第23話「調理」
「ああ、側近殿? もしよろしければ、そこのクローゼットからわしの体を取ってもらえないだろうかのぉ?」
なんか、さっきから微妙に言葉遣いに遠慮が感じられるんだけど……。
っていうか、クローゼットに替えの肉体って、服かっ!!
そうは思いつつも、クローゼットからダースさんの肉体を取り出そうと、手を伸ばすと、
「俺がやるから」
ユニは軽々とダースさんの体を取り出す。
「いや、わたしでも軽々持てるしっ!」
「張り合うな。別に力自慢で持った訳じゃない。今の手だけで持ち上げるやり方は腰を悪くしそうだったからだ。ちゃんと全身を使って重いものは持ったほうがいいぞ」
う~む。一応わたしを心配しての行動だから許すけど、別に腕力じゃユニにだって引けをとらないんだからねっ!!
そんなこんなで、ダースさんの体が魔法陣の上へと置かれる。
「魂の転移!! 発動っ!!」
長々とした呪文を詠唱後、魔法陣が光輝く。
「新たなパワァーよぉ!!」
ダースさんの元の体は崩れ灰となると同時に、魔法陣に置かれた体がむくりと起きたと思ったら、そのまま、どしゃっと倒れた。
「ええっ!? 大丈夫ですか?」
「ふむ。永い間、クローゼットに入れ過ぎたようで、内部エネルギーが切れておる。つまり、空腹だのぉ」
「なんか、押し入れにしまっていたファービーを思い出すな」
「ファービーって、あの狂暴で防御力の高い蜂の魔獣のこと?」
もこもことした毛皮のような体毛がこちらの攻撃を防ぐのよね。かなり厄介な相手だけど、やつから取れるハチミツは絶品なのよね。
「いや、そんな魔獣がいるのか。俺の居た世界であった電気で動くおもちゃのことだったんだが……」
「魔力で動くおもちゃみたいなこと? それならこっちの世界にもあるわよ」
確かに、言い得て妙ね! 今のダースさんは久々に取り出した魔力切れのおもちゃのよう。
「あの。どうでもいいけど、何か食わせてくれんかのぉ?」
ダースさんの言葉にユニは「かしこまりました」と返事し、
「では、どういった食事がよろしいですか?」
「ふむ。なんでもいいぞ」
ああ、なんでもいいが一番困るのよねぇ!
「かしこまりました。では食材を見てから決めますね。えっと、食材は……」
ユニは食材を探しに部屋を探したけれど。
「さっき、俺たちが捨てた腐った野菜以外、何も見つからないんだが」
「これは、外のゾンビたちが何か食べれる食材を持っていないか聞き込みね!」
わたしは急いで洞窟を出ると、バイオさんに声をかけた。
「ちょうど良かった。ダースさんが空腹なんだけど、何か食べれるものないかしら?」
「あ~、ちょうど良かったです。先日ケアラさまのおかげであの部屋に入れたので、買い物の仕事をすることができましたよ。いつもはダースさまに言われて買い物するのですが、明らかに食材がなかったので、買ってきたところです。ただ、なぜかオークのバラ肉を食べたくなってしまって、ダースさまにも買ってしまいました」
オークのバラ肉ってもしかして、昨日わたしが叫んだのが聞こえてたの……。ま、まぁ結果オーライよね!
「ところで、バイオさんたちは何も食べないの?」
「自分たちは死んでいるので、別に食事は必要としません。攻撃手段が噛みつくくらいしかないので人間との戦闘のときには人肉を食べるイメージですが、あれは非常時で仕方なくやっているだけです」
「へ、へぇ、ゾンビも大変なのね」
つい、こんなこと言っちゃったけど、あの社訓の時点でめちゃくちゃゾンビ大変なのよね。死んでもゾンビにだけはならないように気をつけなきゃ!
「あっ、じゃあ、これどうぞ」
わたしは食材の入ったカゴを受け取ると、すぐにユニの元へ戻る。
「これだけあれば何でもできそうなんだが、調味料が塩しかない……。くっ、俺ができるのは残念ながら普通の主婦ができる程度の料理なんだ。せいぜい、あるもので瞬時に献立を考えられて、短い時間で調理できるくらいしか介護士は調理に精通していない。そりゃ、趣味でおせちやケーキなんかも作ったりしたが、基本調味料や材料ありきの調理なんだ」
いや、充分わたしからしたらスゴイけどっ!
なに、掃除はかなり普通だったのに、調理は最低でも、あるもので作れて、時短もできないといけないわけ!? さらに美味しいものっていうのも前提条件よね。
「塩しかないなら、まず、オークの肉を焼いて塩で味付け。このとき、焦がすと苦みもアクセントになり、塩味以外も味わえる。塩分制限とかあるヒトに対していいぞ。
さらにそこから出た油にニンニクっぽい野菜、以後、ニンニクとかこっち準拠で呼ぶぞ。ニンニクを油で焼いて、そこに塩とじゃがいも、きのこ、アスパラを入れてアヒージョっぽいヤツを。おっ! 玉子もあるから、簡単にスクランブルエッグにしよう。フライパンに卵を落としたらかき混ぜて最後に塩。
あとは蒸し野菜にしたいが蒸し器がないので、ナベにお湯を張って、ザルを引っかけてそこに野菜をおいておく。蒸しあがったら、最後に塩を軽くふる。
まぁ、こんなところだろう」
「ちょっと、待って待って!! あんた、料理は普通の主婦と同じくらいって言ったわよね? 何、この臨機応変さ。普通の主婦はここまで出来ないでしょ!!」
「何を言っているんだ? あるもので、なんとかするのは介護士の基本だし、俺の元の世界では主婦はこれくらいやっていたぞ。というか、たぶん料理長とかこれより上手く作ると思うぞ」
「も、もしかして、わたしがあんまり料理しないだけ?」
「今の反応で、そうだと判明するな」
仕方ないじゃない!! 仕事が忙しくて、料理なんて簡単に出来るやつしかやってないんだからっ!!
得意料理はシチューですって言ってみたいけど、正直なところ、得意料理は目玉焼きよ! 文句あるかぁーーっ!!
がぁ~~って言っていると、
「別に文句はないし、料理はこれから覚えればいいだろ。専門的なものを作るわけじゃないんだ。今から料理をしていけば大丈夫だ。料理が上手くなる一番のコツは愛情っていうしな。魔王のために頑張れるお前なら素質あると思うぞ」
「あ、ありがとう……」
きゅ、急にそんなこと言われたら照れるじゃないっ!!
と、とにかく、温かいうちにダースさんに出して、元気になってもらいましょ!!
わたしは急いでユニが作った料理をダースさんの元に運び、食事を摂ってもらうのだった。
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