第20話「聞き取り(ゾンビ)」

 わたしはまじっくりんちゃんと別れると、そのまま森の深部へと向かう。


「ほんとうはサインとか欲しかったけど、仕事で来てるし、さすがに職権乱用になるわよね。ま、生まじっくりん見れただけで良しとしますかっ!」


 心機一転、ダースさんの根城である洞窟へ向かっていく。

 そろそろ、ダースさんの地域のはずだけど。


「んん、確かに腐敗臭がするわね」 


 いつもなら、そんな臭いはしないし、それにそろそろゾンビの皆さんが忙しなく働いているんだけど。おかしいわね、今日は見えないわ?


 しばらく歩くと、リッチのテリトリーに入ったことを示す立て看板が見えてくる。


『休息も慈悲もない。魔王の為に働け。死すら休む理由にはなりえない』


 これがダース=キートンの社訓なのよね。完全ブラックな企業!!

 愛国者ワタニーとはよく言ったものよね! 

 あっ、ついでに言っておくと、魔王軍自体はこんなブラックな環境じゃないからっ!!

 一応完全週休2日制だし! 残業は……、い、いま、改革中よ!!


 ぶんぶんと頭を振ってから先へ進む。


「ちょっと、これ、どういうこと!?」


 そこでわたしが目にしたのは、仕事もせずに、木々にもたれ掛かって、「あ"~~」って言いながら天を仰ぐゾンビたち。


 今までは、せかせかと働いていたゾンビたちが一体なんで?

 

「ちょっ、どうしたの?」


 一番近くにいたゾンビに話しかけると、


「あ~、ケアラさま? 仕事ですか? わたくしに仕事ですかっ!?」


 さっきまで死んだ目をしていたゾンビは急にいきいきといた瞳でこちらを見つめてくる。


「えっ、いや、そうじゃないんだけど……」


「そ、そうですか。自由っていったい何をすればいいんですかね……」


 ゾンビはまた死んだ目に戻ると、どんよりとした空気を醸し出す。


「あのさ、なんで仕事をしなくなったの? なにか原因があるんじゃないかな? それを教えてもらえると助かるんだけど」


「なんだっ! やっぱり仕事じゃないですか! 今、ご案内します!! あっ、わたくしはゾンビのバイオ=イエクスです。以後お見知りおきを」


 そう言うと、バイオさんはヘルメットをかぶると、ゆっくりと歩き出した。


「では、施設を案内しながらダースさまのところまでご案内させていただきます」


 バイオさんが歩く先々にはやはり働かずただ座ったり、ぼぉーと立ったりしているだけのゾンビがいる。

 心なしか、バイオさんを睨んでいる気がするんだけど……。


「ケアラさまはこちらがなんの施設かはご存じですよね?」


「ええ。主にゴミの処理をしてくれていたわよね」


「はい。その通りです。偉大なるダースさまは、分解と再利用が十八番。その力で数々のゴミをちり芥や腐葉土に変え、また私たちのような人間時代は廃棄物か使い捨ての駒だったものも再利用し使ってくださっています」


「いや、バイオさんたちはめちゃくちゃ仕事してくれてますからもう少し誇ってもいいわよ」


「いや~、ありがとうございます。ですが、全てはダースさまのおかげですので」


 な、なんなのよ、この卑屈なまでの謙虚さは!

 これが噂に聞く、社畜ってやつなの?


「で、なんで最近は仕事をしていないの? 今まで腐敗臭がするだなんて、クレーム、一度も来なかったわよ」


「それが私たちにも分かりかねるのです。急にダースさまが命令をくださらなくなり、皆に唐突に休息が訪れたのです。ですが、もとより仕事に生きがいを見出していた我々は仕事以外、何をすればいいのか……」


「えっと、ここの仕事をそのまま継続は出来なかったの?」


「ええ、分解はダースさまだけが行えるもので、私たちは、ゴミの運搬と分解されたものの再利用の仕事を日夜しておりましたが、分解が出来て来ない今の状況では、ひとつも仕事ができず、ゴミだけが溜まっている状況です」


 どんどん、腐敗臭がキツくなってくる。

 失礼とは思いつつも、ハンカチで口元を抑える。


「ここがダースさまの洞窟です。私が先導しますので」


 バイオさんはそのまま薄暗い洞窟へ入って行く。

 夜目の聞く者じゃなければ迷いそうだけど、幸いわたしも目には自信があるから難なくついて行く。


 何回か分かれ道を経て、最奥へたどり着く。

 そこはボス部屋にふさわしく、重厚な扉によって塞がれていた。


「うっ、酷い臭い」


「ゴミはいつも、この部屋で分解作業が行われていますが、いまは、この通り」


 バイオさんが扉を開けると、そこは、ゴミの国だった。

 あまりの光景にクラッとしたけど、すぐに気持ちを立て直し、ダースさんを呼び出す。


「ダースさん! 魔王側近のケアラ=イフリーです!! 出てきてくださいっ!! 出て来ない場合、武力行使も辞さないです!!」


 わたしは拳をぎゅっと握り込む。


 そのとき、カツッ。カツッという杖をつく音と共に、ダースさんが現れた。

 痩せこけドクロに皮だけが張り付いた見た目に、ローブ姿。手には豪華な装飾があしらわれた杖を持つ。

 そして、わたしが現れたことに驚きの表情を示した。


「殺気を感じて来てみれば、どうして魔王側近がここにおる? それにこのゴミの山はなんだ? ゴミが来たら合図しろと言っておいただろ」


「ダースさま、申し訳ございません。ですが合図は何度も送っております」


 バイオさんがそう言って頭を下げるけど、まるで聞く耳を持たないようで、


「おい。魔王側近、お主もなんとか言ったらどうなんだ?」


「ダースさん、それこそ、このゴミが原因でクレームが来ているんです。今までのようなブラックなやり方でやれとは言わないですが、ゴミの分解、再利用を行ってください」


「ふんっ! 都合が悪くなれば、頭を下げればいいと思っているのだろっ!」


 わたしが話していたのに今度はバイオさんに怒りだしたわ!

 

 えぇ、どういうこと? 全然話が通じないんですけど。


 もしかして、魔王さまと同じ認知症?

 これ、わたしじゃ無理かも、助けてユニ~~!!

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