第4話 夢で逢えたら-4


 賀津美が校舎に入ると、中央掲示板が賑やかだった。なんだろうと、思いを巡らせてみて、すぐに思いついた。

―――あぁ、先週の実力テストの結果が張り出されてるんだ。

賀津美は自分には関係がないと思って、階段を上がっていった。

 ホームルームが始まると、担任の山近先生がテストの結果を配付した。賀津美は相変わらずの成績だった。ふ、とため息を吐いてそのまま成績表を鞄に突っ込んだ。

 クラブに行く途中、おさむに成績の話題をしてみた。

「ね、どうだった?テスト?」

「んー。二〇七番。賀津美ちゃんは?」

あっさりとおさむは順位を言ってしまい、しかも問い返されて賀津美は言葉に詰まった。確かに、賀津美の方が順位は上だった。しかし、だからと言って威張れるほどでもない。戸惑って何も言えずにいると、おさむは屈託のない瞳を向けた。

「どうしたの?」

「ん…、ん」

やっぱり、言わないと失礼だと思って、気を取り直して、答えた。

「あたし、一八五番」

「あぁ、いいね。二〇〇番以内だ」

そう言われると、申し訳ないような気になった。

「でも、ずっとこの辺なのよ。全然変わんない」

「でも、いいよ。僕、高校どこへ行くか考えなきゃ」

「あ……」と思った賀津美だった。聞かなければよかったとも思った。

 理科室に着くと、何となく騒がしかった。テストの成績が発表された日は大体こうだな、と思いながら中に入った。

「こんちはぁ」

威勢のいい賀津美に注目が集まった。いつもとどこか雰囲気が違うように感じた賀津美は、

「どうしたの?」と問い掛けた。

「あのね、小山田先輩がね、二〇番に入ったの」

夕香の言葉に賀津美もおさむも驚いた。

「へぇ、晴君が?知らなかったぁ」

「それはいいんだけど……」

夕香は、そのまま晴の方を見た。晴は、いつものように小さく佇んでいる。

「どうしたの?」

おさむが問い掛けると、晴はゆっくりと答えた。

「あのね……、僕の名前、掲示板になかったの」

「え?」

賀津美は大きな声で問い直した。

「どうして?だって、二〇番までだったら、名前載るんでしょ?」

「…でも、なかったんだ……」

小さく呟く晴を、賀津美はかわいそうに思った。

「行こう、もう一回見に」

「え…、でも」

「それで、なかったら、先生に抗議しよう。折角なのに。初めてでしょ?」

「……ぅん」

「じゃあ、行こう。成績表持ってる?」

「うん」

賀津美は晴の手を引っ張って、理科室を連れ出した。慌てて他の連中もついていった。ただ、おさむは、一人、モグラの様子を見ていた。

 掲示板には、『小山田晴』の名前はなかった。成績表には、二〇という番号が記されているにも関わらず。その二〇位には、『真堂栄司』の名前が載っている。賀津美たちはそれをただ見上げていた。

「ね、真堂君って知ってる?」

「うん。同じクラスだよ。前も一緒だった」

「じゃあ、成績はいいのね?」

「うん、いつも、名前が載ってるよ」

「きっと、何かの間違いね。いいわ、先生に言ってみよう」

賀津美は晴の手を引いて職員室に向かった。

 担任の山近先生を見つけて、掲示の件を話した。先生は、

「それは、何かの間違いだわ。じゃあ、確認しておくわ」と答えた。

賀津美は安心して晴を見た。晴も落ち着いたようだった。

「よかったね」と言うと、晴は賀津美の顔を見て頷いた。

「でも、小山田君は、今回頑張ったわね。今までで、一番いいんじゃないの」

先生の言葉に晴は俯いて頷いた。

「よかったね、晴君」

晴は、頭を掻きながら頷いた。


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