第12話 調合と固体眠り薬の完成
調合部屋に戻ると調合台の上に先ほど採ってきた材料を並べた。
・青藍樹
・七色蝶の幼虫
・雪中花
・のっぽうの樹液
「ドゥブ毒はこの4つの材料で作ることができます。青藍樹は氷効果5、幼虫は発展効果6、雪中花は吸収効果6、樹液は成長効果7。見ていてくださいね。」
そういうとマリアは調合をはじめた。
青藍樹を瓶から取り出すと青藍樹はトゥルンというゼリーのような触感になっていた。
「青藍樹は木から切り離すとゼリー状になります。この青藍樹とのっぽうの樹液250mlを鍋で煮詰めていきます。」
マリアはそう言いながら時短魔方陣を鍋の上に配置した。その間に雪中花を茎ごとすり潰す。鍋の液体が半分の量になったところで生きたままの幼虫を入れ、幼虫の形がなくなるまで更に煮詰めてゆく。幼虫を入れてしばらくは液体が濁った灰色だったが、そのうち液体は透明へと変化し、そこへすり潰した雪中花を投入した。
「これで出来上がり。」
出来上がった液体は無色透明で香りもない。スキルで見てみれば【奪活力効果 8】の文字。私はなんだか恐ろしくなった。透明で臭いもない。これならば混ぜられても見た目では分からないではないか。少し飲んだだけでも体内で増殖してゆくのだ。口にしてみないと分からない、だが口にすれば死んでしまう。
「恐ろしいか?」
表情を硬くした私をみて、師匠が言う。
「人の命を奪うことができる薬だからな。実際に目の前にあると手が震える思いだろう。」
師匠の言葉に私は頷いた。
「この毒の見分け方はないのですか?」
「ドゥブ毒の見分け方は知ってさえいれば案外簡単なんですのよ。ドゥブ毒は臭いを吸い取ってしまう。つまり、料理に混ぜたらその料理に香りがなくなるのです。どんなものでも多少は香りがするものでしょう?水にさえ何かしらの臭いがありますから。それともうひとつ、ドゥブ毒のもう一つの顔を教えてあげましょう。」
マリアはそう言うと、ドゥブ毒の入った鍋を更に煮詰めはじめた。透明な液体が茶色になりやがては漆黒になり、少し輝き始めた。その輝きに驚いて私はスキルでその効果を確認した。
「防御効果・・・8!?」
思わず漏れた声に、マリアが勢いよく振り返った。
「それはスキルですの!?」
「あ・・・。」
と、口を開けた私に師匠が「まぁ、いい。いずれバレる。」と制した。それに、と師匠は続ける。
「研究バカではあるが信頼はできる奴だ。何より、お前を守る盾の一つになるかもしれん。」
「それはどういう意味ですの?」
「ライファには2つのスキルがある。1つは今の通り、効力を持つモノの効果がわかる。もう1つは魔力のある薬材を調合する際に魔力を消費しないというスキルだ。」
私のスキル内容を師匠が説明するとマリアが目をキラキラさせて興奮したように声を上げた。
「なんてことでしょう!スキルが2つもある上に、全て調合の為にあるスキルではないですか!これはもう、研究家になるしかないですわ!」
マリアの興奮は収まらない。
「わたくしなんて、薬剤で調べなくては効力も分からないというのに、ライファはスキルで分かってしまうなんて。なんて羨ましい。しかも調合に魔力を必要としないのなら、あの魔獣もあの魔木もなんだって調合できるじゃないの!」
マリアは興奮のまま、キィーとか、くぅーとか言った後、「ライファ、あなたはわたくしの助手になるべきです!リベルダの元にいるのはやめて、こちらに引っ越していらっしゃい!」と言った。
その言葉を師匠が一刀両断する。
「断る!」
「なぜですの?」
「お前の元へやったら研究、研究で人間らしい生活などできなくなるだろう?それに、ライファには世界を旅して料理を作るという夢があるからな。」
「夢が・・・。」
マリアはまたもやくぅーっと悔しそうな声を出した。自分も自分のやりたいことをして生きているのだ。夢というものが自分にとってどんなものかわかっているからこそ、これ以上無理強いは出来ないと思ったのだろう。
「まぁ、そう落ち込むな。マリアに調合を教わるのはライファにとっては願ってもないことだ。その過程でマリアの調合を手伝うぶんには問題ないだろう?」
師匠が私の方を見た。
「もちろんです。」
ここに来て数時間だが知識を得るということは何事にも代えがたい宝なのだと思った。マリアの調合の知識は素晴らしい。この知識を少しでも教えてもらえるならば手伝うなどお安い御用だ。
「では、わたくしはライファの先生ですね。先生と呼んでもよろしくてよ。」
「はいっ、先生!」
私が先生と呼ぶと、マリアは気を良くしたようだった。
「さて、話を戻しましょう。先ほどライファが言ったように、ドゥブ毒を煮詰めてゆくと効力の高い防御薬ができるのです。青藍樹の氷の効果ですが、氷の効果には様々な方向性があります。冷たくする、固める、です。ドゥブ毒の時点では冷たくする効果が引き出されますが、防御薬の場合は固める効果が引き出されていることになります。青藍樹の固める効果を幼虫で発展させ硬度を上げる。そこに水中花の吸収性で衝撃を吸収する効力を追加し、のっぽうの樹液ですべての効果を成長させる。ドゥブ毒は効力の高い防御薬作る通過点なのです。調合は面白いでしょう?調合の仕方、薬材の組み合わせで幾通りもの薬ができるのです。」
「すごい・・・。」
調合の神秘に触れた気がした。
「さて、ライファの作りたい眠り薬ですが、まず皮膚から体内への吸収性を上げるために水中花を、体内で眠りの効果を成長させるためのっぽうの樹液を追加してみてはどうかと思います。まず、青藍樹とのっぽうの樹液を煮詰めてからライファが持ってきた薬を投入し、すり潰した水中花を混ぜてみましょう。」
先生が言ったように、調合する。水中花の効力だろうか。液体は無臭で赤紫色の液体が出来上がった。
「効力は?」
先生が聞く。
「眠りの効果7です。」
「よし、いいでしょう。のっぽぅの液の成長効果が薬の効力を引き上げたようですね。」
先生はニコリと微笑む。
「あとは魔力で固体にするだけです。」
先生はなんてこともないように言うけれど、これが一番の難題な気がする。私の魔力でもできるだろうか。
「先生、どうやってやればいいのですか?」
「ほら、こうやって魔力を与えて形を思い浮かべれば、簡単に丸くなりますよ」
あっさりと答えた先生を見て、私は先生がやったように鍋に手をかざし魔力を与える。イメージする。丸、丸、丸。そうすると、ぽよよよ~んと丸くなった薬がひとつ宙に浮いてきた。額から汗が噴き出してくる。浮いた薬をテーブルの上のお皿に置き、もうひとつ丸を作る。ぽよ~ん、ぽよ~ん。薬を10個丸めたところで力尽きて座り込んだ。持参した回復薬を飲む。
「んん?どういうことですのっ!?」
先生が師匠を見る。
「ライファはな、魔力ランク1なんだ。」
「なんですってーっ!!」
マリアの絶叫が響いた。
「そう、そういうことなのね。魔力ランクが低いくせに、過ぎたスキルを持っている、と。よく、わかりましたわ。」
先生はコクコクと頷いた。
その後、まだ余っていた眠り薬は先生が固体化してくれ、20個の眠り薬が完成した。
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