おっとり美人に骨抜きにされる日々

ムゲン

おっとり美人に骨抜きにされる日々

僕の彼女、おおとり美香さんは、我らが安平やすひら高校における指折りの美人さんだ。




 タレ目で柔和な顔には常に笑みを浮かべ、彼女が怒ったところを見た者はいない。性格はきわめて温厚で、常にニコニコしており、『おっとり』という言葉がとてもよく似合う。鳳さんがいる空間ではなぜか争いが起きず、一種の安全地帯となっている。「喧嘩が起こったら鳳さんのところへ」と一部ネタとして言われるほどだ。


 身長は平均ほどで、肩の位置で切りそろえられた髪はふわりと膨らんでいる。発育も過不足のないもので健康的に育っており、『少女』と『女性』の間、といった感じだ。




 そのような性格と容姿をしているため、男子生徒からはもちろん、女子生徒からも人気があり、彼女の周囲には笑顔が溢れている。






 そんな彼女と僕は小学校からの付き合いで、中学の卒業式が終わったあと、僕から告白をしてOKをもらい、高一現在に至る。


 ちなみにこのとき、


「え〜、わたしたち〜、もう付き合ってたんじゃないの〜?」


 と返されたことに面食らって惚ほうけていると、「そっか〜、そういえば言ってなかったね〜」と呟いたと思ったら、突然一気に近づかれて顔を両手で固定され、唇で唇を塞がれ、舌を入れられ、唇を離して至近距離で




「わたしも~、ゆいちゃんのこと好きだよ?」




 と言われ、僕の完全敗北が決まった。惚れた時点でだいぶ心奪われていたから、僕の負けなのは決まってたんだけど、さらに落とされるとは思わなかった。

え、悔しいかって? …嬉しいに決まってるでしょ、そんなの。誰だって、好きな人にそんなことされたら、嬉しいに決まってる。



ーーちなみに、このあと一悶着あったんだけど、さすがにそれを言うのは恥ずかしすぎるので、割愛させてもらうね。え、聞かせろ?嫌だよ、ホントに恥ずかしいんだから。






 というわけで、僕、小鳥遊たかなし結斗ゆいとと鳳美香さんは、高校入学前から付き合っていたから、最初の数週間が経つ頃には浸透して、告白してくる人は皆無になった。

てっきり物語みたいに、「お前みたいなやつが彼氏だなんて認めない!」とか言われると思ってたんだけど、みんな僕を見た途端に納得したような顔をして帰っていった。別に僕は自分に自信がないわけではないけど、顔を見て納得できるような容姿でもないと思うんだけどなぁ。




 僕はいわゆる童顔で、身長も170あるかどうかのパッとしない感じだ。小学校からバスケをしているから、身体は引き締まっているけど、筋肉があまりついてないため男らしさはない。


 加えて小さい頃は今よりさらに小さく、中性的な顔つきで女の子と間違われることもあり、よくそのことでからかわれたものだった。




 そんなとき、いつも美香さんだけは、僕の顔を見て、微笑んでくれた。からかうでも、慰めるでもなく、「私はゆいちゃんの顔、好きだよ?」と言ってくれた(美香さんは僕のことを「ゆいちゃん」と呼ぶ)。その笑顔を好きになって、気づけばその思いは膨らんで、今に至っている。

ーー今にして思うと、美香さんは可愛いものが好きな人だから、童顔で中性的な僕の顔は、好みどストライクだっただけなんだろうなぁ。






 閑話休題それはともかく






 僕は美香さんと付き合っているわけだけで、みんな(特に男子。女子としては美香さんに恋人がいることでライバルが減るので、感謝されている)からとても羨ましいと思われている。


 この学校には有名なカップルが数組いて、そのうちの一組が、僕と美香さんだと、親友から聞いたことがある。曰く、



「『男の娘なショタとガーリーとかマジ癒し!』だそうだ。」



とのことだった。つまり僕たちは公認されたカップルであり、僕は満場一致で“男の娘なショタ”と認定されてしまった。もっと男らしくありたかった…。






 僕と美香さんは、基本的に節度を守ってお付き合いをしている、と認識されているはずだ。学校では普通に仲良く喋っているだけで、別段イチャつくことは無い。それぞれに友人がいるので、一緒にいないということもある。クラスメイトから「お前らそんなに離れてて良いの」と聞かれたこともあるほどだ。


