第33話「食事介助」

 わたしたちはメイバランに買い物代金を請求。

 その際にちゃんとお店から貰った請求書も付随し不正がないようにする。


「ついでに、先にお金を預かる場合は、預かり証にしっかり記載し、確認してもらうほうが良いぞ。ここ世界だと、小銀貨と銀貨はパッと見似ているから、銀貨を渡したつもりで小銀貨だったりすると揉め事の種になるな。俺の世界では5千円札っていう紙のお金と一万円札が色が似ていて間違えることがあったな。5千円渡したつもりで1万円だと、仕事としては事故扱いだが、利用者は許してくれるんだ。だが、逆は信用ガタ落ちの事態になるから記録と確認は自分の為にしっかりしておいた方がいい」


 それから、ユニはメイバランさんに買い物の仕方を説明し、これ以上の磔刑の被害者を出さないように、事細かに伝えたわ。


「さて、それから、食事だが、血や果汁にこれを混ぜるといい」


 スライム粉をメイバランさんへ渡し、それから、わたしが実演してみせる。


「ほぉ! 素晴らしいな。


 それから説明も終えると、作ったブラッドスライムトロミのついた血液スライムジューストロミのついた果汁を持ってクルリナさまの元へ。

 すると、部屋の中から笑い声が聞こえてくる。


「あーた、面白いわねっ」


「クルリナは真祖なのかっ! ふっ、やはりあたしが睨んだ通りだ。その気品溢れる姿! 圧倒的な魔力!! そしてなにより、その真紅の瞳!! やはり吸血鬼はそうでなくてはっ!! で、でっ、さっきの話の続きなのだが、クルリナは霧に変身してどうやって過去の勇者を打ち破ったのだ?」


「あーた、霧になったのは、もちろん、勇者を見下ろす為であって、攻撃を避けたり不意を突こうとしたわけじゃないのよ。だから、月を背に屋根の上へ立つと、こう言ってやったわ。『最後は美しいものを目に焼き付けなさい。月よりも伝説的ファビュラスなこの私を』ってね」


「クールっ!! くぅ、クルリナはめちゃくちゃクールだな!!」


 なんか、めちゃくちゃ話が弾んでいるようね。

 二人の空気感に入るのが躊躇われるけど、そぉ~と扉を開いて入室する。


 そこで、わたしの目に移り込んだのは、『まじっくりん』のぬいぐるみを抱えたリリと嬉しそうに話しをするクルリナさまだった。


「えっと、どういう状況?」


「おおっ、早かったな悪魔。これは、クルリナも『まじっくりん』が好きみたいで、ほら、そこにまじっくりんのブロマイドが置いてあったから、そこから話が膨らんで、今は昔の勇者戦の話を聞いていたところだ」


 えっ、まじっくりんって人間にも知られてるの!? いつの間に!!

 でも、まじっくりんの面白さは魔族・人間関係ないわよね!


 リリは介護で来ているのを忘れたかのように、クルリナさまの話に聞き入っていたようね。


 わたしはゆっくりとユニの方を見ると、ユニも苦笑いというか、もはや渋い顔を浮かべていたわ。


「あの、ぬいぐるみは最後返さないとな」


 小声で言った言葉は、予想外に面倒くさい事態になったと雄弁に語っていた。


「さて、気を取り直して、クルリナさん。お食事をお持ちしました」


「あら、そうなの? それじゃあ、お話はまた今度にしましょうか」


 リリは今にも、「え~」と不満の声を上げそうな顔をしていたけど、介護の仕事で来ていたのだと思い出したようで、ぐっと堪えた。

 うんうん、偉いわ。よく我慢したわね!

