第30話「記録(昼夜逆転)」

 わたしとユニはメイバランさんに再び会う。


「完全に昼夜逆転ですね。理由はいくつか考えられますが、たぶん、夜間に寝ていることが多いのではないでしょうか?」


「うむ。こちらも仕事があって付きっきりという訳ではないからな。断定は出来ないが、そうかもしれぬ」


「では、夜の間、寝ないように話しかけたりしてあげてください。それで、まずは生活リズムを強制的に戻しましょう。あとはそれ以外の可能性も考慮して、日記をつけて頂きたいのです。どういうときに寝なかった、もしくは寝たか。悪夢を見たのか、トイレに行きたかったのか、空腹が辛かったのか、そもそも時間が分かっていないのかそれらを日記につけてください。最後のもの以外は、それらを取り除けば寝れるということなので、そのように対応してもらえば大丈夫です」


「なるほど。善処しよう。ただ、空腹は難しいと思うのだよ。女王さまは現在、まともに食事が摂れない」


「ああ、それに関しては、こちらに対応策があります」


「ふむ、ケアラが連れて来るだけあって頼もしいな」


「ありがとうございます」


 ユニは優雅に一礼すると、その場を後にした。

 ただただ、その光景を見ていることしか出来なかったんだけど、心なしかユニの立ち位置がいつもよりわたしに近かった気がしたのは気のせいよね。


             ※


「これで良かったの? 昼夜逆転に関してほとんど何もしていないけど」


「ああ。昼夜逆転を解消するには、夜にちゃんと寝て、昼に起きていることが重要……、いや、吸血鬼の場合は反対か。ともかく、正しい時間に寝て、正しい時間に起きていることが重要なんだ」


「なんか、割と当たり前のようだけど、昼夜逆転って病気じゃないの?」


「病気によって発症することもあるな。それこそ認知症に付随するときもある。ただ、今回の昼夜逆転は、時期から見て、四天王を退いて暇になっての単純な不摂生の可能性が高いかな。

だから、あとは頑張って夜中起きていてもらうのが一番だ。今回は丁度良く煩いのがいるし、リリを話し相手にさせておけば大丈夫だろう」


 なんとなく、自分が直接介護しなくてもなんとかなりそうな事案にほっとしているようにも見えるんだけど……。


「さて、夕方になって来たし、俺は一度魔王城に戻る。ケアラは一度、俺を運んで、またここに戻って来て欲しい」


「えぇっ! 吸血鬼の方が送り迎えはしてくれるって言ってたし、お言葉に甘えさせてもらえば? わたし、転移魔術苦手だし、疲れるのよね」


 そう言うと、ユニは真剣な眼差しでわたしの方を掴む。


「ケアラ、俺にはお前が必要なんだ。頼む!」


 や、やだっ。ユニったら、そんなに求められても。ま、まぁ、ユニみたいにイケメンで介護も出来て強くて頼りがいのある男に迫られるのはそりゃ悪い気はしないけど、でも、わたしたち魔族と人間だし。


「頼むっ!」


 うっ……、力強いユニの瞳は、まるで吸い込まれそうな程、魅力的で――。


「わ、分かったわよ。そこまで言うならわたしも覚悟を決めるわ!


 わたしは勢いに流され、目をつむる。

 暗闇の中、どきどきという心臓の音だけがうるさく鳴り響く。


「それじゃあ、転移魔術を使ってくれ!」


 ユニの言葉でわたしはハッとして目を開けた。

 そ、そうだった。つい、ユニに告白とかされるんじゃないかとか思っていたけど、もともとは転移魔術で送ってくれってお願いだったわよね!

 は、恥ずかしい……。

 顔が熱くなるのを感じるわ。たぶん茹ったように真っ赤になってるはず。


「おい。どうした? 大丈夫か? 具合が悪いのか?」


 心配そうに顔を覗き込んで来るけれど、いやっ! 今は見ないでっ!!

 わたしの無意識のパンチはユニの顔面を捉えた。


「ほっんとうにごめんなさい!!」


 うぅ、頭をこれでもかって程、下げて謝罪しているけど、ユニがどんな表情をしているのか怖くて見れないよぉ。


「大丈夫だ。いいパンチだった。さすが魔王の側近だな」


「申し訳ございませんっ!」


「いや、だから気にしなくていい。俺なら軽傷だしな。それより、そろそろ戻らないと魔王が心配だ。責任を感じているなら、介護の仕事を全うしてくれ」


「わかったわ。ありがとう」


 これが勇者と言われた男の優しさなのね。

 わたしったら自分のことばかり考えてっ!

 そうよね。まずは仕事をしっかりやる。それが第一よっ!!


 わたしは未熟ながらも転移魔術を駆使し、魔王城に戻った。

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