第27話【激突】


 ――――


「ん……んん……うぐぐぅ……」


 船とアンジは爆発を受け、川岸へと飛ばされ気を失っていた。


「くっ……くそっ……テツ……!」


 船とテツの入っている牢を発見すると、アンジは駆け寄っていった。


「扉はどこだ? ……あった!」


 扉を見つけるがしかしそこには鍵がかかっていた。


「くそっ、そうだ、サルバさんが持っているかもしれない」


 辺りを見回すがサルバの姿は無い。


「川に流されてしまったのか……?」


 アンジは再び扉を見た。


「この厚さでイケるか……?」


 アンジは手を掲げ目を閉じた。


「はあぁぁああ……」


 するとアンジの手が光り始めた。


「!!??」


 その時、アンジは何かに気が付いた。


「…………」


 遠くで何か音が聞こる。


「……この音は……?」


 音はどんどんと近付いてきた。


「馬の足音……」


 音はすぐそこまで近づいてきた。


「ヒヒィーーーン!!」 


 何者かが馬に乗ってアンジの元へとやってきたのであった。そして、馬は土ほこりを舞わせ、とまった。


「…………」


 土ほこりの中から現れたのはメダイだった。


「メダイ隊長!!」


 メダイは馬から降りるとゆっくりアンジへと近づいてきた。


「……くっ……」


 アンジは後ずさった。


「よく、この私を出し抜いた……その発想と度量には正直感服いたした……しかし、これまでだ……観念してその怪物をこちらに引き渡していただこう」


「メダイ隊長! お願いだ、話を聞いて下さい、テツは……テツは化け物なんかではないんです! 純粋で、素直な人間の子供なんです!」


「その怪物が人間だろうと怪物だろうと……私にはそんな事は関係ない……」


「なっ!?」


「私は……国王にその怪物を処刑所にて処刑するようにと命じられた……私には、この国の軍の隊長として、誇りをかけて国王の命令をまっとうする義務がある!!  ただそれだけだ!! それ以上でもそれ以下でもない!!」


「な、そんな!!」


「そして……国王の目の前でまんまと出し抜かれたこの屈辱……」


 メダイは拳を強く握り、怒りを露わにした。


「貴様の命をもって償ってもらうぞ!!」


 メダイは一気にアークを高めた。


「!! な、なんてアークだ!!」


 そして剣を抜き、ものすごい勢いでメダイが突っ込んできた。


「くっ!」


 アンジも剣を抜き構えた。


「ぬうん!」


 メダイは横殴りに剣をアンジに振るった。


「ぐわあっ!!」


 アンジはメダイの剣を受け止めるも、そのまま吹き飛ばされた。


「ぬをおおぉぉ!」


 さらにメダイは襲いかかってくる。


「くっ!」


 アンジは急いで体勢を立て直した。


 メダイは地面を削りながらも、下から剣をアンジに向け突き上げてきた。


「うわあっ!!」


 アンジは足で剣を抑えながらも防いだが、空中に飛ばされた。


「!?」


 落下地点にはメダイが剣を構えている。


「ぬをおおぉぉ!」


 メダイは落ちて来るアンジに向かい剣を振るってきた。


「くっ! はああ!!」


「ぬっ!?」


 アンジは風を起こし、空中で止まりメダイの剣を避けた。


 そして着地すると、転がりながらもメダイから離れた。


(つ、強い!! なんて強さだ……これがメダイ隊長か! このままではマズイ……やられるのも時間の問題だ!)


 メダイがゆっくりとアンジに近付いてくる。


(くっ……どうすれば!!)


 その時、また馬の足音が近づいてきた。


「!?」


「ヒヒィーーーン!!」


「ヒヒィーーーン!!」


「隊長!!」


「隊長!!」


 馬に乗った数人の兵隊もメダイに遅れて到着したのであった。


「なんてこどだ……万事休すか……!」


「隊長!!」


「隊長!!」


「さわぐな!!」


 兵隊たちは一斉に黙った。


「ここは私がやる……黙ってみていろ」


「はっ……」


 辺りの空気がヒリついている。


 メダイはゆっくりと腰を落とし、剣を構えた。


(あれは!!)


