第六十一話

「ありがとうリュート君…生き返ったよ」


「すみません忘れてました…」


「いやいいさ、それよりも君は本当成長したね。最初の頃から見違えるように」


「はは、ロディ先生のおかげです」


「いいや…僕は戦いの基礎を教えただけさ、今の君を作ったのは君自身だよ」


「…はい!」


「うん、それに…ルシュ君も」


「は、はい…」


「君は自分が思っている以上に強いんだ、それは力だけじゃない。強さというのは色々なものがあるんだ」


「色々なもの…」


「君は諦めない強さを持っている、友人を助けようとする優しい強さも君は持っているんだよ?」


「俺が…ですか」


「うん、だから自分を信じ、進んでみるといい。そしたらきっと今よりずっと強くなれるよ」


「…分かりました!」


「いい返事だ、じゃあ手合わせはここまでにして。休んだらまた訓練ね」


「うぇぇ…身体中痛いのにー」


「休んでるとルシュ君に追い越されちゃうかもよ?」


「はぁ…それは勇者として見過ごせないですね…やってきます…」


「ふふ、その調子だ」


「うおおおおぉ…!!!俺は!もう逃げないんだあああ!!!!」


「ルシュ君は気合を入れすぎだね…」


「はは、でもルシュらしいです」


「それもそうか…」


「うおおおおぉ!」


こうして2度目の手合わせも俺の勝利で終わった。ルシュもきっとこれから共に助け合って戦ってくれるだろう。仲間として、友人として…


「そういえば訓練が終わったら陛下がお呼びだよ」


「国王陛下が?」


なんだろう?


「うん、終わったら行ってみるといい」


「分かりました」



しばらく後、訓練が終わり俺は王の間へと向かった



「すまないな、いきなり呼び出したりして」


「いえ、訓練も終わり部屋に戻るだけでしたから」


「そうか、で呼び出した件なんだがな」


「はい」


「リュートにはしばらくレギオス領へと戻ってもらおうと思ってな」


「えっ…家に…ですか?」


「ああ、レディッサとロディの話を聞く限り、ほぼ教える事がないと言っていてな。4歳の頃からほぼ実家にも帰っていないだろう?」


「ええ、それは…そうですが」


「だから久しぶりに帰って家族で過ごすといい」


確かに…久しぶりに父上や母上にも会いたいし、何よりミリシャに会ってなでなでしてあげたい!


「…分かりました!ではレギオス領に戻らせて頂きます」


「うむ、アルトにもよろしく伝えておいてくれ」


「はい!」




こうして俺は6年ぶりに実家へと帰ることになった



そしてここからあの事件は始まったんだ






国王陛下に戻るよう言われた後、俺は領へ戻る支度を終え、周りに挨拶をしていた


「リュートお前、またいなくなるのかよ!」


「またって…別にある程度過ごしたら戻ってきますよ…」


「ぐむむ…冒険者になる時も突然だったし…オレに何も言わないで…ぶつぶつ」


ああ…またぶつぶつ言い始めちゃったよ…


「じゃあ…俺そろそろ行くので失礼しまーす…」


気づかれないうちに退散しよう


「まて、何逃げようとしてんだ?」


「ひえ…」


「…はぁ…じゃあ今回はこれで我慢してやる」


レディッサ先生はこちらの方へ来ると俺を抱きしめた


「レディッサ先生?」


「お、オレだってお前が居ないとさ、寂しいんだ…だから勝手に遠くへいかないでくれ」


抱きしめる強さがつよくなる、そして少し震えていた


「大丈夫です、俺レディッサ先生を置いていったりしませんから」


「リュート…」


「必ずレディッサ先生の元へ戻ってきます」


「…分かった」


レディッサ先生は離れていった、ちょっと残念な気がする…


「じゃあ行ってきます」


「ああ、行ってらっしゃい」


少し寂しそうに手を振って見送ってくれた、案外レディッサ先生も寂しがり屋なのかもしれないな


「…今度…リュートのお母さんに挨拶しに行った方がいいのだろうか…いやでもまだ…こ、恋人でもないし…ぶつぶつ…」


リュートにレディッサの独り言が聞こえる事は無かった。



「そうか、実家に帰るんだね」


「はい、しばらくは」


「それは寂しくなるな〜…」


「はは、でもそう遠くないうちにまた戻ってきますから」


「そうだね、じゃあそれまでは僕も君に勝てるようにしとかなきゃ」


「いやロディ先生は十二分に強いと思いますけど…」


「でも君には勝てない、ふふ…こんな気持ち久しぶりだ…はは…はははは!」


「失礼しました」


早くここから去ろう、うんそうしよう



歩いてると廊下でエリスと会う


「そう…戻ってしまいますの…」


「うん、しばらくは戻っては来ないかな」


「寂しいですわ…むむー…そうですわ!ちょっと待っててくださいねリュート!」


そう言ってエリスはどこかへ行ってしまった


「なんだろう?」


というか最近エリスもめちゃくちゃ綺麗になってきたよなぁ…本当王女様って感じがして…身分が違わなきゃ惚れてる自信がある


…嘘です身分が違ってもちょっと惚れかけてます


何とか友人の妹だからと抑えてるけど…



はっ…アリアのドス黒いオーラが!す、すみません浮気じゃないです…!



「おまたせしましたわ!これ、リュートにあげますわ」


エリスが持ってきたのは1輪の綺麗な紫色の花だった


「これって…」


「ええ、私とリュートが育てた花ですわ。ちょうど育っていたので1輪持ってきましたの」


「そっか…綺麗に咲いたな。ありがとうエリス、大切に持っておくよ」


「ええ、その花がある限り私とリュートは一緒ですわ」


エリスは可愛らしく微笑んだ


「うん、そうだね」


可愛いなぁ…エリスと友人ってだけで転生したかいがあったって言うものよ


「あ、あの…そ、それで…ですけど、もし良かったらその花を左の胸ポケットに入れて置いて欲しいのですわ…!」


顔を真っ赤にしてそう言ったエリス、何か意味があるのかな?


「分かった、…よし、これでいいかな?」


「ひ、ひゃい!そ、それでだ、だ大丈夫ですわ!」


何か様子が変だけど…?


「大丈夫…?顔も赤いし体調悪い…?」


「だ、大丈夫ですわ?!」


「お、おうそれならいいけど」


「じゃ、じゃあ服を脱ぐまではつけておいて下さいね!ね!」


「う、うん分かった」


「ではご機嫌様ですわー!!!」


今まで見たことの無いようなエリスの全速力のダッシュを見ながら俺は取り残されたのであった


「なんだったんだろう…?」





「あ、あわわ…言っちゃいましたわ…あのおまじないを…!リュートは気づくでしょうか…?もし気づいたら…ううー…」


全速力で自室に戻ったエリスは枕に顔を埋めていた



エリスがリュートに頼んだおまじない。それは恋人が遠くへ言ってしまう時にするおまじないで、私をどうか忘れないで、貴方をいつまでも愛しているという意味で左胸ポケットに送った花を入れて貰うのだ



エリスは母からそれを聞いており、リュートにそのおまじないをしたのであった。



「気づいてくれたら…リュートは私の気持ちに応えてくれるでしょうか…」



エリス・エルシュラ、初恋は勇者であった




その恋が実るかはいずれ分かるであろう




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