桜色の笑顔
@myoodo
第1話 桃色の出会い
From 伊織
人間は過去なんて振り返らない——
春は嫌いだ。みんな新しい出会いに浮かれて馬鹿なんじゃないかと思う。三月まで別れを惜しんで泣くやつもいたのに四月になるとみんな笑顔でつい最近の別れなんてなかったかのようだ。まぁ、あんな事が無ければ僕もみんなみたいに春を悲しみ春に浮かれていたのだろう。
——始業式——
「今日からこの二年A組に転入生がくる。」
新しい担任は挨拶も手短にすませ、早速そう言った。クラスが騒がしくなる。女子はイケメンかなと騒いだり男子も男子で叫び声が聞こえる。
しかし転入生が教室に入ってきた瞬間一気に静かになる。その転入生はスローモーションかのように見えた。長いストレートな髪に大きな目、長い睫毛。その笑顔で何人か気絶させたんじゃないかと思うくらい可愛い笑顔で
「雨宮 さくらです。よろしくお願いします」
すぐにでもみんなと仲良くなれそうな明るい声のトーンで手短に挨拶をすませた。彼女は先生の指示に従い席についた。歩いてる時も上品さが隠しきれてない。
「相島 伊織君?」
「え!?[#「!?」は縦中横]あ、あ、はい」いきなり名前を呼ばれてびっくりした。彼女の歩いている姿をただ呆然と見ていたらいつの間にか彼女は僕の隣に座っていた。しかもこんなにもすぐに話しかけられるなんて思ってもみなかった。すると彼女はあの犯罪級の笑顔で
「ふふっ。びっくりしすぎだよ。
伊織君面白いね、よろしくね。」
ドキッとした。でも最初に話しかけられた人が僕だと悪い気もしない。しかもなぜかいきなり下の名前で呼ばれたし。
「よ、ろしく。あめ、みやさん。な、なんで名前わかったの、?」緊張し過ぎて変なところで区切ってしまっている自分が恥ずかしい。
「名前はノートの表紙に書いてあったからだよ?あとーさくらでいいよ?いや、むしろさくらがいい!![#「!!」は縦中横]私も伊織君って呼んでるんだから」
「わかった。」一応了承はしたが呼ぶのは恥ずかしくて中々呼べない。というか呼ばない気がする。
「やった!さくらって呼んでくれるんだ!ならさ、今呼んでよ?」
「え?いや、その、、、」今きっと呼ばないだろうと思っていたところなのに、今、呼んで欲しいと言われるのは恥ずかしい。無理だ。
「え?さくらって呼んでくれるんでしょ〜?」さくらはにやにやしている。断れないことを察した。
「一回しか呼ばないからちゃんと聞いてて、、」「うん!」さくらは満面の笑みで僕に返事した。
「さ、くら」公開処刑なのかと思うほど恥ずかしい。自分でも顔が火照っていくのがわかる。顔から火が出ているのかという感覚になる。
「ふふっ。ありがとね。うれしいよ」さくらは満足そうだった。
「じゃあそんな伊織君に質問です!伊織君は趣味とかはないの?」
さくらの質問だから前の好きな人とか付き合ってた人数とかそういったことを聞かれると思ったけど意外と普通の質問だった。
「趣味か、、、写真を撮ることかな。」
周りのみんながやっている趣味といえばスケボーや趣味というのかわからないけど部活動だが僕は少し遠出して写真撮る事が好きだ。
「わぁ!すっごく素敵だね!![#「!!」は縦中横]」
さくらはなぜかとても食いついてきた。
「伊織君はどんな写真を撮るの?」
「自然の綺麗な景色かな。昔、見た桜が僕の目にすごく綺麗に映ってそこから好きになったんだ。自然の景色って誰かが作った訳じゃなくてなったものだからもちろん木だったら倒れたりすることだってあるし、人間の手によって破壊されることもある。でもそれも一つの人生でとても美しくて儚くて……ごめん語りすぎだね」いつの間にかたくさん喋ってしまっている自分に反省する。でもさくらはそんな僕の長々と喋った言葉を少し驚いているように見えたけど笑うことなく聞いてくれた。