 みんなで一緒に授業を受けて、それぞれ部活に精を出して、帰りは時間を合わせて一緒に帰る。「これぞ青春」といった学生生活を送っている。














 ーーだから、これは一部の人だけが知る秘密だ。




「ゆいちゃ〜ん。」


 ーー周囲に誰もいなくなった途端に、声色が甘くなり、色香を放つことも。




「え〜っと、美香さん…?」


「むう〜、違うでしょ〜?」


「あ、えっと、その、、、どうしたの、?」


「むふ〜♪」


 ーーこうして自身の呼び名を強要(?)して、それを呼ばせてくることも。


 そしてなにより、




「それで〜、どうかした〜?」


「いや、その、、部屋に入っていきなり押し倒すのはやめてください…」


 ーー2人っきりになると、甘え方がエスカレートしてしまうことも。




 今僕たちは、鳳家にある美香さんの部屋にいる。というか、さっき入ったばかりだ。そして入った途端いきなり美香さんに押し倒されて、今に至る。鳳家にはよくお邪魔させてもらってるけど、その度によくこうして押し倒されている。今回は入ってすぐのことだった… 僕はそんなことしないけど、立場逆だよね、普通…








 ーー鳳美香さんは、おっとりとした雰囲気が特徴の美少女だ。しかし、こうして僕と2人っきりになると、僕を襲う肉食系女子に変身する。雰囲気そのままに、動きが獲物を狙う肉食獣のようになり、僕をひたすらに求めてくる。普段は動きも言動ものんびりしていて、そんな素振り、学校ではほとんど見せない。


 一応、この状態の美香さんを知っている人は何人かいて、その人たちしか居ないと学校でもこの状態に入ることはある。それでもやっぱりセーブしてるのか、それとも中途半端にイチャつくと余計に欲求が高まるのか、その日2人っきりになると、もう手が付けられなくなる。




 小学生の頃は、とても仲のいい友達、という関係だったと思う。それが変わっていったのは、中学に入ってからだったーー






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 当時から容姿に優れていた美香さんは、それはまあモテた。可愛らしい顔と、マイペースでゆるりとした雰囲気。守ってあげたくなるようなその姿から、学校のアイドルとして見られていた。教師からの覚えも良く、学校で美香さんを嫌いな人はいない、そう思われていた。


 だが、生徒はまだ中学生。大人でも自己を律することが難しいのに、13〜15の子供はなおのことであった。




 中学2年生の頃。美香さんは3年の先輩に告白されて、それを振った。入学してから美香さんはいろんな人に告白され、その度にお断りしてきた。なのでこのときもいつものように断ったのだが、このときは相手が悪かった。


 その人はバスケ部のキャプテンの人で、ルックスもよく、ファンの人も多かった。そのため、美香さんが振ってからそのファンの女子生徒に疎まれ、ちょっとしたいじめに発展しかかった。


 そのときは僕やバスケ部のみんな(僕と親友はバスケ部に所属していて、みんなに火消し役を頼んだ)、なにより振られた先輩本人が動いていたこともあり、比較的すぐに収束した。




 ただ、やっぱり美香さんは、しばらく少しだけ元気がなかった。一見いつも通りを装っていたけど、僕を含めた一部の人にはわかった。


 小学生の頃から美香さんが好きだった僕は、何とかしたくて、親友やクラスの女子に知恵を貸してもらって、美香さんに元気になってもらえる方法を考えた。




 それが効いたのかは分からないけど、それから美香さんは、日に日に元気を取り戻していった。そして同時に、以前より余裕があるように見えた。


 元から美香さんは、おっとりのんびりしているだけのようで、人の話はちゃんと聞いてるし、悪意も機敏に察知する。だから美香さんはこう見えて、自分から誰かに近づくことはないし、悪意には厚顔をもって対応してた。

それがこの騒動(になる前に鎮火したけど)を経て、前よりもっと悪意に図太くなった。前は流していたような悪意も拾って、倍にして返すようになった。




 そしてこの頃から、僕と美香さんの距離が、友達にしては近くなったのだったーー。






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 そして現在。


「むぅ〜、ゆいちゃん、何考えてるの〜?」


 美香さんは僕に抱きつく形で、上に覆い被さっている。制服越しでも伝わってくる柔らかさ、動くたびに強調される香り、これらがいっせいに僕を直撃し、精神を削ってくる。実際、『このまま“襲われて”気づいたら…‥』、みたいなことは何度かあって、そのたびに鳳ご夫妻(美香さんのご両親)から



