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「あたしの話……?」

「そ、そうっ。メブキさんってすっごく真面目に頑張っていたからさ、きっと特別なことがあったんだろーなー……って。よかったら、聞かせてほしいなって思ったんだ」


 初めて戦っているところを見た時から、ずっと気になっていた。

 オレなんかと違って、メブキさんはちゃんと自分の考えを持っている。自然を大切にしていて、ポイ捨ては絶対許さない。神の力は大切で、間違った使い方をさせない。ちょっと過激なところはあるけれど、筋はしっかり通っている。

 だから、どうしてそう考えるようになったか知りたかった。


「そう……いいわよ。話してあげるわ」


 少しの間考えてから、メブキさんはそう答えてくれた。





 箱舟市に引っ越してくる前、メブキさんは小さな村に住んでいたそうだ。そこはとても自然豊かな場所で、おいしい野菜がいっぱいだった。

 そんな場所で生まれ育ったので、メブキさんも草木が大好きだった。

 毎日畑の野菜の世話をして、野山を駆けまわって遊ぶ。そんな日々を過ごしていた。


 でも、ある日のこと。村で大事件が起きた。なんと村を潰して、大きなホテルとゴルフ場を作ることになったのだ。

 どこかの会社が作ろうとしている、巨大レジャー施設のためだ。もし完成すればたくさんお客さんが来て、大もうけ出来る計画だったらしい。

 もちろん、村の人達は反対した。小さかったメブキさんも一緒に反対した。今まで大切にしてきた土地を、育ててきた畑を手放すなんて嫌だった。だから何度も「中止してほしい」と伝えに行った。

 でも、意見は聞き入れてもらえなかった。


 工事の人達は勝手にやってきて、山や畑をどんどん壊していく。それを止めようとしても「許可はもらっているから」「仕事の邪魔をするな」と言われるだけ。逆に村の人が悪者扱いされた。

 なんでも工事は、村の人達が知らないところで決まった話だったらしい。メブキさんにも分からない、とても偉い人達が関わっているそうで、村の人達にはどうしようもなかった。

 結局、そこに住んでいる人達のことを無視して、工事は勝手に進められていった。


 その内村の人達は諦めてしまい、他の街に引っ越していった。メブキさんの家族もそうやって箱舟市にやってきたんだ……。





「分かった?弱い人の話なんて、誰も聞いてくれないの。だからあたしは強くなって、自然を大切にする世界を作る」


 話を聞いて、オレは何も言えなかった。口げんかが得意なカンブさんも、全然反論しない。

 メブキさんの物作りが大っ嫌いな理由は、痛いほどよく分かった。今までオレ話を聞く気がなかったのも納得出来る。それくらいに酷い話だ。

 大人は完璧で、子供の手本だって思っていたオレとは真逆。大人の汚いところのせいで、メブキさんは酷い目に遭ってきたんだ。

 次の神様になって、世界を変えてやろうと思うのもおかしくない。


「でも、カイタのことを見てきて、もうちょっとだけ信じてみようって思えたわ。争わずにこの世界を良く出来るのなら、それが一番いいから」


 でもメブキさんは、戦いをやめてくれる。オレのことを信じてくれる。

 やっと気持ちが通じたんだ。


「ほ、本当!?」


 夢じゃないかと、思わず聞き返してしまう。


「ただしっ!……もし出来なさそうって分かったら、あたしはこの戦いに勝ち残る。そして新しい神様になるからね」

「うんっ、大丈夫!オレ、絶対やり遂げてみせるから!」

「ちょ、やめてよ!あと手を握らないでっ!」


 すぱーん。照れ隠しで頭をはたかれちゃった。本日二度目だ。これまた、結構痛い。

 素直に言ってくれないけど、メブキさんは協力してくれる。変わらずツンツンしているけれど、仲間になってくれたんだ。


「さて、そうなると……当面の問題はあの男だね」


 カンブさんが心配そうにつぶやく。

 あの男……紫色のオーラの人だ。あの人がいる限り、争いは終わらない。とんでもない力で、他の神様候補を倒していってしまう。


「どうにか説得してみたいけど……」

「その前にやられるのがオチね」


 相手は中学生くらいで、能力も不明だ。しかも生身で戦っている。どれだけ強いのか、測れそうにない。


「あの男だけは、倒さないといけないんじゃない?」

「そんな……。なんとか捕まえて、話だけでも聞いてもらいたいんだけど……」

「カイタ君の鎖はサラちゃんでも壊せた。ということは、その男に効かない可能性が高いってことだね」

「あー、そうなるよね……」


 今のままだと、オレ達の力だけじゃ止められない。残っている他の候補者と協力しても、止められるかどうか微妙だ。


「まず倒す方法から考えた方が早そうだけど、それも難しそうなのよね」

「うん……」

「シズクさんの力を借りたいけど、彼女自身も強敵だからね」


 紫色のオーラの人だけじゃない。シズクさんも問題だ。今日の戦いでも、オレ達は苦戦した。もしかしたら先に、シズクさんにやられてしまうかもしれない。


「「「はぁ……」」」


 三人同時に溜息をついた。

 結局、全然良い案が思いつかないまま、お開きになっちゃった。






☆キャラクター図鑑・6

古石ふるいし冠武カンブ(八番目の神様候補)

 市立箱舟南小学校に通う、十二歳の男子。成績優秀で古生物に詳しく、自由研究の成果をよく表彰されている。カンブリア爆発にこそ、人類の進化のヒントがあると考えている。自然の摂理である生存競争は理解しているが、人間同士は言葉を用いて可能な限り平和を守るべきと思い、神様候補同士の戦いを止めようとしている。

 アイテム:オパールのバッヂ

 能力名:『バージェス・ミメティクス』…岩石で再現したバージェス動物群を右半身に装備する。再現する動物によって名前の『バージェス』部分が変わる。

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