第13話 間違いなく、あの、教室。この子は、何者なのか?

  たしかに、言われた通りの作りだった。

「お、本当だ」

 「どうだい?」

 「間違いない。あの、プレハブ教室だ」

 「ああ」

 「懐かしいな」

 「そうだろう?」

 「思い出すぜ」

 「それは、結構」

 男の子が、笑っていた。

 「まるで、子ども時代」

 「そうだろうね」

 「大きな大きな、タイムカプセルだな」

 「結構、結構」

 ヒビキと男の子は、そんな、時代錯誤感あるやりとりを、していた。

 男の子のほうは、ずっと、ヒビキのことを知っているかのように、対応してくれた。

 「まあ、良いか」

 「良いって、何がだい?」

 「とりあえずは、助かった」

 「良かったね。方向音痴の、ヒビキ君?」

 「何?俺の名前を、知っていたっていうのか?」

 「ああ、そうさ。有名だからね」

 「本当か?」

 「僕の中では有名、ということだけれど」

 「お前、何者なんだよ?」

 「ふん。こんな夜も、あるだろう」

 答えになっていない雰囲気で、ヒビキを、手招きした。

 「もう少し、奥へきてほしいな」

 「俺は、道がわかれば、それで良いんだ」

 不満だった。

 そしてそのヒビキの不満は、ついにあることで、爆発寸前となった。男の子が、こんなことを言ってきたからだった。

 「ヒビキ君は、なぜ迷っていたのか、自己分析ができるかい?君は、道がわからない生き方に、なっちゃっていたからだ」

 言われたヒビキは、くやしかった。

 「子どものお前なんかに、何がわかる!」

 2人のやりとりは、奇妙だった。

 「何が、わかる!」

 「わからなくても、わかるさ」

 男の子の返答は、誰が聞いても、変わっていた。男の子は、ヒビキを見て、こうも言ったのだ。

 「しかし、まあ…。大きくなったんだね」

 ヒビキは、虹の下で足を蹴られたようにして、驚かされた。

 「一体お前は、何者なんだ?」

 男の子は、妙に、かゆい幻となっていた。

 「やっぱりお前は、俺のことを、知っていたんだろう?嫌な、ガキだ」

 ヒビキは、呆れてもいた。

 もはや、問い詰めていたといったほうが正しい表現だったか。

 「君には、苦労させちゃったかい?」

 ヒビキを哀れむ、男の子流の、悲しい悲しい言い方だった。

 「苦労かあ…」

 ヒビキは、仕方なしに、そう応じた。

 「悪いことを、しちゃったかい?」

 「いいや」

 「そっか」

 「…」

 「まあ、良い。ここへ、ようこそ」

 「…」

 男の子が手を広げた先には、いくつもの台が、並んでいた。

 「いや、違う…。これは、机だ」

 ヒビキは、気付いた。

 並んでいたのは、テーブルではなかった。

 ヒビキが子どもだった頃に、学校の教室などででしばしば見た、茶色机のようだった。

 「懐かしいな」

 「そうだろう?」

 「しかし…低くて、小さいな。これは…。小学校の教室の、あの、机じゃないか」

 男の子は、黙っていた。

 「ああ…そうか」

 ヒビキは、動きを止めた。

 久しぶりに出会った究極の家具の懐かしさに惹かれ、取り憑かれようとしてしまっていたようだった。

 「泣かないでおくれ」

 「ほら」

 「うん…」

 部屋の中では、3、4人が、学校机を付き合わせて囲み、何かを話していた。

 「あれ?」

 ヒビキは、疑問だった。

 「まるで、学級会議みたいになっているじゃないか」

 半ば、呆れてしまった。

 「小学生時代…。俺も、こんなような光景を見ていたな」

 思い出して、寂寥感の渦だった。

 「しかしなあ…。この学級は、何だ?誰からの、声だったんだ?」

 泣いていた人…。

 その横にいた、人…。

 さらに横についていた、人…。

 「誰だったんだ…?俺には、何が響いていたんだ?」

 無念だった。

 「なぜ、泣いていたんだ?」

 ヒビキには、すべてが、疑問だった。

 ヒビキは、集まって何かを話していた3,4人を、見ようとした。そして、探りを入れようとしていた。

 「この人たちって…?」

 ヒビキは、立ち尽くしていた。

 ヒビキのそんな様子を、部屋に入れてくれた男の子だけが、見つめていた。

 何かの声が、した。

 3、4人のほうから、だった。

 「そんなにじろじろ、見ないでくれよ」

 誰かが、言ってきた。

 男が、立ち上がった。

 ヒビキよりも大人風の男、だった。

 「どうしたんだ?」

 今度は、はっきりと、聞こえてきた。

 「どうしたの?」

 「そうよ」

 「どうしちゃったんだ?」

 声が、重なっていた。その声に、ヒビキとはじめに話した男の子が、加わった。

 「良くここが、わかったね」

 会話の輪の中に、包み紛れて怖かった。

 「あれ?君は、こんなところにいたのか?さっきまでは、ここに、いなかったじゃないか!君は、瞬間移動ができたのか?」

 「違うよ」

 男の子は、ニヒルだった。

 「見えなかっただけだ」

 「何だと?」

 「見えなかった、か。そうかもね。君は、見放されたんだよ。いや、君たちの世代は、皆、そうなのかもね?残念だったね」

 「何だと?」

 すすり泣く声が、続いてきた。あの、学級会議の中からの声だった。

 「…何だ、この、不気味な空間は」

 「これが、先の良く見える優しい道であったなら、良かったのかい?」

 「…はあ?」

 ヒビキは、笑う男の子への返答にも、迷ってしまったほどだった。

 「予定外も、予定外だ。まさか…。君のほうから、ここに、たどり着くなんてね」

 男の子は、わけのわからないことを言うばかりだった。

 「そういうことか」







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