 もはやリリは子供のような感じよね。


「それじゃあ、ケアラがお手伝いしますので」


 わたしはユニに言われるがまま、ブラッドスライムトロミのついた血液スライムジューストロミのついた果汁を持って行く。

 スライムジュースの方はサイドテーブルに置き、ブラッドスライムの入ったコップとスプーンを手渡した。


「これはなにかしら? 色と臭いは血のようだけど?」


「こちらは、血液をムセ難くトロミをつけたものです。まずスプーンで一口飲んでみてください」


 スプーンは事前にブラッドスライムに刺さっていて少し冷えている。

 ユニによると飲み込むのに障害がある人のスプーンとかフォークとかは冷たいと口に入った感覚が分かりやすいので、体と頭がちゃんとモノを飲み込む準備がしやすくなるらしいわ。

 カレーライスのとき、スプーンを水に入れておくのと一緒って聞いたら、速攻で違うって否定されちゃったわ。

 あれは特に意味はないらしいわ。


 おっと、脱線しちゃったわね。


 クルリナさまは今はしっかりと座っているから姿勢はオーケーね。寝ているようなら体を起こさないといけないのよね。

 ユニが言うには最低でも40度は起こしてほしいって言っていたわ。で、それが無理な場合は極力起こしてから横を向いてもらうといいみたいね。

 なんか、食道の側面に通りやすくなるから、ムセるところに入りづらくなるらしいわね。


 クルリナさまはご自分で食べれるけど、こっちで介助しなくちゃいけないときは、スプーンを下方から出して首を引いて食べれる形にした方が良いって言ってたわ。

 それを聞いて、クルリナさまが飲むのを注視していると、あっ、自分で食べるときって自然とそうなっているのね!

 確かにわたしたちも何か飲むときって、やや下を向きながらになるわよね。


 ごくっ。


 クルリナさまの喉を滞りなく滑っていく。


「あら、これは飲みやすいわね!!」


 最初はスプーンでちまちま飲んでいたけど、次第にコップからそのまま飲むようになる。

 ちょっと、ハラハラとしながら見守っていたけど、問題なくブラッドスライムは飲めたようで安心。


「ふぅ。久々に生き返った心地よ。あーたたち、今日は最高の日になったわ。何か褒美を取らせないといけないわね。何がいいかしら?」


「それでしたら、クルリナさま、彼らを解放してもらえないでしょうか?」


 わたしは磔になっている吸血鬼の解放を申し出ると、少し眉間に皺を寄せた。

 あっ、もしかしてマズかったかしら?


「そんなのじゃ、褒美にならないわよ? そのオブジェにしか役に立たないので本当にいいの? 他にもあれば言いなさい」


 あれ、オブジェ代わりだったの……。

 オブジェとして磔にされたら堪らないわね。


 他に褒美って、わたしたちは人手が貰えれば充分なんだけど。

 そう思っているとリリが元気よく手を挙げた。


「はいはい! それじゃ、クルリナ。あたし、またここに来てもいいかな?」


「褒美でそれって、あーた、欲がないわね。もちろん良いに決まっているわ」


 クルリナさまは、まるで孫でも見るかのように嬉しそうに目を細めてリリにほほ笑んでいたわ。


                ※


「この度は本当にありがとうございます!!」


 メイバランは深々と頭を下げた。

 同胞も解放されたし、これからの指針も提示してもらったからか、メイバランの表情は明るくなっていた。


「もし、ケアラが何か困ったことがあればいつでも言ってくれ、魔王四天王としても、吸血鬼としても力を惜しまず貸すことを誓おう」


「大丈夫ですよ。こうして吸血鬼の人員も貸してくれてるし、わたしにはこれで充分だわ」


「そうか。だが、これから先、何か困ったことが出てくるかもしれない。そのときは声を掛けてくれ」


 それから、メイバランは小声でわたしに耳打ちしてくる。


「吸血鬼に伝わる魅了の魔法も伝授するぞ。ユニみたいなこんな良い男、そうそう居ない。すぐに手中に収めんと別のメスに取られてしまうぞ」


「なっ、なななんあな。何言ってるのよ。そ、そんなんじゃないからっ!!」


「そうか。勿体ない。それ以外にも何かあれば言ってくれ。吸血鬼族は恩には必ず報いるからな」


 わたしは速足でその場から離れると、


「おい。ケアラ。顔が赤いが大丈夫か? 風邪ならちゃんと休んだ方がいい」


「へっ? 顔赤い? き、気のせいよ!! もしくはちょっと血に参っちゃったのかも」


「ケアラも血が苦手だったのか……。それなのに、あんなに頑張ってくれたのか。ありがとう」


「い、いいって事よ!!」


 わたしはさっさとその場から立ち去りたかった。

 背後から、リリの声で「カッコイイ姉御!」とか聞こえたけど、無視!!

 さっさと魔王城へ帰るわよっ!!


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