「伊織君の話面白いから全然大丈夫だよ、でもわかるなー私も自然の景色は大好きだよ。写真はスマホで少し撮るくらいだけどね。」
なんだか趣味の共有ができた気がして少し嬉しくなった。
「ねぇ伊織君。再来週の日曜日二人で美しい景色でも撮りに行こうよ」
「え?」
まさか初対面で趣味の共有とはいえど、
こんな美女と出かけるなんて、しかも二人とは。
誰でも聞き間違えを疑うだろう。
「だーかーらー!二人で出かけよ?いいでしょ?ね??[#「??」は縦中横]」
こんな可愛い笑顔で言われると断れない。
「い、いいけどさくらはなんで僕なの?」
クラスの中心人物やイケメンサッカー部とかなら話は別だが顔も普通で勉強も中の中でクラスでも特に目立つ存在でもないし部活も入ってないこんな僕を選ぶ理由がわからない。景色を見るなら別に僕じゃなくてもいい気がする。
「あ、やっとさくらって呼んでくれた」
自分でも自然とさくらと呼んだことにびっくりする。
「一緒に行く理由なんて気にする?私が伊織君の写真愛に惹かれて一緒に写真を撮りに行きたいと思ったから以外ないよ?まさかなにか期待してる??[#「??」は縦中横]」さくらはにやにやしながらそう言った。
「そ、そんなんじゃないよ!」
「おーい。あいしまー。雨宮と仲良くするのはいいが授業中は黙っとけー」
自分でも思わぬ声の大きさにびっくりした。
周りからもくすくすと笑い声が聞こえて恥ずかしかった。
「ふふっ。やっぱり伊織君面白いね。でも楽しみだね!二人でデート」さくらからデートと言われるのは想定外すぎて逆に声も出なかった。
「桜を見に行くのはいつからなの」
「駅前に十七時集合かな」「遅くない?」
「絶対にそのくらいの時間からがいいの。だって伊織君夜でも何もしてこないでしょ?」「あ、当たり前じゃん!」
「ふふっ。楽しみ。」さくらは完全に僕をからかっている。しかも笑顔で言えば許されると思っている。まぁ許してしまうのだけど。
長いような短いような授業が終わり、今は昼休み。
「いおりー。お前授業中何話してたんだ?随分と楽しそうだったけど」
昼休みに大輝と二人で教室でご飯を食べていると、ニヤニヤとしながらクラスメイトの大輝が聞いてきた。
ちなみにみんなはさくらを囲んで桜に質問ぜめだ。
木村大輝はバスケ部のキャプテンでクラスでも人気者。でもなぜか俺と仲がいい。
入学式の日にたまたま少し話しただけなのにそれからなぜかLINEまで交換して仲良くなった。
俺と仲良くする理由もよく分からないがなぜか僕と二人でいることが多い。
「え?なんだそれ」僕は自分から説明するのが恥ずかしかったからわざととぼけてみた。「雨宮さんとだよ」「あぁ、さくらとね」
「え!お前さくらって呼んでんのかよ!![#「!!」は縦中横]」
「え、あぁうん、まぁ」短時間なのに当たり前のようにさくらと呼ぶ自分にまたしてもびっくりする。
「なぁ大輝。さくらって可愛いとおもうか?」
なんとなく気になって聞いてみた。
「めちゃくちゃ可愛いだろ。あんな可愛さどこ探してもそうそう見つかるもんじゃねえだろ。まぁ俺の彼女の次にだけどな。」大輝は同じ学年に
小羽 美咲という彼女がいる。大輝が言う通り可愛いし性格もよくてみんなから好かれている。元々僕と小羽は幼なじみである。親同士が仲が良く僕らも友達みたいな感じで普通に仲良くしてた。そして最近大輝から告白して成功したらしい。そして昨日で二ヶ月を迎えた二人はデレデレだ。それにしても、大輝もズバリさくらのことは好印象なようだ。
「はいはい。お前の彼女が一番だよ。」
「そんでいきなりそんなこと聞いてきてどした、なにかあったのか?」
「いや、その、来週の日曜日に二人でちょっと出掛けることになったんだよ」
大輝なら信用できるし悪口を言うようなやつでもないのを知っているから大輝には言ってみた。
「はぁ!?[#「!?」は縦中横]お前夢でも見てるんじゃねーの?
