こんなデレラに誰がした

イオリ

第1話 ありふれた恋物語


 幕が上がる。始まるのはありふれた恋物語だ。


 原石の真実は、磨き上げればより儚くも切ない煌めきを覗かせ、人々のかつえた心を満たし上げる。


 麗しい青年と美しい娘。出会ったその日に彼らは恋に落ちた。月明かりを証人に、2人は常しえの愛を約束する。片方は権勢を軽やかにひるがえす名門のえいで、もう片方は貴族社会から爪弾きにされた零落の。あらゆるぜいを支配し、すべてを思い通りにできる権力者と、誇れるものは美貌だけで、富も名声もなければ家族の愛にも恵まれない貧乏人。

 身分違いの罪に恐れを抱いた娘は、青年の許から走り去る。青年の目の前に残されたは、細く小さな足を包んでいた粗末な靴。青年はその靴を頼りに令嬢を探し求めた。

 娘も名残を捨てきれずにいながら、しかし沈黙を貫いた。助けを求めず、逃げることもせず。心無い両親に痛めつけられ、薄情な婚約者に騙されしいたげられようとも、決して娘は声を上げたりしなかった。


 弱い立場の人間に救いがないことを、分かっていたからだ。


 しかし不幸なことに、愛が芽生えてしまっていた。愚かではないものの、すでに娘は青年を愛してしまっていた……。




             ――――――――戯曲『灰かぶりの娘』前口上より


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