第5話誘惑する姉

夕飯を摂り終え、帰宅するかと思っていたが居すわる気らしくソファーに身体を深く沈めながら録り溜めていた音楽番組の録画を観始めた姉。

「姉貴......まだ帰んないのかよ、もう食べただろ」

「えぇ......泊まろうかなぁ~て感じ。私に見られたらまずいことでもしようって──」

気だるげに返してから、完全にあっち方面のことを想像しているようなにやけた表情と声音でからかってきた姉。

「はっ、はぁーっっ!話が違うだろっ姉貴っってぇっ......しねぇよ、そんなこと」

つまぁ~んないってぇ~のっ、とため息を漏らし、不満だと言わんばかりにむすぅーっと頬を膨らませそっぽを向く姉。

「分かったって。勝手に泊まっていけば良いよ、その代わり今日だけだからな」

「はいはぁ~いっ、るんちゃ~ん!」

と、弾ませた声で返事をした姉だった。


浴槽に湯が張り終わるまでの間、姉からある指摘を受けた。

「楽しそう......あんたって自然に笑うようになったよね。今みたいにさっ」

「そうかな......前だって笑ったことある、けど......」

「そりぁ、あんたが幼い頃はでしょ。そうじゃなくて、笑顔って意味。気になる──好きな娘が出来た、とか?」

首を傾げた俺に意味深なことを告げてから瞳を輝かせ、恋ばなを聞き出そうと訊ねてきた姉。


「そんな、の......ねぇって。エスパーじゃねぇんだし笑顔でそんなんわかんねぇよ!」

「気になる、気になり出した人にみられる瞳の輝きを感じる。あんたから」


♪♪♪♪♪~


浴槽に湯が張り終えた知らせが聞こえた。

「翔ぅ~背中の洗いっことしゃれこもうよ、久々に」

「いきなりすぎだろ、そろそろ──」

「しないって、しないしないっ!何もしないから」

「信じて良いんだよね、その言葉」

「しっ信じて私をっ!」

大学生の姉が......ブラコンの気質を感じさせる。

弟が好きなのか、もしくは歳下の──いやいや、もう姉に関して悩みごとが増えるのはたくさんだ。

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