第15話「入浴(体調確認)」
ミノンちゃんのお父さんに喝を入れるはずが、なんかいい話になってから数日。
わたしたちは魔王さまの介護を行いながら日々過ごしていると、
「お~い。ケアラちゃん、いる~?」
大きな声だけど、可愛らしさあるその声はミノンちゃんのモノだった。
わたしは介護室としてぶんどった空き部屋へ招くと、紅茶を出しながら要件を尋ねた。
「どうしたの? またお父さんと何かあった?」
「うん。実はそうなのよ~。それでユニさんに相談に来たんだけど……」
室内をキョロキョロと探すように見回すけれど、当然ユニの姿はない。
現在、魔王さまの様子を見終えて、遅いお昼を摂っているところなんだけど、そろそろ戻ってくるはず……。
そう思っていると、ガチャリと扉が開いて、ユニが現れる。
「おつかれ。昼から戻ったって、ミノン? なんかあったのか?」
全員揃ったところで、ミノンちゃんは本題を切り出した。
「ユニさんとケアラちゃんのおかげで父さんの足は日常生活を送るには結構良くなったのよ。でね。そうなったら今まで億劫がっていたお風呂も入るようになったんだけど、昨日思いっきり転んじゃって思いっきり頭を強打したのよ。幸いお風呂場の床に敷いてある水切り板が全壊しただけで、大きなケガは無かったんだけどね。慎重にお風呂に入って欲しいんだけど、ほら、うちの父さんってあれじゃない」
ミノンちゃんが言おうとしていることはわかる。
ダヴさんはその勇猛果敢な性格から魔王軍の一番槍を任されるどだし。最後まで戦場で戦う姿から人間からは『不退転のダヴ』の2つ名まで付けられている程だ。
そんなダヴさんが一度転んだくらいで気をつけるような性格はしていないはずだ。
「なるほど。まぁ、介護しててどうしても風呂に入りたいってヒトはいるからな。出来うる限り安全に入浴する方法なら教えてやれるぞ」
「さすがユニさん。ありがとうっ!! やっぱり素敵な男よね~。本気で私のところに婿に来ない?」
「ちょっと、ちょっと!! ミノンちゃんは彼氏がいるんでしょ!! それにユニは魔王城になくてはならない存在なんだからっ!」
「ふふっ。冗談よ。冗談。ケアラちゃんの反応を見たかっただけ」
むむむっ。いったいミノンちゃんは何のつもりでそんな事を言ったのかしら。
ユニは魔王さまを看れる数少ない人物なんだから全力で引き留めるのは当然じゃないっ!!
「あっ、そうだ。それと、これも渡す為に来たんだった」
ミノンちゃんは、テーブルの上に一つの袋を置いた。
ユニがその袋の中身を確認すると、
「おっ。防水の手袋か! それも2つ。これで介護の安全性が上がったぞ。恩に着る。請求はあとでケアラの方にしといてくれ!」
「ええ、わかったわ。経費で落とすのね」
「さて、それじゃあ、あの日本家屋へまた行きますか」
わたしたちは、再び『ビオレ』へ向かって転移魔術を行使して飛んだ。
※
「タダでジェットコースターを味わえるっていうのは得した気分になるよな」
正直なところ、転移魔術を使うわたし自身も、若干酔うのよね。着陸の衝撃はなんともないけど、この酔った感じはいつまでもなれないわ。
それなのに、ユニはめちゃくちゃ楽しんでいるってどういうこと?
勇者は神経オカシイの? それとも転生者が?
そんな無駄なことを考えつつも、目的地であるミノンちゃんの家まで歩く。
「こんにちは。魔王城から来ました。ユニです!」
そう言って入って行くと、ダヴさんは温かく迎え入れてくれた。
「おう。ユニにケアラちゃん、今日はどうした?」
「今日は、入浴のときに安全に入る方法を教えにきました」
「ああ、その件か、だがなぁ、オレは転んだくらいじゃケガしねぇんだ。別にユニの手を煩わせることはないぞ!」
「甘いです! 確かにメリットさんはケガをしないかもしれない。ただし、それはお風呂場以外での話だっ! お風呂には何がある?」
平地と違ってお風呂にあるものって言えば、お湯かしら?
「そう、お湯だ! 転んだ先がお湯の中だったらどうする? ヒトはパニックにおちいると冷静な判断がとれないものだ。そんな状態で湯に顔が浸かったらどうなるかと言うと、そのまま溺れるんだ。ウソのように聞こえるかもしれないが、これが結構いたんだよ。他にも風呂場での転倒は怖いことが多い。気を付けるに越したことはないだろ」
「ま、まぁ、それはそうだが」
「なら、まずは安全に入浴できる条件だが、発熱していない。これは体調が良ければ大丈夫だと思って貰っていいなこっちでは。あとは血圧なんだが、計れないんだよなぁ。本当は低いと貧血の危険、高いと血管が切れたりする危険があるんだが。この世界ではこれも自己申告の体調の良し悪しで良いとするか。一応、高いと死に繋がる可能性があるから水分を飲んでから入るようにしよう。あとは飲酒はもってのほかだな。血圧も下がったり上がったりで危険だし、酔うと足も覚束なくなるからな」
「ああ、今言われたことは大丈夫だ。酒は夜しか呑まねぇし」
「オーケー。なら次は服の脱ぎ方だな!!」
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