第31話「トロミ」
「さて、まずは俺は料理長と御者に用事がある。俺が魔王を見てるから、その間にケアラは2人を呼んでおいてくれないか? ついでに料理長には例のものを持って来てくれと伝えてくれ」
例のもの? 何かユニと相談していたのかしら?
まぁ、考えても分からないから、大人しくわたしは頷くと、2手に別れた。
30分後、介護室にわたしたちは集まる。
料理長は大きな欠伸をして、退屈そう。御者さんは何を考えているのか分からず沈黙しているわね。
「すまない。待たせた」
ユニは急いだ様子で室内へ入ってくる。
「まずは料理長。例のものはあるか?」
「ああ、あるけどよぉ。いったい何に使うんだ。こんなスライム粉なんて」
スライム粉? あのスライムジュースの原料の一つよね。
確か、これに着色した果汁を入れて、スライムジュースを作っていたはずだけど。
「このスライム粉は果汁だけでなく、水分なら何でも反応するよな?」
「まぁ、油100%じゃなければ」
油って水分なの?
一応液体だけど。
「で、ユニはこれをどうするつもりなの?」
「これに水分を混ぜるとケアラも知っての通り、スライム状になる。つまりトロミがついた状態になるんだ。吸血鬼の女王クルリナさんは、むせると言っていたから、トロミをつけて、正しい姿勢で飲めばムセ難くなるはずだ」
「なに? トロミが付いているとムセ難くなるの?」
「ああ、ムセる原因は、食道、つまり口から胃までちゃんと繋がっている道以外に水分や食物が入るときに起きるんだが、さらさらした水分なんかは特に脇道にそれやすいんだ。そうなると、水は肺の方に侵入してしまい、それを出そうとしてムセる」
「ん? それだとムセるのが良い事みたいに聞こえる気がするけど……」
「ああ、ムセ自体は悪いことじゃないんだ。むしろムセないで、そのまま水分が肺に到達すると、詳しくは省くが菌の温床になって肺炎、つまり死に至るかもしれない病気になる」
「なら、ムセてるクルリナさまを治す必要ないんじゃない?」
「いや、ムセはそれが頻回に起きるのが問題なんだ。いくらムセて異物を出せるからと言って、続けば肺に入る確率はあがる。一度でも入ったらダメなんだぞ。ムセないようにするってことは脇道にそれないようにするってことだ。ムセが多いと分かった今、対策するのは当然だろ」
確かに、そうね!
「なら、さっそく、ここに血を混ぜていきましょうか!」
「よく言ってくれた!!」
あっ、もしかして、わたしが必要ってこの為っ!?
「とりあえず、お試しはトマトジュースにしよう」
スライム粉と血に見立てたトマトジュースを受け取る。
えっと、コップにジュースを注いで、それから粉を入れればいいかしら。
スライム粉を一気に入れようとしたところで、
「「ちょっと、待てっ!!」」
二つの手が止めに入る。
「ケアラさま、料理しないんだな」
「お前、料理しないな」
ちょっと、ちょっと、料理長に、ユニまで、なんでわたしが料理しないって断言するのよ!
ま、まぁ、そりゃあ、ほとんど、したことないけどさ。
だって仕方ないじゃない。朝は紅茶にジャムで済ますし、昼は社員食堂だし、夜は街の食堂か、料理長が作ってくれる、まかない料理で済んじゃうんだもんっ!
「不服そうな目をしているから、俺が代表して言うと、こういうトロミをつけるようなのを一気に入れるとダマになるんだ」
「ダマ? 何それ?」
「見せた方が早いか」
ユニはわたしのことは止めたくせに、自分はさらさらとスライム粉を入れて行く。
スプーンでスライム粉の入ったトマトジュースをかき混ぜると、粉が溶けずに固まって残るのがいくつも出来上がる。
「これがダマだ。普段見たことがないのは料理長の腕がいいからだろう」
なんか、料理長が「よせやい」って感じにニヒルな笑みを浮かべているのがムカつくわね。
「じゃあ、ダマを作らないようにするにはどうするの?」
「少量ずつ、かき混ぜながら入れることかな。俺のオススメとしては、入れる順番を変えることだけどな」
入れる順番? スライム粉から入れて、トマトジュースを入れるってこと?
ユニはわたしが思った通りに、コップにまずスライム粉を入れて、そこにトマトジュースを勢いよく入れる。
「ここで逆にちょびちょび入れるとダマになるから注意が必要だ。さて、こんなもんかな」
確かにダマもなく、キレイに混ざっているし、スライムジュース(トマト)になっているわね。
「このスライム粉の最大の素晴らしいところは味が変わらないところだな。俺のところではトロミをつけると味が濃くなるというか、苦みとか感じやすくなるから、慣れないうちは飲みづらいってのがあったけど、これはその心配もなさそうだ」
ユニは元気にそこまで話たかと思うと、ジリジリと壁際に下って行くのだけど、どうしたのかしら?
「あとは、どれだけスライム粉を入れればいいか、なんだが、普通の水分ならスプーン一杯で大丈夫そうだったんだ。だけど、血液となると、どうなるかわからん。ので、ケアラ先生、よろしくお願いしますっ!!」
終始、壁から離れないユニをよそ目に、なぜ、唯一の女子であるわたしがこんなことをしているのだろうと思いながらも、理想のトロミを付けるべく奮闘するのだった。
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