お前雨宮さん今日転入してきたんだぞ?」
大輝はとても驚いているようだったが無理もない。俺が大輝の立場でも大輝と同じ反応をしただろう。
「だよな。でもほんとなんだよ。」僕も夢なら今から緊張することもなくこのご飯の味を味わえただろう。今日の学食のオムライスに謝りたい。
「まぁ、本当なら頑張れよ!雨宮さんならお前の過去も更新してくれるくらいの人かもな。」
「それはないな。でもなんとなく雰囲気は似てるよ。」
学校が終わり家に帰ってベットの上で今日の事を振り返った。結局あの後にはデート?の話はしなかったが色々と話した。目が合った時に微笑む彼女はやはり可愛くてドキッとした。
大輝が言った消したい過去。
それは僕が小学校五年生の頃に風邪をこじらせ一週間ほど入院した事があった。その時の二日目に同じ病室の隣に一人の女の子がきた。
「ねぇ。名前は?」入院してきたばかりのその女の子にいきなり話しかけられた。
「相島 伊織」
「なんて呼べばいい?」
「別に呼ばなくていいけど、伊織でいい。」
「わかった!なら伊織君って呼ぶね!私の名前はえーっと、マリーゴールド!マリーって呼んでね!!ところで伊織君はなんで入院してるの?」名前がマリーゴールドは絶対に嘘だ。つっこむことすらめんどくさい。そもそも彼女はなんでこんなに話しかけてくるのかわからなかったが答えない理由もないから答えた。
「ただ、風邪をこじらせただけ。一週間もすれば退院できるって病院の先生が言ってた。」
「そうなんだ、短い間だけどよろしくね」そういう彼女の声色は暗かった。その後はもう質問をしてこなかった。
夜になって僕は夜中に目が覚めた。
深夜二時くらいだっただろうか。隣から泣き声が聞こえた。「なんで、泣いてるの」
僕は彼女に聞いてみた。彼女は僕が声をかけていて驚いていたが、一旦深呼吸して泣きながらではあるが答えてくれた。
「私ね、心臓病なんだ。心臓病にもたくさん種類があってどれなのかは私にはわかんないけど病院の先生は治る確率は手術しても低いんだって。」幼かった僕にはその言葉を聞いた時に優しい言葉をかけることができずただ話を聞いているだけだった。彼女は二、三回深呼吸をするとまた、話を続けた。「でもね、そこで泣いたらお母さんはもっと悲しむだろうと思って泣くの我慢したの。本当は凄く不安だった。」彼女はこの歳にしてどれだけ重いものを抱えてるんだろう。
「でね、お母さんこれから私が学校にもあんまり行けないからって病院で友達作ろうとしてくれたの。」「それで伊織君と同じ病室になったの。だからお母さんのためにも伊織君に話しけたんだけど、伊織君一週間しかいないから友達になれないから。」
「一週間しかいないならその間に友達になればいいんじゃないの。そしたらその後もずっと友達じゃん」僕は優しい言葉はかけれなかったし、普段も友達がそんなに多い方ではなかったけど一週間という短い間でも友達になりたいと思った。普段からあまり喋ったりするのは多い方ではないが、その時は彼女の気持ちを少しでもらくにしてあげたいと思った。
「伊織君、ありがとう。」彼女は泣きながらお礼を言ってきた。
次の日から退院するまで外に出たりはしなかったけど楽しく話をしたりトランプや広くもない個室の中でだるまさんがころんだなどをして楽しく遊んだ。彼女は僕が君って呼んでいたらマリーって呼んで!と怒られたのでそれ以降は絶対名前は違うと分かっていたけどマリーと呼んだ。
僕が入院して五日目の夜。マリーは僕にいきなり質問をしてきた。「ねぇ、月が綺麗ですね。ってどういう意味か知ってる?」唐突な質問だがそのくらいは知っていた。「あなたが好きです」
「それ、私に告白してるの?」マリーは僕をからかうかの様に僕にそんなことを言ってきた。「月が綺麗ですねの意味を言ってるだけだよ」
「そっか、残念だなー。月が綺麗ですねって言葉はね、夏目漱石がI LoveYouを日本語に訳したんだよ?」本を読むのがそこそこ好きだった僕にとってはそのくらい知っていたが、自慢気に話すマリーの笑顔は僕にはとても輝いてみえた。マリーはその後も夏目漱石について語っていた。
そして退院する前日の夜。
「今日は満月だよ。綺麗だね。外の夜桜と、とてもあってるね。」マリーはそう言った。その声には涙が混じっていたが僕はそのことには触れなかった。
「うん。」窓から見える夜桜は本当に美しかった。
「伊織君は明日で退院だよね?」
「うん。」「伊織君。私と友達になってくれてありがとう。」僕はなぜか急激に寂しくなった。気の利いた返答すらも見つからない。
「こちらこそありがとう。」
「もう遅いし寝よっか。」「うん。」その後僕は中々眠れなかったが、それはマリーも同じだったらしい。泣いていたのが聞こえたから。僕は声をかけなかった。声をかけると僕まで泣いてしまうだろうから。
