いずれ神の上に立つ者〜勇者から始まる冒険譚〜

第四十九話

次の日俺達はギルドに居た、B級最後のクエストを受ける為に。

「いよいよだな…」

「うん、このクエストを達成すればA級だ」

「頑張ってくださいね…！」

「無事に戻ってくるのよ…？」

「うん」

「おう！」

今回受けるのはワイルドベアーの討伐クエストだ

ワイルドベアーは森のちょうど中頃に生息しており、迷い込んだ者を狩り食料にしてしまう危険な魔物だ。

B級という事もあり気が抜けない相手となるだろう

「じゃあ行ってくる！終わったらA級到達パーティーしようぜ！」

「ええ、私が沢山ご馳走作るから楽しみにしててね！」

「うん、マリン姉ちゃんの料理楽しみにしてるよ」

「私も陰ながら応援してますからね？」

「はは、アリアが見守ってくれてるなら心強いよ」

「よし行くか！」

「うん！」

俺達はワイルドベアー討伐へと向かう

運命の時が近づく

「この森を抜ければ街へ着くはず…！まだ見ぬ美味しいもの待ってて…！今食べに行くからね！」

…〜…〜…〜〜〜…

「えっ？誰…？誰かいるの？」

…〜…〜〜〜〜

「あ…ああ…頭が…割れる…痛い…！」

…〜…勇…〜…〜〜せ…

「うう…やめて…！私は…！い…たい…助けて…！誰か！」

…勇者を殺せ…

「あぁ！うう…ぐぅう…」

勇者を殺せ…全て絶望に染めてしまえ…

「…勇者を…殺す…絶望に…染める…」

それでいい、さぁ勇者に絶望を！

お母さんお父さんごめんね…私帰れないみたい…

誰か…助け…て…

リュートとレミシアが出会うまで残り

0日

「ワイルドベアーがいるのってここら辺だよな」

「うん冒険者マニュアルにはそう書いてあるけど」

「気配が感じられないな、それにやけに森が静かだ」

「なんか変だね…」

なんだ、妙な胸騒ぎがする…こんなの初めてだ。ここから逃げろと俺の直感がそう言ってる

「ねぇ、1回帰ろう。何かヤバいような気がする」

「ええ…ここまで来たって言うのに〜？」

「また来ればいいじゃないか…！とにかく戻ろう！」

「お、おいリュウ！何そんなに焦ってんだよ？」

クソっ、どんどん胸騒ぎが強くなってきてる！なんなんだ一体！早くここから逃げなきゃ…！

「ちぇ〜せっかく今日でA級なれると思ったのに〜」

「クソっ…早く…逃げなきゃ…早く…」

「大丈夫かよ…？リュウ…？」

心配そうにこちらを見つめるイリス、だが俺は最早そんな事すら目に映らないぐらいに焦っていた

ここまでの死の危険を感じたのは初めてだった、下級ダンジョンでのボス戦でもここまでの激しい焦りはなかった。

自分でも何故ここまで焦っているのか分からない。ただ1つ分かるのはここに留まったら確実に死ぬという事だけだった

「行こう！イリス！」

「お、おう分かった」

イリスもリュウの異常に気づき素直に従う

でももう遅かった

もっと早く逃げてれば…もっと早く気づいていれば…

「あはっ、君が勇者なの？」

そこには俺達が討伐しようとしたワイルドベアーを片手で引きずりながらこちらに来る魔族が居た

「あ、ああ…なんで…ここに魔族がいんだよ…」

「くそ…胸騒ぎの正体はあんたか…！」

見たところ俺と同じ歳ぐらいの子供だ、ただ違うのは頭に角が生えており、白目の部分が黒く染まり瞳は真っ赤に妖しく光っていた

「あはは、貴方が勇者なんだね！じゃあ」

魔族は俺を見ながらニヤリと笑うと

「死んで？」

「リュート様！」

一瞬だった、気づけば目の前でアリアが魔族の攻撃を受け止めていた

「な…」

「ぐっ、なんて力なんですか…！」

「はは、邪魔するの？でも貴女は私には勝てないよ」

「ぐっ…！」

アリアが吹き飛ばされる、速い…見えなかった…何も

「恐怖で動けないの？…君が本当に勇者？」

「あ、…アリア…」