 それは、かつて凶暴化したタローを貫いた、突きの構えであった。


「くっ……」 


 アンジは後退りながらも剣を構えた。


 ジリジリとメダイは間合いを詰めてくる。


「ぬうん!」


 そしてメダイは突きを放った。


「ぐっ!!」


 しかしアンジはなんとか突きを受け流した。


「はあぁぁああ!!」


 そしてそのままメダイへと剣を振り上げた。


「ぬをおおぉぉ!!」


 するとメダイは突きを立て続けに連発した。


「なっ!?」


 アンジは最初こそ剣で弾くも、捌き切れず右肩左脇右太ももを切られてしまった。


「ぐわあっ!!」


 アンジから多量の血が流れた。


「がっ! がはっ! ぐう……」 


「致命傷は避けたか……だが勝負はついたな」


「ぐっ……」


 アンジはうずくまっている。


「ぬっ?」


 アンジは肩から流れた血をメダイの目に投げ付けた。


「はあっ!」


 そしてメダイに切りかかった。


「ぬうん!」


 メダイは目に血をかけられながらも、アンジの剣を打ち払い、そのままアンジの顔を切りつけた。


「ぐわあぁぁあああ!!」


 アンジの顔面から大量の血が流れ、アンジは痛みで転げまわっている。


「があああ……はあはあはあ……」


 メダイは目の血を拭き取ると、再び剣を構えた。


「もう終わりだ……」


「はあはあはあ……」


 アンジはうずくまっている。


「ぬうん!」


 メダイはアンジに止めをさそうと突っ込んできた。


「ぐっ!」


 アンジは身体を起こし、魔法弾をメダイに向けて投げつけた。


「ふん!」


 メダイは投げ付けられた魔法弾を真っ二つに切り裂き、魔法弾は左右に弾かれ爆発した。


「なっ!?」


「ぬをおおぉぉ!!」


 メダイは勢いを止めず、アンジに切りかかって来る。


「くそおぉぉおお!!」


 アンジは剣で自分を守った。


 しかし、メダイは剣ごとへし折り、アンジの胸を切り裂いた。


「かっ!! がはっ……!!」


 アンジは大量の血しぶきを上げ倒れた。


「…………」


 メダイは剣を納めると、アンジに背を向けその場を離れた。


「ぬ!?」


 その時、残りの兵隊や国王も、その場に到着した。


「メダイ……」


 国王は血まみれのアンジを発見した。


「国王様、私の油断によりこのような事態になり申し訳ありません、アンジ殿はやむなく切り捨てる形となりました」


「そうか……」


「引き続き処刑場への護送を始めたいと思います」


「うむ……」


「全隊!! 引き続き罪人の護送を始める!! 各隊員持ち場に着け!!」


「はっ!!」


「うぐぐぅ……」


 アンジはかろうじてまだ生きていた。


 へし折られたとはいえ、剣で守っていた事で致命傷を避けていたのであった。


「テ……テツ……お、俺が助けるんだ……」


 しかしアンジからは大量の血が流れている。


「テツを……テツを助けて……サ、サオと……サオと3人で暮らすん……だ……」


 なんとか身体を動かそうとするも、意識が朦朧としている。


「サ……サオ……テツ……」


 アンジは朦朧とした意識の中で、サオやテツの事を思い出していた。




 ――――


「アンジー!! でっかい魚釣れたよー!」



「アンジ! 薬もらってきたよ!」



「大切の輪だね!」



「どう? アンジ美味しい?」



「ぶすぅぅぅううう……」



「アンジー!!」



「アンジ!!」



 ――――


「ふふふ……元気な子ね」



「アンジ、お帰りなさい!」



「たんと作ったからいっぱい食べて!」



「くすくすっ……ありがとう」



「アンジ! 気を付けてね!」




「アンジ」




「アンジ!」



 ――――









「アンジ!!」











「アンジ!!」











「アンジ!!」









「約束して! 絶対にテツくんと二人、生きて帰ってきて!!」









 ――――


 アンジは目を開いた。


「ぬをおおぉぉぉおおおお!!」


「!!??」


 突如、倒した筈のアンジの方から突風が吹き荒れた。


「な! なんだ?」


 砂ほこりが舞っていてよく見えない。


「!! なにっ!!」


 砂ほこりが晴れると、そこには立ち上がったアンジの姿があった。


「ぜえぜえ、はあはあ……」


 アンジは傷口を炎で燃やし、止血をしていた。


「な……なんと……」


 国王は驚きを隠せずにいた。


 メダイは神妙な顔でアンジを見ている。


 そして、剣を構えた。


「テ、テツは……俺が守る……そして……」


 アンジはポケットからクレアルを取り出し飲み干した、そしてメダイを睨みつけると、辺りにはまた、風が吹いてきた。


「二人で必ずサオの元へ戻る!!」


 風は突風になり吹き荒れた。


「そうはさせん! あの怪物を処刑し! 私がこの国を守る!!」


 メダイは再びアークを高め、アンジに突撃した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る