」背は低いが、がっしりした体つき、黒い鎧をまだ着たままのタンク、アブドラが尋ねる。だが、一部予想が付いている感じだ。
「まあ、トータルで見たらいいことが多いから、いいニュースからな。」
アンドレが言う。もともと決めていたのだろう。
「まず最初のいいニュースだ。もうみんな予想しているだろう。俺たち「アノクタラ山脈の虹」は、本日のキングリザードマンの討伐をもって、Sランクに昇格した!」
皆、「お~~」と言いながら拍手する。
これは討伐前から、討伐成功したらSランクになる、とわかっていたことだが、やはりそれが実現したとなると嬉しいものだ。
「私らもついにSランクかあ。長かったわね。でも本当に嬉しいわ。」
紫の長い髪をいじりながら、魔術師のカーミラが言う。彼女は、瞳の色も紫で、唇も紫に塗っている。ついでに眉毛もマスカラもパープルだ。褐色の肌によく映えている。その素顔を見た者は生きていない、という噂だ。
「よかったよね。」小柄な青年、スタンが相槌を打つ。スタンも魔術師だが、このパーティでは主にヒーラーをやっている。スタンは、攻撃魔法も補助魔法も使えるが、魔力の量が一般人と変わらない。そのハンデを、技術で何とかやりくりしてきたのだ。「努力は報われるもんだよねえ。嬉しいな。」としみじみするスタンを、アンドレが冷たい目で眺めている。
「じゃあ、二つめのいいニュースを伝えよう。Sランクになった我ら『アノクタラ山脈の虹」に新たなメンバーが入ることになった。」
スタンにとって、これは初耳だった。「へ~、戦力強化か。Sランクになると、いままで以上に高難度のクエストが発注されるから、戦力が増えるのはいいことだよね。賞金も多分増えるから、一人当たりの分配が減ることはないだろうし。」
スタンは呑気に考えていた。
「で、どんな人なんだい?」タンクのアンドレが聞く。アンドレはタンクなので前衛として敵のヘイトを稼ぎ、アンドレがとどめを刺す機会を提供している。新メンバーが果たして前衛なのかそうでないのか、というのは彼の今後の立場的にも重要なのだ。
「なんと、準聖女だ。」アンドレが得意そうに言う。
一同はどよめいた。
「おお、聖女か。これでヒールではらはらする心配はなくなるな。」アブドラが言う。
「正確には、準聖女だ。教会で聖女の修業していたが、聖女にならずに世に出てきた女性だ。まあ、正式な聖女になるにも競争が激しいらしいしな。聖女の修業を積んで、ある程度の能力が認められると、準聖女と名乗れるんだそうだ。準聖女は、聖女と違って教会に縛られない。教会への報告も要らないし、寄付も強要はされないそうだ。教会のしがらみを嫌って、準聖女のタイトルをもらって出ていくのも多いそうだ。今回の新メンバー、アーシもそんな感じらしいぞ。」アンドレはそういうと、ギルドの受付のところに立っている女性に対して手を振って声をかけた。
「おーい、アーシ。もういいからこっちに来てくれ。」
アンドレはその女性を呼びよせた。
彼女は、アンドレの合図に答え、にっこりと笑顔を浮かべて近づいてきた。
綺麗な金髪で、白いワンピースを着ている。特に修道女の服を着ているわけでもない。
ワンピースの丈は長いが、左右にスリットが深く入っている。
アーシと呼ばれた女性は、テーブルにやってきて空いている椅子に座った。太い足がスリットから出てきた。
顔は整っているが、かなり化粧が濃い。神に仕える聖女、というよりはむしろ飲み屋のお姉さんというほうがイメージに近い。
「アーシ、自己紹介しろよ」アンドレが促す。
アーシはうなずき、皆を値踏みするように見回してから、笑顔で口火を切った。
「アーシです。教会のクソ婆どもに嫌気がさして、肩書もらってトンずらしたところで、このサンボの町にやってきて、このパーティに出会ったの。ちょうどいいタイミングだったわ。ちなみに、準聖女ってのは、教会から出るときにもらう肩書ね。教会に属したままだったら、準聖女じゃなくて副聖女とか聖女見習いとかになるのよ。さすがに見習い、なんて肩書じゃ恥ずかしくて世の中歩けないよね。得意なのはエリアヒール、エリアバフね。みんなまとめてHP回復させたりできるわ。私のMPは300.」
アーシは得意そうに言う。
それにはカーミラもスタンも驚いた。
「うそ…あたしよりも多いじゃない…」魔術師のカーミラがかすれ声で言った。