俺は初めて感じる死の恐怖に動けなかった。俺は勇者なのに、皆を守るため鍛えてきたのに。体がまるで石になったかのように動かなかった

「つまんない…さっさと殺して人間を絶望に染めなきゃ…あはははは」

「リュウに手の1本も触れさせねぇよ！」

イリスが魔族に蹴りを浴びせる

「弱いやつは黙ってて」

「なっ、くっう…」

魔族が瞬く間にイリスの後ろに周り蹴りを返す

「イリス！」

ダメだ動け…！動かなければ皆死んでしまう！2人は絶対に死なせやしない！！

「無属性魔法:纏い！」

「やっとやる気になったんだぁ…あはっ楽しみ」

何とか勝たなければ、アリアもイリスも今のでボロボロだ…俺がやらなければ…！

「無属性魔法:圧縮魔弾:100連！！！」

轟音をひびき渡られながら魔族を襲う、これなら多少はダメージを与えられるはず…！

「こんなものなの…ガッカリだなぁ…」

「嘘だろ…どうして…」

魔族は無傷だった、血の1滴すら流れていない

「強すぎるだろ…！」

「まだまだこれからだよ」

「ぐっ…！」

速い…反応できない…！光魔法で回復してるけど間に合わない！

「あはは！」

「クソっ！ごほっ…！」

「あはは…はぁ…」

一方的にやられるだけだった、このままじゃ俺の体力も魔力も尽きてしまう…

「あーあ…弱いなぁ…つまらない…つまらない！もう飽きたし殺しちゃお」

ぐっ…来る！

「私を追えてすらいないんだね」

いつの間に左に！

「それっ！」

「ぐうぅ…?!あ…が…うあああ…！！」

魔族の拳が纏った魔力を貫通し左腕を折る

「あ…ぐぅ…い…てぇ…！」

「脆いな〜ふふ、痛い？辛い？楽になりたい？」

魔族が笑いながら足で頭を踏みつける

「なら今楽にしてあげるね？あはは…はははは！！！」

死ぬのか…俺…守れなかった…皆…父上…母上…姉上…ミリシャ…ごめん…俺やっぱり勇者なんて荷が重かったんだ…

「…リュー…ト様…！！」

アリアの声が聞こえた…ああ…結局アリアの気持ちに応えられなかったな…

「水魔法:水流縛り！」

「あはっ…捕まっちゃった」

「風魔法:風刃！」

「おっと」

「リュウ大丈夫か！」

「リュート様…！」

「イリス…アリア…」

ボロボロなのに俺を助けてくれたのか

「逃げ…なきゃ…あいつ…には…勝てない…」

今のうちに逃げなれば…アイツにはどう足掻いても勝てない…

「それは…無理そうです…」

「あはは、簡単にちぎれちゃった。私を捕まえるならもっと丈夫にしなきゃダメだよ」

「なんなんだよあいつ…！」

「…」

「クソっ…俺が守らなきゃ…」

「…イリスさん、リュート様を連れて逃げてください」

何言って…

「アリアはどうすんだよ！」

「私はあの魔族を足止めします、だから早く逃げてください！」

「そんなの…！」

やめろ…やめろ…！そんなのダメだ…！俺が守らなきゃいけないのに！アリアが死んだら俺は！

「ダメだ…アリア…！」

「リュート様…勇者になったのならば絶対に魔族を倒してくださいね…！イリスさん！さぁ、早く！」

「くっ…う…分かった…！」

イリスが俺を背負い逃げる

「アリア…！やめろ…！イリス、俺まだ…戦えるから！」

「…うっ…ぐす…クソっ…！」

「アリアを置いてけない…！」

ダメだ…ダメだよ…皆を守らなきゃ！俺が！まだ気持ちにも応えてないのに…！嫌だ…！

「アリア…！」

「あーあ行っちゃった、ま、別に君を倒して追いつけばいっか」

「…リュート様の所には行かせません」

「ボロボロなのにそんな事言えるんだ？」

「私は…リュート様を死んでもお守りすると決めている！あなたにリュート様は傷つけさせない！」

「あっそ…でも君と戦っても面白くないしさっさと殺すね」

…ああ…どうやら私はここまでの様だ

リュート様…最後まで見守ってあげられず…すみません…

私の最愛の人…リュート様、どうか後は頼みます…