第43話【ロムの覚悟】
「なんのつもりだ?」
「……」
「もう貴様の出番はない! とっとと帰って副隊長辞退を国王に告げろ!」
「……この戦いが終わったら、副隊長は辞退します」
「……ふんっ」
「でも……この戦いはやめない! この戦いは僕の戦いです! いくら隊長であろうとも譲れない!! だからそこをどいてください!!」
ロムは掴んだ腕を強く握り、真っ直ぐにカダン隊長の鋭い目を見た。
「ふんっ!」
カダン隊長はロムの腕を払うと剣をしまい、 後ろへと戻り腕を組んだ。
「まあいいだろう、そんなに死にたいのならやらせてやる、しかし、今度また無様な戦いをし、アルティラ軍の名に泥を塗るようなことがあれば、 この俺が貴様ごと奴を切り捨てるから覚悟するがよい」
「……わかりました」
ロムはデズニードの前へ出ると剣を構えた。
(まずは奴の動きを見切れないと話しにならない……どうするどうする……)
「コホオオオオオオ……」
デズニードは何度か飛び跳ねた後、着地と同時にロムへと踏み込んだ。
「ぐっ!」
ロムは剣を受けるも速度に対応しきれず、また体制を崩された、デズニードは態勢を崩したロムへと追撃をし、また同じ展開となっていた。
(く! くそぉぉ! やっぱり見切れない! ど、どうすれば!)
デズニードは執拗に攻めてきた。
「う! うわあああ!」
その時、ロムはデズニードから背を向けて逃げ出した。
「あれ! アンジ! あの人逃げ出しちゃったよ!」
「勝てないと、 悟ったのですかね?」
「コホオオオオオオ……」
デズニードはそれを見ると剣を振り上げ、逃げるロムへと背後から襲い掛かった。
それを一層険しい顔で見ていたカダン隊長は、腕組みを解き剣に手をかけた、が、途中でその手を止めた。
「コホォォオオオオ!!!!」
デズニードは振り上げた剣をロムの背中へと振り下ろした。
「うおおおお!!!」
その直後、背中を切られた筈だったロムは何事もなかったかのように振り返り、デズニードの胸や腹を切り裂いた、デズニードはすぐさま後方へ飛び距離を取った、それを見たテツは驚いていた。
「え? なんでなんで? 今背中切られてたよね? なんで反撃出来たの? あの人も不死身なの?」
「いえ、そうではありません、背中を……見てください」
「背中? あ!」
テツがロムの背中を見ると、ロムの背中には厚い氷が張り付いていた。
「あれかー! あんなことが出来るなら、初めからやってればよかったのに!」
「正面だと、どこを切りつけられるかわかりませんからね、かといって全身に施してしまうと、動きに制限が出来てしまう、なのであえて背中を向けることでそこを切るよう、 逆にデスニードの攻撃を制限した……もちろん、あの状態で背中以外の選択肢がなかったわけではないですが、一か八かの可能性に懸けられるだけの価値はあったみたいですね」
「へー! 考えたねー!! すごいすごい!!」
「人間は窮地に立たされると進化を成すところがあります、状況や、 感情の変化で本来の、または、それ以上の力を 引き出すことがあります、あの男もしかり……ということなのでしょう」
「コホオオオオオオ……」
デズニードはロムから距離を取ったまま動かずにいた。
(うまくいった! しかし二度同じ手は通用しない……それなら……)
ロムは自らデズニードへと飛びかかって行った。
(相手の移動速度に反応できないなら、こっちから攻めに行ってやる!)
デズニードはロムを迎え撃ち、二人は激しい剣撃戦を繰り広げた。
「うをおおお!!」
そして激しい剣撃戦の中、ロムはデズニードの腕や足を切りつけた。それを見たアンジはつぶやいた。
「どうやら足を使わないデズニードであれば、少々あちらの剣が勝っているようですね」
デズニードは足を止めた剣撃戦は不利だと判断し、距離を取る為に左足に力を入れた、しかしその瞬間、 足が滑りその場にしりもちをついてしまった。
「うおおおおおお!」
ロムはそれを待ってたかのようにすぐさま剣を振り上げ、一気にデズニードの首を刎ねた、デズニードの兜は吹き飛んだが、それでも剣を横なぎに振りロムへと攻撃をしてきた、しかしロムは後ろへ飛びそれを回避した。
「はあはあ……はあはあ……」
テツはデズニードに呆れていた。
「なーにやってんのよデズニードは! あんなタイミングで、まさかズッコケますかねえ?」
「テツ様……」
「ええ?」
「ちなみに、偶然ではございませんよ」
「ううぇえ? 偶然じゃないって、今のも魔法? 相手をズッコケさせる魔法なんて、無敵じゃない?」
「魔法は魔法ですが、 デズニード自身にかけた魔法、というわけではございません、デズニードの足元をご覧ください」
「足元? ああ!!」
デズニードの足元には薄い氷が張られており、デズニードはその氷で滑ったのであった。
「あれかー! くうー! やられたー! 油断ならぬ奴じゃあ!」
「そうですね、なんだか、剣術よりも魔法の方が合っている、ようにも見えますね」
兜を吹き飛ばされたデズニードは、ゆっくりと立ち上がり、兜を拾うと頭にかぶった。
「コホォォオオオオ……」
そしてロムへと突っ込んでいった、ロムがデズニードの剣を受けると、また激しい剣撃戦を始めた。互いに譲らず打ち合い、鍔迫り合いの末、 両者後方へと距離を取った。
「アンジ! なんかいい戦いになってきたね! 最初の一撃も受けれるようになってるし!」
「一つは徐々にデズニードの動きに目が慣れてきたこと、 もう一つは先ほどの攻撃で転ばされたことにより、うかつに高速移動を出来なくなったからでしょう。 ここへきて両者の力量は拮抗してきました、が対デズニードにおいて、人間が乗り越えなければならない大きな問題があるのもまたしかり……」
「え……?」
テツはロムを見た.