「はっはっは!私たちのときと同じだなぁ。」


「孫の顔、早くみられそうで嬉しいわぁ♪」



 とか言われる。受け入れ体制が整いすぎだよね?お父さん、そんなに簡単に娘さんを任せて良いんですか?お母さんも、孫とか言わないでください。そのたびに僕を狙う美香さんの目G“ジジジッ”Aって、




「だからすぐに脱ごうとするのやめて!?」


「ほらほら~、ゆいちゃんもぬぎぬぎしようねぇ~♪」


「僕も脱がそうとしないで!?」




 いきなりスカートのジッパーをさげないで!そして僕のシャツのボタンを取らないで!?って、ちょっ、え、なんか動けなくなったんだけど。抜け出せnーー




「んっ♪」


「!?」




 ーーそうして僕は今日もまた、口で口を塞がれ、身動きも取れず、気づいたら力も入らなくなり、美香さんに蹂躙されるのであった…






 


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「すぅ〜、すぅ〜、…」


 私に食べ尽くされた現在、ゆいちゃんはわたしの隣で可愛い寝息を立てている。はわわ〜、何度見ても可愛い〜。もう食べちゃいたいくらい…。って、ダメダメ、さっき襲ったばっかりだから、ゆいちゃんがもたない。ここは我慢ここは我慢ここh…




「ん〜、みーちゃん…」


「はぅわ!?」




 …ハッ!いけないいけない。寝言が可愛すぎて、思わずまた襲ってしまうところだった。も〜、わたしのことをことをこんなに誘惑するなんて、ゆいちゃんはなんて悪魔だ〜。




 ゆいちゃんは高一で165cmと、“これからの成長に期待する”お年頃。なのだけど…


「スーッ…スーッ…」


「(か、かわいい!!!!!!)」




 お顔は童顔で中性的、髪の毛はサラサラ、物腰は丁寧。はっきり言って、ゆいちゃんは女の子よりも愛らしい。小学生の頃はよくそのことを気にしていて、男の子からいじられる(いじめまでにはいたってない)こともよくあった。せっかく可愛いのに、もったいない…。


 でも、ゆいちゃんが可愛いだけじゃない、とっても優しい男の子なのも知っている。そうしてふと、わたしは昔のことを思い出すーー






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 わたしがゆいちゃんとはじめて出会ったのは、小学校1年生から。同じクラスになって、「こんなにかわいいひとがいるなんて!!!!!!」と舞い上がっていたわたしが声をかけたのが最初だと思う。

そのときのゆいちゃんは、幼なじみで今も親友の子といつも一緒にいて、制服を見るまで「男友達にくっついてる女の子」にしか見えなかった(わたしたちの小学校は制服があったから、性別は服でわかったけど)。


 だから男の子だと知ったときはとても驚いて、「おとこのこでこんなにかわいいなんてすてきだね!」と、容姿を気にしていた人に対して言ってはいけない言葉をかけてしまった。そのときのゆいちゃんは、少しだけ悲しそうな顔をして、でもすぐにそれを取り繕って、


「ありがとう、そんなことはじめていわれたよ。」


 と返した。あれは悪いことをしちゃったなあ。でもこのおかげでゆいちゃんと仲良くなれたから、わたしとしては良かったかなあ。まあ、それを言っちゃうとにらんでくる子がいるから、言わないんだけどね。






 わたしは幼い頃から、たくさんの人から声をかけられ、気づけばたくさんの人に囲まれて過ごしてきた。ゆいちゃんみたいに“幼なじみ”とか“親友”はいなかったけど、たくさんの“友達”に囲まれて過ごしてきたから、さみしいと思ったことはなかった。

それにみんな、わたしに優しくしてくれたから、安心して学校で過ごすことができた。そして、そんな中でも、一番優しいオーラを出してたのが、ゆいちゃんだった。




 わたしはなぜか、人の感情とか性質を感じることができた。幼少期は好奇心でいろんな人に会って、なかには悪い人に危ないことをされかけたり、だまされそうになったりしたけど(ホントに危なくなる前に、パパとママが助けてくれていたから、実際に怖い思いをしたことはあまりない)、その経験もあって、相手がいい人か悪い人か、すぐにわかるようになった。






 中学校に入って、わたしはいわゆる“モテ期”というものを迎えた。小学生の頃は「お友達になりたい」って感じの目線が多かったけど、中学に入ってからは好意の中に性的なものも混じるようになって、嫌な気分になりかけた。