次の日朝起きるとマリーはいなかった。朝食を持ってきた看護師さんに聞くとマリーはこの日朝早くからの一日検査の日だった。看護師さんもマリーと僕の仲が良かったのは知っていたらしく、手紙でも書けばいいんじゃないかと勧めてきてくれた。
だから手紙を書いて置いていった。
マリーへ
僕は今日で退院します。一週間、君のおかげで楽しめたよ。声をかけてくれてありがとう。
君に自分の想いは伝えられなかったけど、君と昨日見た月は綺麗だったよ。夜桜はもっと綺麗だった。暗い中に輝きを放つ桜はまさに君みたいだなって思った。正直、寂しいめす、でも君とはこれからもずっと友達だからまた逢えるよね。その日を心待ちにしています。
病気なんかに負けずに君は君らしく頑張って下さい。さよならは言いません。いつか君の桜のような笑顔をまた見させて下さい。
伊織
もちろんその時は手紙に住所を書いていた訳でもないので返事はこなかった。
今でも彼女の事を忘れられずにいる僕は彼女以外と恋なんてできる気がしない。いつかまたあの子に出会えるだろうか。出会いたいと思っている。今日のさくらの笑顔は昔会った子に似ていた気がする。雰囲気が似てる。名前がさくら。あとは、、。共通点を必死に探して少しでもあの子だと思おうとする自分が嫌になる。
From さくら
初めて奇跡ってあるんだ。と思った。
親の仕事の都合で隣の市に引っ越すことになって高校も変わった。それまでの友達に別れを告げた。
新しい高校も前の高校と同じでそれなりの友達ができて、それなりの高校生活を送ると思っていた。
新しいクラスの紹介を担任にされて、二学期の初日に教室に入った。そして自己紹介の時に周りを見渡すと彼がいた。久しぶりのはずなのにすぐに分かった。
伊織君。彼との初めての出会いは、私が小学校五年生の時に難病に侵されて入院した時に同じ病室の隣のベットに伊織君はいた。入院する前にお母さんが私が同じ病室の人と仲良くなれるように同い年の人と同じ病室になるよう言っていたらしい。入院する前にも同い年の子がいるから、仲良くしてね。とお母さんに言われていた。そして伊織君とは一週間という短い間だったけど仲良くなれた。その一週間は未だに私の中で最高に楽しかった日々で幸せだった。唯一自分が病気だと忘れられる瞬間が伊織君と話しているときだった。いつから私は伊織君に惹かれたのだろうか。きっと出会った瞬間から惹かれ始めたのだろう。とにかくその時はこの幸せがずっと続いてほしかった。しかしお別れは必ずくるものだ。当たり前だけどそんな残酷な世界を恨みたくなる。そして、伊織君の最終日の日、私は朝早くからの一日検査で病室から離れた。
離れる時伊織君はまだ寝ていた。
伊織君が起きていないのも周りに誰もいないのも確認して私はキスをした。
さようなら。伊織君。神様も一回くらいこんなことしても許してくれるよね?お願い。許して。これは忘れるためだから。
夕方まで検査をして病室に帰ってきた。いる訳ないのに隣のベッドを見た。もう既に看護師さん達の手によってベッドは綺麗なシワひとつない状態になっていた。どこにもぶつけることの出来ない切なさを感じた。喉が乾きペットボトルの水を置いている机に目をやった。するとそこには手紙が置いてあった。その手紙を読んだ。自然と涙が溢れた。それは一滴二滴とかそんなものじゃなくとめどなく溢れた。
今すぐ会いたいと思った。でもそんなこと無理だから。分かっているけど。。。
でもいつか会うために私は必死で病気が治るよう頑張った。薬は副作用で動けないくらいキツいときもあった。でも会えるあてもない伊織君に会うために頑張った。
そして中学校三年生の三月。ついに私は退院することができた。そのタイミングで親が転勤になって引っ越した。そしてそこに伊織君がいた。本当に嬉しかった。奇跡ってあるんだって思えた。でも伊織君は名前を聞いてこなかったから仕方ないけど私を覚えていなかった。
伊織君は一週間でも友達になれるって言ってくれた。伊織君は私に生きる意味や頑張る理由を教えてくれた。だから私は初めからでも友達になろうと思った。ううん。むしろ初めからまた友達になりたい。だからすごく緊張したけど自分から話しかけてみた。伊織君は昔と変わらない対応だった。そしてデートというものにも誘ってみた。絶対に断られると思ったけど意外にも伊織君はいいよと言ってくれた。
また二人であの満開の桜を見たい。心の底から笑顔になりたい。またあの時みたいにドキドキしたいと思った。
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