15話 料理人

 対談の終わった翌朝、一人で今後について考える。


 辺境伯との対談は失敗に終わったと言っていいだろう。

 しかし、最初から簡単に事が進むなんて思っていない。

 何とか首の皮一枚残せたと考えれば御の字か。

 辺境伯は貴族でありながら商売人という肩書きを持つ。

 むしろ、本人は貴族よりも商売人であることに誇りを持っていると感じる。

 商売人であれば王国に残る方が利があると突きつける必要がある。


 コンコン……


「オリヴィア様、準備が整いました」

 カーンに呼ばれ馬車へと向かう。

 すでに出発の準備がされている。

 昨日の今日でみんなには悪いと思うが、だらだらしている時間がない。


 辺境伯の見送りなどはなく、代わりに案内人として腕の良い料理人がついてくることになった。


「初めましてじゃ、料理人をしてますガーデイフと申しますじゃ」

 思っていたよりもお年寄りのおじいちゃんだった。


 この馬車にはクレアとガーデイフさん、身の回りの世話をしてくれるカンナが乗っている。

 カンナは王室メイドで少しおっちょこちょいなところもあるけど、年齢が近く気軽にお話ができる。


 ただ、ガーデイフさんがいて馬車の中はちょっと気まずい。

 何を喋ればいいんだろうか。

 そう考えているとカンナが口火を切った。


「おじいちゃんの料理美味しかったよ」

「喜んでもらえてありがとうじゃ」

「あの腕だったら王宮でも通用するね、そう思いますよねオリヴィア様!!」

「えぇ、そうね」

 さすがは陽に全振りしているような性格のカンナだ。


「オリヴィア様、この領地はどうでしたか?」

「活気があって王都にも負けない経済レベルだと思うわ」

「少し前まではこんな笑顔はなくてのぅ。年寄りの昔話をいいかのぅ?」

「もちろんですとも」

「十数年前は辺境の名に相応しい、いい言い方をすれば自然に囲まれた領地じゃった。ただ、絶景では腹は膨れんでのぅ、生活は厳しく笑顔のない領地じゃったなぁ……」

 遠くを見つめる目は景色ではなく過去を見ているのだろう。


「特に今の領主の前の領主が酷くてのぅ、領地経営なんて何一つ分からずに、貴族に良いように使われて、むしり取られてそれはそれは酷い生活を領民に課していたわい」

「えー、でも私はあの領主あんまし好きじゃないなぁ。王国を捨てるって言ってたし、オリヴィア様の提案も聞く耳持たないって感じだったし」


「ほっほ、そうじゃなぁ……あんたらからすれば酷い領主に見えるかもしれんが、あの領主に変わってから領民の生活はガラッと変わって今の笑顔の溢れる領地になったんじゃ。領民からの信頼も厚い。ワシはできれば穏便に事を済ませてほしいと思っていますじゃ」

「もちろんですとも。私も争いがしたいわけではありません。そのために今、彼の国に向かっているのです」

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