第59話【絆】
シムは木陰に身を潜めながらもゆっくりと近づいていった。
「あれは……人……?」
そこには人が倒れていた、シムはゆっくり近づくと、恐る恐る顔を覗き込んだ。
「!! ウィザード隊長!!??」
シムは急いで駆け寄り、ウィザードに声を掛けた。
「ウィザード隊長大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
ウィザードの全身は焼けただれ、右腕は無くなっていた、シムはウィザードの脈と呼吸を確認した。
「良かった……まだ息はある、しかし酷い火傷だ……右腕は……なんてことだ……ウィザード隊長程の人が……一体何があったっていうんだ……まさかあの……」
「ううぅ……」
「ウィザード隊長! と、とにかく傷を手当てしないと、リラさえいれば多少の回復魔法が使えるのに」
シムは上着を脱ぎ細かく破るとウィザードの右腕にまきつけた、そしてその後何重にも布を巻きつけた。
「火傷は冷やさなきゃ……このあたりに水辺は……」
シムは辺りを見回した。
「あっちか……多少距離があるな、一回一回汲んでくるより、運んで行った方がいいか」
するとシムはウィザードを担ぎ水辺のある方へと走り出した。
そして数分も走ると小さな湖へとたどり着いた。
「よし、よっこいしょ」
シムはウィザードを降ろすと湖には行かず森へと入って行った。
「うーん……あった! これだ」
シムは森に生えていた植物を摘み、ケタと呼ばれる木を一本切った、ケタの中は空洞になっており、水を汲むに適した形状であった。
その後、湖で水を汲むと、摘んできた植物を石と石ですり潰し、それをウィザードの口に入れ、水を飲ませた。
「薬草です、飲みやすくすり潰したので、なんとか飲んでください……」
「ううんぐっ……」
「飲んだ、よかった……よし、次は」
シムはもう一種類の植物をまた石で叩くと、それを水に浸し、ウィザードの火傷の酷い箇所に当てていった。
「これでよし……あとはウィザード隊長の回復力に賭けるしかないな」
その時、ふと空を見ると、大分日が落ちてきていた。
(このまま放って置くわけにもいかないし……仕方ない、今日はとりあえずここで一夜を過ごすか)
次の日、シムは起きて早々に森へと入り、木の実を集めていた。
(この辺は色んな木の実が採れるな、今度クムルと一緒に……)
シムはふとクムルとリラの事を思い出し、唇を噛みしめた。
その後、枝で作った籠いっぱいに木の実を採り終えると、シムはウィザードの元へと戻った。
するとその時、ウィザードが目を覚ました。
「ううぅう……」
「ウィザード隊長!? 気が付きましたか!? 大丈夫ですか!?」
「こ、ここは……?」
「ここはゲルレゴン城の南にある森の中です、今はとにかく安静にして、これ、森で採った木の実です、食べてください」
そういうとシムは木の実をウィザードのロへ入れ食べさせた。
その後、火傷の箇所に着けていた葉も交換し、すり潰した薬草をまた食べさせた。
「これ、水です、飲んでください」
「すまない……君は確か、シム……シム・ナジカ」
「はい、その節はお世話になりました……」
「確か、あれから元居たカイルの森に戻ったと聞いていたが、どうしてこんなところに?」
「それが……恐らく、隊長が今このような状態であることと、深く関わりがあるかと思います……」
シムは自分の身の回りで起こったことをウィザードに話した、そしてまたウィザードも城で起きたこと、突如現れた子供と男の事を話した。
「そ、そうだったんですか……只者ではない感じはしましたが……まさかウィザード隊長をも凌ぐ強さだなんて……」
「ああ……まるでこの世のものとは思えぬものだった……奴らが本当にこの世を支配するために動き出したら……この世界に奴らを止められるものがはたしているのかどうか……」
そう話すウィザード見て、シムは生唾を飲み込んでいた。
「それよりも、今は君の家族を助けなければならないのだろう?」
「はっ! そうだ! 急がないと! もしチシリッチで僕がいないことが分かったら、リラとクムルはもちろん、コールや王国のみんなも!」
シムは立ち上がった。
「私も行こう」
そう言うとウィザードも立ち上がった。
「ウィザード隊長? こんな傷で無茶ですよ! 薬草や木の実は置いていくので、ここでゆっくり休んでください」
するとウィザードは左腕で剣を抜き、振った。
「み、見えない……」
「君の適切な処置と薬草のおかげで大分回復はしている、一応こんな状態でも、この大陸一と言われている剣士だ、充分力にはなれる」
「ウィザード隊長……」
「君の家族には奴らの見張りが付いているのだろう? 君一人より、私がいた方が救出の可能性は上がるんじゃないか?」
「あ、ありがとうございます! よろしくおねがいします!」
二人は支度を済ませるとカイルの森へと先を急いだ。
そして道中、シムは驚いていた。
(さすが大陸一の隊長だ……あんな怪我でも森での移動に慣れてる俺に難なくついて来る……)
暫くするとシムの家付近へと到着した、二人は身を潜め周辺を伺った。
「どうだ? 家の中にいそうか?」
「いえ……いません、恐らく奴らの襲撃を恐れてどこか別の場所に身を潜めているのかと……」
「そうか、たしかに奴らの気配もないな……二人がどこにいるのか、なにか心当たりはないのか?」
シムは少し考えた。
「隊長、 こっちへ」
シムは家の西側へと向かった、するとそこは岩場になっており、無数の洞窟があった。
「いた! 奴らだ!」
二人は身を潜め、
「以前リラと二人でカイルの森で暮らすと決めた時、王国軍が森の見回りを強化してくれたとはいえ、何かあった時の為に避難場所を決めていたんです、あの洞窟内は無数に通路が入り組んでいて、全て把握しているのは俺とリラだけです」
「出口もあるのか?」
「はい、ここから南に二つ、西に一つ、北に一つ」
「もう出口を出て別の場所に移動している可能性はないのか?」
「恐らくそれはないんじゃないかと、中は迷路のようになっています、中を把握していないものが一度入れば出てくるのは 容易ではありません、俺とリラはあの洞窟内を完璧に把握している、下手に外に出るより中の方が安全です、それに……」
「それに?」
「もし出たとして、これ以上家を離れることは無いんじゃないかと、その……俺の帰りを待っていてくれている筈だから……」
「……そうか」
するとシムは辺りを見回すと、ある植物を採りウィザードに渡した。
「ウィザード隊長これを」
「これは?」
「これはホルタバナといって、暗い洞窟内で発光してくれます、中で松明を燃やしてしまうと奴らに見つかりやすいので」
「なるほど」
二人はホルタバナを首に掛けると、
――洞窟内
「ねえお母ちゃん……お父ちゃん大丈夫かなぁ……?」
「大丈夫よクムル、きっと迎えに来てくれるから、がんばろう」
「うん……」
リラとクムルはホルタバナの僅かな光を頼りに洞窟内を移動していた。
移動中、リラは所々地面を見ていた、そこには記号のようなものが書かれておりリラはそれを目印に洞窟内を移動していた。
(さっき怪物は地点〇から地点×へと移動していた…… つまり地点□へ移動すれば怪物の後ろへ回れる……大丈夫、きっと大丈夫、落ち着いて……落ち着いて……)
リラは記号を頼りに、常に
(よし……次はあっちね)
リラが
(怪物が増えてる……?)
(ほっ)
「ぐうううぅぅぅぅぅ……」
その時、クムルのお腹が鳴った。
「!!!!」
「クムル走って!!」
リラはクムルの手を引き、走った。
「グウオアアア!!!」
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