加えて週1のペース(体感)で知らない人から告白されるようになって、正直とても疲れた。あ~あ、思い出したら疲れてきた~。でもその後は、小学校から一緒だった友達やゆいちゃんに優しくしてもらったから、嫌な思い出、というわけでもない。






 そんなある日、わたしはバスケ部のキャプテンさんから告白された。バスケ部はクラスの子も何人か入っていて、その人がイケメンで、いい人だという話はよく聞いていた。そして実際に会ってみて、わたしのいい人レーダー(仮称)が、この人がいい人だと告げていた。いたけど…


「(でもなんだろう、このもやもや…)」


 どうにも違和感があって、結局いつものように振ってしまった。




 それからしばらくして、わたしは嫌な視線を感じるようになった。そのキャプテンさんは本当に人気だったみたいで、その視線はそこまで多くはなかったけど、全学年から数名感じられた。


 もっとも、あくまで視線を感じただけで、それに気づいたゆいちゃんや友達が動いてくれて、さらにはそのキャプテンさんもはたらきかけてくれたみたいで、いじめになることはなかった。そのことに対して、もちろんお礼は言ったけど、心のもやもやは晴れなかった。




 それからしばらく、みんながいつも以上に優しくしてくれるようになった。みんな、わたしがふわふわした性格なことを知ってる小学校からの友達だから、わたしが傷ついていないか心配してくれたようだった。

でも、それだけが理由じゃないみたいで、どうやらゆいちゃんがわたしを心配してくれたみたいで、みんなにわたしを元気づける方法を聞いて回った結果、この状況を生み出したみたい。


 話を聞いてみると、「美香さんには、いつも元気と笑顔をもらってるから」とのことだった。なんか、ゆいちゃんが落ち込んでいるときに、わたしがゆいちゃんの顔が好き、みたいなことを言って、それが心の支えのひとつになったから、そのお礼みたいなものらしい。言ったわたしが忘れていたようなこと、ずっと覚えていてくれてたんだ…






 ーー本当に、ゆいちゃんは優しいなあ~。いつもわたしが声をかけると、恥ずかしそうにしながら返事してくれるし、ある程度ならわがままも聞いてくれるし、面倒も見てくれる。本当に良い子。






「ホント、小鳥遊くんと美香ちゃん、お似合いだよね。」


「ーーえ?」






 だから、友達からこう言われて、わたしは思わず目を見張った、と思う。一瞬、何を言われたのか理解が出来なかった。その友達が続けて言う。




「だって、小鳥遊くんと美香ちゃんって、小学校から一緒でしょ?それで、この前も真っ先に動いて、美香ちゃんのこと助けてくれたでしょ?ーー小鳥遊くん、まるで美香ちゃんの王子様みたいじゃない?な~んて、」




 さすがに乙女チックすぎるかなあ、と言う友達の横で、わたしは心のもやもやが晴れていくのを感じた。


 そっか。わたしがキャプテンさんに告白されて、違和感を感じてたのってーー






「ーーなんだ。」


「え、何?美香ちゃん、どうかした?」




「わたし、ゆいちゃんが好きだったんだ。」


「…え今更?」


「え?」


「え?」




 ーーやっぱりわたしは人よりのんびりしてるんだな~、と思った。






 これがわたしにとって、いわゆる“初恋”だったため、自分の心に気づいたその日はそれはもう身体中火が出るように熱かった。とりあえず家に帰って、パパとママにゆいちゃんが好きと伝えると、二人とも大喜びだった。


鳳家と小鳥遊家は小学校1年生からクラスが一緒ということもあり、何度か会ったことがあった。そのたびにわたしがゆいちゃんのかわいさをアピールしてたから、二人ともよく覚えていたみたい。加えてゆいちゃんが優しい性格をしていたのもあり、わたしは家族総出で応援してもらうことになった。




 それからというもの、わたしは今まで以上にゆいちゃんと一緒にいるようになった。それで、わたしは今までよりもゆいちゃんとの距離を縮めることにした。ーー結果ゆいちゃんは倒れた。なんで~?