一般人のMPは100,職業魔術師のMPは150が標準と言われる。その意味で、カーミラもMP250と、決して悪くない。
だがこのアーシは300だという。もしかすると、下手な聖女よりも高いかもしれない。
ちなみに、スタンのMPは100だ。
「すごいや…そんな人が参加してくれるなら、より戦いやすくなるね。」スタンは嬉しかった。ヒーラーとしてやってきた自分の役割も、そろそろ終わりだろう。
「というわけで、最後にちょっと残念なお知らせがある。」
アンドレはそう言うと、にやにやしながらスタンに告げた。
「スタン、お前はクビだ。このパーティから出ていけ。」
スタンにとって、それは青天の霹靂だった・
Cランクのころから一緒にやってきた5人の仲間たち。なんとなく、このままずっと行くのだと思っていた。
混乱しながらスタンはかろうじて声をあげた。
「な、なぜ…」だが、それ以上はなかなか声にならない。
全く予想だにしない宣告を受け、絶賛混乱中なのだ。
「そうよ。スタンはいままでこのパーティに貢献してきたし、これからも必要な人材よ!私のこともいろいろ手伝ってくれているし。」
と、小柄な狼獣人でシーフのミミが声をあげた。
ミミはシーフなので、斥候とか罠の感知、解除などが得意だ。だが、獣人ということもあり魔力はほとんどない一方、体が小さいので接近戦にも向かない。実戦ではあまり役に立たないのだ。斥候や罠感知、解除の仕事が済んだら、あとは周りの気配を調べたりしつつ、荷物を運んだり、食事の準備をしたり、という雑用をこなしているのだ。
アンドレは鼻で笑った。
「必要と有用は違う。いたら使い道がある、というのは単に有用ということだ。だが、必要とは限らない。 アーシの加入により、スタンの役割は無くなった。」
アンドレの言うことも一理ある。戦いにおいて、ヒーラーとしてのスタンの役割は、全体を見たうえでヒールをかけたり、ポーションを配ったり、味方のだれかにバフをかけたり、場合によっては初歩の攻撃魔法の重ね掛けを手伝ったり、というところだ。
少なくとも、ヒールやバフやデバフを掛けたりする能力は、明らかにアーシのほうが高いだろう。本職なのだから。
一方スタンは片手間のヒーラーをやっているだけだ。
魔力量、MPは100しかない。水を出したり火を出したりする一般的な生活魔法には十分だが、戦いの中でヒールやバフを掛けるには心もとない。
実際、かなり精緻な魔力制御によって必要最低限の魔力だけしか味方に使わないで済ませている。あとはアクセサリーのMP回復指輪で通常の3倍のスピードでMPを回復させているのだ。
「アーシが居れば、お前のちんけな魔法なんて要らねえんだよ。」
アンドレは残酷なことを告げる。
スタンは頭が真っ白になった。
何も考えられない。
そのままへなりと席に座り込んでしまった。
そこにアンドレが追い打ちをかける。
「おい、理解したらとっとと出ていけ。あと、お前の装備はパーティの財産だからおいていけ。盗むなよ。」
そう念を押した。
だが、もう夜だ。これから宿を探すのも大変だろう。
「…明日は…出ていくから…なんとか…今夜は…ここにいさせてくれ…」
切れ切れの声でスタンは頼んだ。
「仕方ねえな。だがこの宿代は自分で持てよ。パーティの経費じゃあねえからな。」
スタンはのろのろとうなずいた。
何がなにやらもうわからないが、とにかく今夜の宿だけは確保したい、と思ったスタンの無意識の行動だったようだ。
スタンは自分の部屋に戻り、、ドアを閉めた。そのとたん、涙が溢れ出した。
いままでの自分の努力はなんだったのだろう。
遠距離攻撃魔法では威力がカーミラに勝てない。
治癒魔法では当然、アーシに勝てないだろう。
本来、スタンは魔術師としてはMPが少ないのだ。だが、そこを技術、魔道具、手練手管で補ってきた。だが、そろそろ限界と見ていいだろう。
ちなみに、MP回復の指輪は、スタンの姉、マキからのプレゼントだ。パーティの財産ではない。 だが、スタンが愛用していたミスリルのダガーは、パーティの資金で買ったものなので、置いていくことになる。
(とりあえず、明日、王都の実家に帰ろう。恥ずかしいけど、姉さんに頼んで居候させてもらいながら、新しいパーティでも探そう。)
スタンはそう思った。その時は…。
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