短編集 夜が明けるまで、

かなむ

無題

あのお茶は苦かったが別に嫌いではなかった。君がくれたものだからなのかな……。



 下駄箱はいつも画鋲でいっぱいだった。

 机の中はいつもごみでいっぱいだった。

丸められたティッシュ、消しゴムのかす、食べかけのお菓子、黒っぽくなっているガム、破かれた小テストの紙……。毎日こんなことをしてなにが楽しいのかがよくわからない。誰が飽きずに嫌がらせをしてくるのかはわかっているが、別に知ってることで得することはなにもない。復讐しようなんて思っていないし正直どうでもいい。幼い頃から追い詰められる側だったからこういう運命なのだと自分を信じ込ませるしかないし辛いと思ったところでなにも変わらない。

 壁に貼られたクラスの集合写真に自分が写っていないのは本当に笑える。高校三年生だからこのメンバーとも2年目だが、自分の顔が写真に写っているとこは見たことがない。中学生の頃からずっとだな……。なにが「みんな大好き」「愛してる」「最高のメンバー」だよ。お前らのことなんて好きでもなんでもないわ。写真なんてただの紙じゃないか……なんのために撮るんだよ。

 みんな死んでしまえばいいのにと思っているが一人だけ生きてほしい人がいる。何回突き放してもくっついてくるあの男。教科書を見せてくれたり、汚された机を一緒に片づけてくれたり、陽キャのくせに陰キャでいじめられているやつをかまう、よくわからないやつだった。

「君がいじめられるかもしれないんだよ……なんでこんなクソみたいな人間と仲良くするんだよ。」と何回も聞いたけど君は適当にごまかして答えてくれなかった。教えてくれてもよかったのに……。

 放課後苦手な数学を教えてくれた君、窓から身を乗り出し「お前は俺が守るよ」と言ってくれた君。

「俺のおごりだ」と言っていつも嬉しそうに渡してきたあのお世辞にも美味しいとは言えないペットボトルのお茶。君のそばで笑っていられて本当に幸せだなって思った。すごく楽しかったよ。

 今思い返してみるとあの嫌がらせなんて大したことなかったな。君と過ごした時間と比べればあんなの辛くも悲しくもなんともないや。



 君とあのお茶を一生忘れないよ。

 今までありがとう、大好きだよ。



そう叫んで僕は屋上を去った。

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