第21話

小さな鐘型のドアベルがチリンチリンと鳴ると共にカーライルの冒険者ギルドの戸が開かれる。ランドルフと呼ばれていた男だ。続いてミリア、オースティンと入ってくる。

ミリアが警戒心を解かずに部屋の中を見渡す。オースティンはゆっくりと足元を確かめる様に歩き、それは警戒する小動物の様子に似ていた。

「おう、ここがカーライルの冒険者ギルドか。来てやったぞ」

だが、すべてはこのランドルフという男の粗忽さで帳消しだった。

カーライルの冒険者ギルドの受付には紫の髪の女性が清楚に座っている。

華奢な見た目にしては胆が座っている様で冷たい視線をランドルフへ向ける。

「ようこそ、冒険者ギルドへ」

今日、このランドルフという男は特に理由なくギルドを訪れたとの事だ。顔出しという事なのか態度の割には律儀というか、しばらくこの都市に滞在する旨を報告し、オススメの宿屋をギルド職員に尋ねたりしている。

「なぁ、しけた街だな。大した依頼も張り出されちゃいねーし。お前もショボくれたやつらじゃ満足できねーだろ。どうだい、俺の部屋に遊びに来ないか」

このランドルフ、素晴らしい美男子なのだが口を開けばお里が知れるというか、無類の女好きなのか下卑た表情が時折、美しい顔を醜く歪ませる。

上位神官職であるミリアが隣で祈りの言葉を唱える。

受付の女性から冷たい視線でため息をつかれ、手慣れたようにいなされたランドルフは舌打ちをした。

「けっ、意気地の無い野郎どもだぜ」

そう言うと共に昼過ぎのこの時間にギルドに屯している有象無象に睨みを利かせる。


3人の行動そのすべてがジョン・B・カーライルの放ったスフィアによって監視されている。カーライルの冒険者ギルドの存在事態は知っていたが、活動が俺たちがワーカーと言っていた類いで面白味がない。


スケベ男ランドルフとでもあだ名をつけてやりたいが、アイツの得物の黒鋼の大剣は大型モンスターを仕留める為の武器で対人戦向きではない。回復役でミリア、盾役のオースティンと共に大物狩りがメインだろう。それに最低限の人員しか確保していないと言うことは実入りも大きい。欲を言えばこの編成には魔術師を組み込みたいところだ。汎用性が一気に増すしからめ手だとしても小さな魔法が大きな結果をもたらす。安定感も倍増するだろう。だからと言って他のパーティーメンバーにこうした方が良い、ああした方が良いと助言するのはいただけない。ゲームでは余計なお世話として尤も嫌われていたっけ。この世界ではどうだかわからんが…


それよりも、俺の庭の世界樹がぐんぐんと育っていることをここに報告しよう。黄緑色の新緑が大きく葉を広げぷっくりとした小指ほどの大きさの果実をつけている。世界樹の種類によって実の付きかたも実の形も違う。

庭の中心の知力の苗も大きく育ち、既に白い花を咲かせている。明日には実がつきそうだ。

いやぁ、植物は良いね。心を洗われる。あれよあれよという間に大きく育ってしまったがこんなご都合主義があって良いものだろうか。ゲームの時は世界樹の鉢植えで随分苦労したものだが、庭植えではこんなにもイージーモードだ。その代わりと言っては何だが、庭は水溜まりになり蛇がうねり家の壁をトカゲが這ってるが…

まぁ、許容範囲だろう。

特に成長の速かった、掌の様に大きな銀杏の葉をした素早さの木の実を収穫し、形をためつすがめつして眺めると口に含む。

じんわりと力が身体に染みていく。

その様子は周囲から観れば、素早さの実が自ずから飛んで来ると赤ちゃんの周りをくるくる回り、口に飛び込むという奇怪な情景だ。

お気に入りのひじ掛け椅子から降りると、素早さ3というステータスを遺憾無く発揮してはいはいをしてみる。俺の影を踏ませはしないぜ。はは。

俺の肩にはドラゴンという種族の見た目大きなトカゲが股がり、風を切って颯爽と庭を眺めていた。


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