いずれ神の上に立つ者〜勇者から始まる冒険譚〜

第七十六話

「…そうか…俺はバーン･ドラクス…魔物を生み出し人界へと攻め入った魔王だ」

「思い出したか？」

「ああ…全部な…」

マリン姉ちゃんに弟さんの話を聞いた時に胸が苦しくなったのは、魔物を生み出したのが俺だったからか

「はは…マリン姉ちゃんの仇は俺か…」

あの襲撃者と戦った時の黒いオーラはアイツに操られようとしてたんだ、また俺は過ちを犯す所だった

「俺…どうすりゃいいんだ？」

もう分からなくなってしまった、勇者になってアイツを倒す？それで罪は償えるのか？俺は魔族も人族も全部殺してしまったのに

「…さぁな、私にも分からない。でも勇者はお前を信じていた」

「勇者…マイ…」

「自分を信じろと、勇者に出来なかった事をお前がやれと。私はもう死んでいる、やるのはお前だ」

「…そういや…なんでバーンの時の俺が居るのか分からないんだけど」

「さぁ、なんでだろうな？だが多分アイツは失敗したんだ」

「失敗？」

「勇者が死んでも魔王が死なないのはこういう事だったんだよ。つまり死んでも転生するから実質不死身なんだ」

「…なるほど」

転生するから肉体は滅んでも魂は死なない、それが魔王の秘密。アイツの呪いか

「アイツはきっと転生した私を再び操ろうとしてたに違いない。でもお前は勇者に転生したんだ」

「魔王が勇者に転生…か」

「ああ、お前もあの声に助けられただろう？」

「あの声…ああ…そうだな、確か2度目のチャンスをくれた」

「きっとあの声の主が勇者に転生させてくれたんだ、アイツに再び操られないように…多分だが」

「多分なのか」

「し、仕方ないだろう？私も憶測で語ってるんだ」

やっぱり俺だなぁ…こういう断定出来ないところとか

「まぁそっか」

「…さて、記憶も見せたし。そろそろ時間だな」

「え…」

「お前は全て思い出した。もう私の出番は終わりだ」

バーンの体が透明になって消えていく

「そんな…お前はどうなるんだよ」

「消えるだけさ」

「なんで…そんな…」

「大丈夫、お前に…リュート･レギオスの私に全部託したから悔いはない。お前なら分かるだろ？」

「ああ！分かるさ！でもそれじゃあお前が…バーンが救われないじゃないか！」

「何言ってるんだお前は…私はお前だ、救うも何もないだろう」

「そりゃ…そうだけど…！」

俺自身でも何を言ってるのか分からなかった、でも悲しくて、涙が止まらなかった

「我ながら泣き虫な奴だ、頑張れ…私。全部託した」

「…うん…託された、俺」

「…そうだ、私のスキルと魔法を授けよう。有効活用してくれよ？」

「分かった…その力でアイツをぶん殴ってやるから」

「ふはは！それはいい！ありがとう、見守っているぞ…」

バーンは消えた、いや俺に戻ったんだ。全てを託して

「アイツだけは許さない…」

アイツに勝てるまで強くなって、もう負けず、洗脳もされずに、もう死なない

「次は俺が勝つぜ、邪神様」

邪神ベル･ブラン…待ってろよ

…

…

「リュ…ト…リュート…！」

「ん…ここは…」

俺の部屋か…

「よかった…！いきなり倒れたから心配したのよ！」

「母上…無事だったんだね…」

「ええ、貴方のおかげよ。具合はどう？」

「少しダルさがあるけど別に何ともないかな」

「よかった…3日も眠ってから心配したのよ？」

「3日も…ごめん」

「ふふ、まぁ何ともないなら良かったわ！アルト達にも伝えてくるわね」

「うん…」

そうして母上は部屋を出ていった

「…これからどうすれば…勇者マイ、俺は何をすればいいんだよ…」

何故俺の名前を知っていたのかは分からない…まるで未来を知っているかのようだった

「とりあえずは勇者を目指してみるか、勇者マイを辿って行けば分かるかもしれない」

「入るぞ、リュート！目が覚めたんだな！」

「リュート〜！」

「父上、姉上…うん、心配かけちゃったね」

「いいさ…無事に目覚めてくれたんだ…よかった…」

「お姉ちゃん心配したんだからね…！次あんな無茶したら許さないんだから！」

「ごめん姉上…」

「許す！うええん…リュート〜！」

姉上は泣きながら抱きついてくる

「はは…そういえばミリシャは？」

「…ミリシャは…攫われた…」

「なっ…そんな…すぐに追いかけないと！」

あれから3日だ…早く見つけないと…！

「今、セバスチャンとお前が連れてきたアリアさんとイリスさんに頼んで探してもらってる」

「…今も見つからないんですか？」

「…ああ」

父上は手を握りしめる、きっと心配で焦っているのだろう…みんなそうだ。なら俺がやるべき事は…

「俺も探してきます」

「それはダメだ、お前はまだ起きたばかりだろう」

「もう大丈夫です、それに…多分俺だったら見つけられます」

「本当に…？でもまだ安静にしとかないとダメだわ」

「今もミリシャは危険な目にあっているんです、もう…失うのはうんざりだ」

「…私も行く」

「姉上…？」

「リュート1人では行かせない、今度はお姉ちゃんがリュートもミリシャも守るから…！」

覚悟の決まっている顔でこちらを見る

「…でも…」

「2人でも危険すぎるわ…また襲ってくるかもしれないのに…」

「それでも行くから！リュートもお父様もお母様も反対しても私はリュートについて行く！」

これは何言っても聞かないやつだな、まるで勇者になるため父上を説得した時の俺みたいだ

「分かったよ、でも俺も姉上を守るから」

「…無事に戻ってこいよ。2人とも…絶対にだ」

「アルト…2人とも危険だと感じならすぐに戻ってくるのよ？」

「「はい！」」

俺達は襲撃者を追うことになった、ミリシャを救うために…

「行こう姉上」

「うん！あ、ねぇねぇちょっと聞きたいんだけどさ」

「ん？」

「その髪の色どうしたの？似合ってるからお姉ちゃんは好きだけど」

「え…？」

俺は水溜まりに映る自分を見る

「な…な…なんじゃこりゃああ！！」

一部分だけ髪が白くなっていました

これは厨二病が捗りますな！じゃないわ！ちくしょう！！