 それを友達に話すと、


「いきなり好きな人にあれだけくっつかれたら、そりゃ倒れるでしょ。」


「やりすぎ」


 と言われた。え~?ただ前から抱きついて、耳元で名前を呼んだだけなのに。でもそっか~、ゆいちゃんもわたしのことが好きだったのか~。そっかそっか~。




「…美香ちゃん、みんな気づいてたよ?」


「小鳥遊くん…」


 また周りのみんなから、あきれたような目で見られた。む~っ、みんなひどいよ~。






 そのあとみんなからの援護ももらいつつ、ゆいちゃんとの距離を詰めていった。


 中学校の卒業式のあと、わたしはゆいちゃんから呼び出された。わたしは友達からエールを送られ、うきうきとした気分でゆいちゃんのもとへむかった。それにしても、、いったいなんのようだろう?まさか、結婚のプロポーズ?え~、そんな、待ってよ~。まだわたしたち年齢条件満たしてないよ~?でもでも~、先に婚約して、ってことなら、喜んで受けちゃうよ~♪






「鳳美香さん、僕と、付き合ってもらえませんか?」


「え~、わたしたち~、もう付き合ってたんじゃないの~?」


「え!?」






 ーー告白された。“恋人になってほしい”という意味で。むむっ、これはどういうことなのか。ゆいちゃんもゆいちゃんで、似たようなことを考えてそう。わたしたちはいつも一緒で、よく笑い合って、恋人同士と大差ない日々を過ごしてきたのに…。あ、そっか。


「(告白はしたことないや。)」


 そうだ。あんまりにも近くにいたから忘れていたけど、まだわたしからもゆいちゃんからも、告白の言葉を言ったことがないや。

そっかそっか~、それは仕方ないね~。じゃあお詫びをしなくては。まさかこんなところで、ママに習った『男の人が言うこと聞いてくれる《優しくしてくれる》おまじない』を実践することになるなんて、備えは大切だね~。




「み、美香さん…?」


「えいっ♪」


「!?」




 えっと、近づいて顔を自分の前に固定して、身体をくっつけて、ゆいちゃんの唇にわたしの唇を重ねて、舌をいれて、ってなにこれすごい、とってもおいしい。可愛いだけじゃなくておいしいなんて、ゆいちゃんはなんてゆいちゃんなんだ~(軽く語彙力が低下しました)。


 ホントはもっと続けていたいけど、これじゃあしゃべれないもんね。仕方ない、いったん顔を離してと。




「!?!?!?」


 ゆいちゃんは顔を真っ赤にしてわたしを見ている。またやり過ぎちゃったかな~?ううん、これは仕方ないよね。だってーー






「わたしも~、ゆいちゃんのこと好きだよ?」


「はうっ!!」


「これからもよろしくね、ゆいちゃん♪」


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします、…」




 …ん~、なんか他人行儀だなあ~。そうだっ!




「みーちゃん」


「え?」


「今度からわたしのことは、親しみを込めて『みーちゃん』って呼んで♪」


「え”!?」


「ほらほら~、は~や~く~。」




「うっ‥‥‥み、、、みーちゃん……」




 ーーこのあとのことは、残念ながらよく覚えていない。気づいたらわたしとゆいちゃんの服はだいぶはだけていて、わたしを後ろから羽交い締めにしたり、気を失っているゆいちゃんに声をかけたりしている友達の姿があった。状況的に、ゆいちゃんのかわいさにわたしが暴走してゆいちゃんを襲い、物陰に隠れてたみんなが止めに入ったのだろう。ゆいちゃんがこんなにへろへろになるなんて……。「小さくても、体力には自信あるから!」って言ってたのに。




「ーーもう一回」


「「「「「ぜったいダメ!!!!!」」」」」


「え~?」


「このままだと小鳥遊くんがもたないよ!」


「む~っ、それは困る…。じゃあ気をつける~。」


「は~、この見た目で“受け属性”とか、小鳥遊ってやっぱすげえわ。」


「「「「「うんうん。」」」」」


「えへへ~」


「「「「「誉めてはないから!!!!!」」」」」






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 もう一度、隣にいるゆいちゃんを見る。やっぱり可愛い、そしてとっても優しい、わたしの彼氏。ただ「可愛いモノ」が好きなだけだったわたしに、恋を教えてくれた人。あなたがわたしにだくように、わたしも恩を感じている。






「ありがとう、ゆいちゃん♪」






 そう言ってわたしは、ゆいちゃんにまた、口づけをするーー








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「……ぶはあっ!」


「あ~、ゆいちゃんおはよう~」


「だからキスで窒息させて起こそうとするのやめて!?」






 ーー付き合うのってたいへんなんだなあ、と思う、結斗なのであった。

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