「はあはあ! はあはあ!」
ロムの呼吸はかなり荒くなっていた。
「あああ! それがあったかあ! うーん! 折角良いとこまで来たのに!!」
デズニートはロムへと突っ込み剣を振った、ロムはそれを受け、剣を返すが、 既にデズニードはそこにはいなかった、ロムが剣を振ったあと、側面から現れたデズニードはさらに剣を放った、それもなんとか弾き、剣を返すも、またテスニードはそこから移動していた。
「はあはあ!! はあはあ!!」
ロムの動きはだいぶ鈍くなり、デズニードを目では追えているものの、今度は身体の動きが追い付かなくなってきていた。
「コホォォオオオオ……」
「あああ!! あぐう!! ぎゃふん!!」
そしてついには斬撃を受け始めるようになってきた。
「ううぐぅぅ……」
ロムの身体は傷だらけになり、いたるところから出血している。
そして、カダン隊長はまだ、じっと腕組みをしたまま見ていた。
「うわああ!!」
ロムはデズニードの剣を後ろに上体を反らして躱そうとしたが、疲労で身体を支えてられず、その場に倒れた。
「コホォォオオオオ……」
デズニードはロムへ馬乗りになり、剣を振り落とした。
「くう!」
ロムは片方の手で剣先を支え十文字に受けた、デズニードはそこへ何度も何度も剣を振り落とした。
「ぐはっ! あが! うあ!」
どんどんとロムの支えている剣の位置が下がってくると、ついには自らの剣で頬を切った。
「コホォォオオオオ……」
すると、今度は剣を突き立て、ロムの顔をめがけて放った。ロムは間一髪顔を捻り、頬を切りながらも躱した、そしてデズニードの兜に手を伸ばし掴んだ。
「うおおおおお!!!!」
するとロムの手から炎が発生し、デズニードの兜は炎に包まれた。
「ゴボオオオオオオオ!!」
兜が燃え上がったデズニートは一瞬動きが止まった。
「よし! いまだ!」
ロムはその隙をついてその場から退避しようとしたが、その時。
「がっ!!!!」
デズニードは炎をもろともせず剣を突き刺してきた、しかし軌道は少しずれ、剣はロムの肩の根元に刺さった。
「ぐああああ!!!!」
デズニードは剣を抜くと、今度は顔を狙い剣を突いた。
「ぐうっ!!」
ロムは顔を反らし、何とか避けると剣は床に突き刺さった、そしてロムは咄嗟にデズニードの両足を掴み、 再び炎を発した。
「ああああああ!!!!」
「コホオオオオオオ!!!」
両足が燃え上がったデズニードは一瞬また動きが止まった、その瞬間、ロムは膝でデズニードの背中を蹴った、するとデズニードは前のめりに倒れ、その隙にロムはそこから脱出した。
「はあはあ!! はあはあ!!」
デズニードが立ち上がり、体勢を整えるころには、兜と両足の炎は消えていた、しかし、兜と左足の甲冑は黒くくすみ、右足は焼けただれていた。
「コホォォォォォォォ……」
デズニードは床に刺さった剣を抜き取ると、またもロムへと突っ込んできた。
「くう!」
ロムはデズニードの剣撃を受けるも、受けきれるだけの体力が無く弾き倒されてしまった。
「ぜえぜえ!! はあはあ!!」
ロムは這いつくばりながらも、デズニードの左足を両手で掴んだ、そしてデスニードが剣を振り上げたその時、再び炎を発した。デズニードの左足はまた炎に包まれ一瞬動きが止まったが、それも構わず這いつくばるロムの背中に剣を打ち放った。
「!!!!!!」
剣はロムの背中に突き刺さるまえに止まった。
「あ、あああ……」
ロムが顔を上げると、そこにはカダン隊長の姿があり、デズニードの腕を掴んでいた。
「そこまでだ……」
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