7-3


「カイタも神様候補になっちゃったから、なかなか言い出せなかった。……ごめん」


 ギンガは最初から知っていたんだ、オレがいつも戦っていたことを。だからずっと、オレのことを心配していたんだ。

 でも、どうして黙っていたんだ?

 オレが神様候補になったのは、夏休みが始まったすぐ後。オレが最後の一人に選ばれたんだから、ギンガはそれよりずっと前になったはず。

 じゃあ一緒に学校へ行った時も、授業を受けている時も、ずっとずっと隠し続けていたってこと?

 何で、何で、何で?


「ギンガ……どうして、オレに教えてくれなかったんだよ……?」

「そ、それは……」


 オレが聞いても、ギンガはもごもごしているだけ。いつもみたいに、元気に答えようとしてくれない。


「そっちのお友達も、神様候補だったのね……」


 ぐにゅぐにゅぐにゅっ……!

 光の矢にやられたはずのミクさんが、平気で立ち上がった。アメーバの体をしているから、攻撃が効かなかったんだ。穴が開いたはずのお腹がぐにゅぐにゅ動いて、傷をふさいでいた。


「はぁ~あ。二対一とか卑怯ね。男なら正々堂々戦いなさいよ」


 ギンガを人質にしようとした、ミクさんにだけは言われたくない。それに「男はいらない」って言ったくせに、今度は「男ならうんぬん」って……。都合良すぎじゃありませんか?


「こんな卑怯者となんて戦えないわね。私は帰らせてもらうわ」

「あ、待って――」

「じゃあ、そういうことで」


 オレの制止の声も聞かず、ミクさんはさっさと行ってしまう。体を液状にして、にゅるにゅる去っていた。

 残されたのはオレとギンガ。

 敵がいなくなって、ほっと出来る――はずだった。

 でも、オレの胸はざわついている。

 親友が神様候補だと知って、心の中がグチャグチャだった。


「なぁ、ギンガ?ずっと、オレのことを騙していたのか?」


 戦いが始まる前から、オレが神様候補の一人だって気付いていた。博物館の恐竜展に行った時も、今日のプールの時も、知っていてずっと一緒にいた。

 自分の正体を隠したまま、オレと遊んでいた。

 何のために?

 まさか、油断したところを狙うため……?

 あり得ない。

 そんなこと、絶対あり得ないよ。


「……ごめん」


 だけど、ギンガはだだ一言謝るだけだ。


「じゃあ、ギンガは……新しい神様を目指しているの……?」

「……ごめん」

「ごめん、じゃあ分からないよ!」


 オレは、ギンガの肩を掴んで叫んだ。

 信じたくない。

 ギンガが戦うつもりだなんて、信じたくない。


「それしか……言えないんだよっ!」


 ばしんっ。

 オレの手がはねのけられた。

 ギンガは泣いていて、体からは白いオーラが溢れていた。


「オレっちは……宇宙の力で進化したい」

「でも……」

「この力があれば……夢が叶うんだよ!」


 ギンガの夢……。

 えっと、何だったっけ。

 そういえば、ちゃんと聞いたことがない。いつも宇宙の話をしていたけど、将来の夢は聞いたことがなかった。


「オレっちの夢は宇宙飛行士……宇宙に行きたいんだ。だけど、オレっちはバカだから……きっとなれない。でも神様になれば、宇宙のことだって知ることが出来る。遠い星にだって行けるようになるんだ……!」


 そうか。神様になるのは、新しい世界を作るためだけじゃない。

 ギンガは神様のすごい力を使って、夢を叶えようとしているんだ。


「そ、そのために……夢のために、戦うってことなのか!?」

「ああ……そうだよ。そのつもり……だったよ」


 涙の線を手で乱暴に消して、ギンガがにらみつけてくる。だけど、その目は泳いでいた。


「だけど、お前も同じ……神様候補だって知って、訳分からなくなっちまった!夢を叶えたい、だけどカイタとは戦いたくない!それにお前……戦いを止めたいんだろ?それじゃあ、オレっちとは全然違う……真逆じゃないか。だから、だから……オレっちは!」

「ギンガ……」


 肩で息をしながら、ギンガは気持ちを吐き出している。

 ギンガは、ずっと悩んでいたんだ。自分の夢のために、オレを倒すのかどうか。

 だから言い出せず、神様候補だってことを黙っていたんだ。

 もしバレたら、友達同士戦わないといけなくなっちゃう。夢か友達か、決めなくちゃいけなくなるから……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る